心配事ばかりで疲れる、些細なことに振り回される、他人の視線ばかり気になる……。そんな人は禅の習慣を取り入れてみてはどうだろうか。スタンフォード大学やグーグル本社で禅を教える住職の松原正樹氏は、「『心配事が多い』と自分の感情に執着しないほうがいい。思考のクセや生活習慣をちょっと変えるだけで、『心の免疫力』は鍛えられる」と語る――。

※本稿は、松原正樹『心配事がスッと消える禅の習慣』(アスコム)の一部を再編集したものです。

佛母寺住職の松原正樹氏。スタンフォード大学やグーグル本社で心の鍛え方を教える。

感情に執着することが苦を生む

「Let it go(レット・イット・ゴー)」。直訳すると、「もう気にしない」とか、「手放そう」というような意味ですが、映画『アナと雪の女王』の歌の歌詞で有名になったように、「ありのままで」と考えてもらっても問題はありません。

感情に執着することが苦を生むので、日々、湧き上がる感情に対しては「レット・イット・ゴー」の姿勢がいちばんです。

禅の修行では「無になる」ことを教えていますが、修行道場に入った22歳の頃から今日まで、私は無になれたことはありません。今だからいえますが、修行中に坐禅(ざぜん)を組んでいたときは、もうすぐフラれそうな彼女とのやり取りをイメージトレーニングして、近く訪れるであろうその日に備えていました(失笑)。

後日、本当にフラれたのですが、イメトレの効果は絶大で、彼女に「なんでそんなに落ち着いているの?」と聞かれるほど、平穏な気持ちですごせました。

一緒に修行している仲間には、頭の中で碁(ご)の対局をしているという人もいましたし、とにかく人は、何も考えないでいることが無理なのだ、というのが私の気づきであり結論です。

人間が生きている以上、目に映るものを見て反応し、ふと心配が胸をよぎり、寝ているときでさえ脳は働き、夢も見ます。無の状態は、命尽きたとき。感情や思考が湧き上がってくるのを止めることはできません。

心の安定を保つ「レット・イット・ゴー」

しかし、その感情や思考にとらわれないことが、心を安定に近い状態に保つためには必要です。そのための「レット・イット・ゴー」なのです。

感情や思考は、水を注いだときにできるあぶくのようなもの。姿を見せるのは一瞬で、本来であればすぐに消えてなくなります。それなのに、私たちはわざわざあぶくをすくい上げ、消えないようにあれやこれやと手を尽くしてしまうからややこしくなる。わざわざ、自分でややこしくしているのです。

「メールの返信がこないな。何か気に障(さわ)ることしたかな」。ここで、「でも、すぐに返信できないこともあるか」と考え、レット・イット・ゴーできれば心配事の種は芽生えません。もし続けて、「あの表現が悪かったのかな。ちょっと責めるような感じが出ちゃっていたかな」と考えても、「返信を待って、それで判断しよう」とレット・イット・ゴーできればいいのです。

最初は無理やりでも、習慣にしていくうちに、これが自分の思考のクセとして定着してきます。体の筋トレと一緒で、習慣化させるのが大事です。

筋トレを続けて少しずつ筋肉がついていくと同時に、それによって基礎代謝が上がれば免疫力が高まっていき、風邪をひきにくくなるなど、病気を遠ざけることができます。

これと同じで、レット・イット・ゴーを習慣化させることで「心の免疫力」も上げていくことができると私は考えます。