もともと、アート作品はダイヤモンドや金と同じように、国家存亡の危機でさえ、換金可能な便利な動産なのです。ヨーロッパでは、戦火から逃れる時に宝石や金と一緒に有名画家が描いた肖像画を丸めて持って逃げたり、塩鉱山の採掘現場跡に隠したりしてきた歴史があります。大金持ちが肖像画を画家に依頼する時に、背景のスペースを広くとるのはまさかの時に、額から素早く切り取るため、と言われています。不況に左右されない動産としてのアート作品という考え方はあるのです。

中国はこれを戦略として実践した。いわば国家の富を作り出したというわけです。昨年、現代アートのオークションが活況を呈していた頃、中国の現代アートは頻繁に売買され、40代のアーティストで新作が1億円というスター級のアーティストがたくさん出てきました。国の宝物を作る、という点では素晴らしい戦略だったのではないか、と思います。

アート関係者とくつろぐ蔡國強さん(赤いノートを持っている人)
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アート関係者とくつろぐ蔡國強さん(赤いノートを持っている人)

また、昨年の北京オリンピックの開会式で話題になった巨人の足跡の花火。あの花火を担当したのは蔡國強さんという中国でもっとも有名で作品の価格が高い現代アーティストです。彼は86年から95年まで日本に住んでいて、経済的にも苦しい生活をしていました。当時の中国にとって自由な表現活動を目指す現代アーティストは危険分子だったのです。しかしアメリカ留学後、徐々にその才能を開花し、今では国際的スターになった蔡國強さんを、中国の国家的なイベント、北京オリンピックの開会式の大事な場面に登用したのです。日本ではなかなか考えられない中国の大胆な起用だと思いました。

ここで戦略的に何をしなければならないかを考えてみましょう。まず美術史に残るような新しい表現を作り、自分で作品のコンセプトを解り易く解説すること。そのコンセプトは英語のテキスト、つまり本の形で出版すること。一度にたくさんの人々が作品を見る大規模国際展に出品し、認知度を上げること。そして同時期に、アートバーゼルのようなアートフェアを含む、作品が買える場所を作ること、などが必要でしょう。

今年も6月から第53回ヴェネチアビエンナーレが始まりますが、過去の日本館代表アーティストはヴェネチアという舞台を有効に使いきっていません。前回の日本館代表の岡部昌生さんも前々回の石内都さんも、アートバーゼルに彼らの作品は見当たりませんでした。

そもそも経済先進国の日本館の予算はたったの3000万円で、アメリカやフランス、イギリスなどの1/5しかありません。過去の日本館代表のアーティスト達があの特異なヴェネチアという場所を活用しようにも予算もはなから足りないのです。本当ならば、ヴェネチアの日本館で発表するアーティストは、アートバーゼルとか、ヨーロッパの美術館やギャラリーで個展を同時開催させ、必ず売る、というやり方で、世界的知名度を上げるべきです。そういうチャンスはなかなか巡ってくるものではないからです。作品の価格が100万円だったアーティストが世界的に認められ人気が出れば、新作が1億円になる可能性があるのですから、国はそれを積極的に支援すべきであると思います。