日本では年間約10万人が「介護離職」に追い込まれている。離職すればは収入は激減する。たとえ介護が終わっても、正社員として復職できる人は、男性で3人に1人、女性で5人に1人だという。それでも離職してしまう人が後を絶たない。なぜそこまで追い込まれてしまうのか。多くの介護の現場を見てきたベテランのケアマネジャーに聞いた――。

年間の介護離職者は10万人で高止まりしている

7月13日に総務省が公表した就業構造基本調査によれば、2017年の「介護離職者」は9万9100人でした。この調査は5年おきに行われ、前回の2012年は10万1100人で、状況はほとんど改善されていません。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/shin28)

2015年9月、安倍晋三首相は経済政策「アベノミクス」の第2ステージとして「新・3本の矢」を掲げました。そのひとつは「介護離職ゼロ」。年間10万人が介護離職する現状を改善するため、介護施設の整備や人材育成に注力しようというわけです。しかし、その効果はほとんど現れていないようです。

近畿地方で長年ケアマネジャーをしているMさんは、仕事と介護の両立に悩む利用者を数多く見てきました。介護に専念するため、仕事を辞めたほうがいいのではないか、という相談を受けることもよくあるといいます。そんな時、Mさんは「仕事は絶対に辞めないでください」とアドバイスするといいます。

「そういう方は“今”しか見られない精神状態にあるんです。普通に仕事をするだけでもいろいろと大変ですよね。親御さんが要介護になり、そこに日々のケアが加わる。親御さんの状態によって苦労はさまざまですが、夜中に頻繁に起こされて眠れないこともある、認知症による徘徊でご近所に迷惑をかけることがあったりして気が気じゃないこともある。そのうえで仕事もしなければならない。身も心もボロボロになるわけです」

「年収激減」会社を辞めた人は必ず後悔する

親を介護する子は、今をなんとか乗り切りたい、少しでも楽になりたい、そのためには仕事をやめるしかないと思いがちになる。しかし、そうした考えは将来、後悔することにつながるというのです。

「介護はごく稀に親御さんが以前のように元気になることもないわけではありませんが、大半は看取りによって終わります。離職しても、介護をしている間は親御さんの年金や財産などで生活はできますが、看取った後は無職の自分だけが残ることになる。親が要介護になることから考えると、介護者は若くて40代、多くは50代以上が多い。その年齢で以前のような給料がもらえる職に就くのは難しい。介護が終わった後、経済的に行き詰まってしまうケースは多いのです。長年勤めてきて、スキルも知識もある仕事を続けていたほうがいい。だから、辞めてはいけないと申し上げるんです」

総務省の調査(今年6月公表)によれば、介護離職者のうち再就職できた人は43.8%で、半数以上が再就職できていません。また、明治安田生活福祉研究所らの調査(2014年発表)によれば、介護離職後に再び正社員になれた人は男性が3人に1人、女性が5人に1人で、年収は男性が556万円から341万円、女性が350万円から175万円と大幅に減っています。介護離職をすると経済的にはかなり苦しくなるのです。