時は中世――。イギリスでは、死後の「心の平和」を求めてたくさんの人々が土地を教会に寄進した。しかしそれが法律で禁止されたため、今度は信頼できる人に自分の土地を譲渡し、死後、そこから得られる収益を教会に寄付してもらう動きが広がる。これこそが信託制度の始まりだ。さらに十字軍の時代には、戦争に赴く兵士たちが国に残した家族のために、この制度を利用したという。
そうした歴史を持つ信託だが、現在「信託銀行」というと、どんなイメージだろうか? 「あまりなじみがない」という人も多いかもしれない。しかし、預金や融資など、普通の銀行と同じ業務も行っており、これに加えて文字どおり“信託業務”を営めることが大きな特徴だ。
信託とは、「自分の財産を信頼できる人に託し、自分が決めた目的や人のために運用・管理してもらう制度」。まさに、これを担えるのが普通の銀行と信託銀行の違いというわけである。何より基本にあるのは、信じて託す。そして託された側がそれをきちんと管理・運用するという“信頼関係”にほかならない。
であれば、その、「託す人の想いを、時間を超えて大切に引き継いでいきたい」という人々の普遍的な願いに立ち返り、自分たちの業務の原点を見つめ直そう。そしてそれをお客さまにも伝えていこう――。というのが今回、三菱UFJ信託銀行が動画コンテンツを制作した狙いだ。これまでTVCMなどで、生前贈与や不動産相続、資産運用などのサービスを紹介してきた同社が、もう一方で欠かせない、サービスの背景にある「人」、そして「こころ」に焦点をあてたわけである。
「こころを託す物語」と題された動画の種類は3つ。テーマは、「遺言」「不動産」「株式上場」だ。実際に観てみると、3分間という短い時間に三菱UFJ信託銀行の日々の活動がしっかり再構築されている。描かれているのは、登場人物の人生のひとこまであり、それを支える同社社員の姿。実話をもとにしたドラマだ。
例えば「相続」をテーマにしたストーリーでは、夫が遺した「遺言書」を持って、夫人のもとを三菱UFJ信託銀行の担当者が訪れる。そして一言、「……奥さま、よろしければ床の間の棚の中を、開けてみていただけますか」。するとそこからは――。
3つの動画は、内容自体はどれも具体的だが、そこには誰の心にも届くある種普遍的なメッセージが表現されていた。この「こころを託す物語」に込めた思いなどについて、三菱UFJ信託銀行の担当者は、次のように話す。
「残念ながら、多くの人に『信託銀行』の役割が知られていない。その状況を変えるため、今一度『信託』という言葉に立ち返ろう。これが今回の取り組みの基本です。そこでまず、日々の業務の中での実際のお客さまとのエピソードを現場から収集することから始めました。すると集まったエピソードの中には、思わず涙するものも多く、信託の意義を改めて実感させられました。そのエッセンスを凝縮したのが今回のストーリーにほかなりません。当社の業務は、今回の動画にも取り上げた相続、不動産業務、証券代行業務の他、企業年金の管理・運用や、最近では個人データ銀行といった新たな業務の検討にも着手するなど、多岐にわたっていますが、すべての根幹には『信じて託す』があります。インターネットやAIがいくら発展しても、そうしたテクノロジーには決して受け止められない『こころ』を託していただける存在であり続けたいと思っています」
私たちの身の回りのあらゆる商品、サービスは、機能的価値と情緒的価値という側面を持っているとされる。情緒的価値とは、商品、サービスを利用した人のこころに訴えかける価値のことだ。今回の三菱UFJ信託銀行の「こころを託す物語」は、それを巧みに表現したものといえるだろう。店舗も決して多くなく、利便性は高くないかもしれない。しかし、信託銀行員としての高い専門性だけではなく、安心して信頼される人間力をもって、顧客や社会からの期待に応えていける銀行でありたい、という思いがこめられている――。
個人のライフスタイルが多様化し、さまざまな選択が提示される時代にあって、進むべき道を共に考え、ときに導いてくれるパートナーの存在はますます大切になっている。われわれの事業は何か。何であるべきか。新たな取り組みを通じて、事業活動の原点、自らの姿勢を示した三菱UFJ信託銀行が、パートナーとしての存在感をさらに高めることができるか。これからに注目だ。
三菱UFJ信託銀行では、「こころを託す物語」の3つのムービーと4つのラジオCMを発信する特設サイトを開設しています。