原発問題でも御用学者が言っていたことはウソだった

私は環境経済学者で、原発のリスクやコストの問題を論じてきました。そのような人間がふとしたきっかけから経済問題に関わるようになりました。それは原発問題と現れ方がよく似ているからです。

かつては政府の御用学者が「石油がなくなるから原発が必要だ」「原発は安全だ」「コストが安い」などと主張し、それを新聞社が無批判に記事にして、多くの政治家が賛成していました。

同じように日本の財政問題についても、政府の御用学者が「1000兆円を超える借金を抱えた日本政府は破綻寸前」「だから消費税増税が必要だ」「消費税を上げても問題はない」などと主張し、それがマスコミによって無批判に拡散されています。

これはまずい状況です。なぜなら消費税増税は地震が起こる地域で原発を再稼働するようなもので、確実に人の命や健康が脅かされるからです。原発では悲惨な事故が起き、多くの人が避難を余儀なくされています。同じようにタイミングが悪い時に消費税増税が行われた場合にも、甚大な被害が出ます。自殺や過労死は増えますし、お金がなくて医療や介護のサービスを受けられない人も出てきます。いろいろな形で人の命が奪われるのです。

2月1日、衆議院議員会館で行われた「薔薇(ばら)マークキャンペーン」の記者会見。朴教授のほか、松尾匡立命館大教授などが「反緊縮」を訴えた(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「借金1000兆円説」は、IMFによって否定されている

財政の本当の状態を表す重要な事実は、きちんと報道されていません。国際通貨基金(IMF)が2018年10月に、世界の主要国政府のバランスシートを比較し、日本の「公共部門」(中央政府+地方政府+政府関係機関+中央銀行)の純負債はほぼゼロだとする報告書を公表しました(IMF Fiscal Monitor Managing Public Wealth, Oct. 2018)。これは日本経済の行方を左右する非常に重要な事実なのですが、ほとんど報じられていません。

「借金1000兆円説」は、日本の財政のごく一部を一面的に示して行われる世論誘導です。企業も政府も、その「経営状況」はバランスシート(貸借対照表)の両面(資産側と負債・純資産側)を見て判断されなければなりませんが、危機をあおるマスコミも学者もそういうことはしません。

また、日銀は政府の子会社ですから、連結決算して「統合政府」の財政状況を評価するべきなのですが、そんなことはしません。財政の一部分が一面的に示され、「1000兆円」の借金の危険性がマスコミによって伝えられ、緊縮策(財政と金融の引き締め)が常識とされてしまっているのです。それは、原発は必要で安全で安価だと多くの人々が信じていた時代を思い起こさせるものです。