「やる気スイッチ」が入らない。新しいことに挑戦する前や、なかなか仕事が手につかない時、そんなふうに思いがちです。しかし、脳科学者の茂木健一郎氏は「チャレンジに、やる気という特別な感情はまったく必要ありません」といいます。驚きの「やる気不要論」とは――。
※本稿は、『脳リミットのはずし方』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

チャレンジに「やる気」は不要!

自分の限界を超えて、新しいことにチャレンジするとき、こんなふうに考えることはありませんか?

茂木健一郎『脳リミットのはずし方』(河出書房新社)

「よし! いまこそ気合を入れてチャレンジするぞ!」
「今度こそ、やる気を起こしてチャレンジしてみよう!」

一見すれば、なんだかどんなことにもチャレンジできそうな気迫がひしひしと伝わってきます。

多くの人にとって、自分の限界を超えてチャレンジするというと、いかに「やる気スイッチ」を入れるかが、大きな問題になりがちです。

ですが、脳科学者としての私の考えは、ちょっと意外なものかもしれません。

何か新しいことにチャレンジしようとするとき、実はこの「やる気」という特別な感情はまったく必要ないのです。

何を隠そう、私が提唱しているのは、「やる気不要論」です。

なぜなら、「やる気がなければ、自分を変えることができない」「何も始められない」と思っている人はほぼ例外なく、やる気がないということを、何かを始められない言い訳にしている場合が多いからです。

大抵の場合、「やらない自分」、「やれない自分」について、「いまはやる気が起こらない」、あるいは「やる気さえ手に入れたら、やるのに」と言いがちです。ですが、これは自分に対する甘えにつながるのです。

「やる気がないとできない」は脳の幻想

「自分はやる気スイッチが入らないとやれないんだ」といった自分の勝手な思い込みは、脳科学的な見地からいっても、脳が勝手につくり出している幻想にすぎません。

これが、私たちの脳が勝手につくり出す限界、「脳リミット」がかかっている状態です。

そういった状態では、いつまでたっても何も始めることはできませんし、自分の限界を超えることもできません。

むしろやる気というのは、時に仕事や勉強でチャレンジするためにはマイナスになってしまうことさえあるのです。

また、脳リミットをはずして何か新しいことにチャレンジするというと、「これは自分にとっては大きなチャレンジなんだ」と身構えたり、意識しすぎたりしがちです。しかしそれではチャレンジ自体がうまくいかなくなってしまいます。

例えば、日頃の準備もなしに急に山登りを始めてしまうと、足の筋肉を痛めたり、ペース配分もわからず山頂まで到達できなくなるのと同じです。