公開から1年以上たった現在も上映が続いている映画『この世界の片隅に』。大ヒットしたのはなぜなのか。アニメ史に詳しい岡田斗司夫氏は「ジブリ映画とは違う手法で、徹底的にリアリズムを追求し、それに成功している」と評価します。その具体的な手法とは――。
(c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会

日本と世界で起こっているアニメの争奪戦

2018年お正月テレビ番組の見どころの1つは、テレビ局の「アニメ映画」対決でした。

テレビ朝日は「新海誠特集」と題して、元旦から新海誠作品を一挙放映。1月3日に地上波初放送となった『君の名は。』(2016年)は、番組平均視聴率17.4%(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録しました。

一方、以前からジブリと関係の深い日本テレビは、「冬もジブリ」と題して「金曜ロードSHOW!」で『魔女の宅急便』(1989年)、『ゲド戦記』(2006年)を2週連続で放映。『魔女の宅急便』は13回目の地上波放送にもかかわらず、平均視聴率は12.5%と好調でした。

ただ、日テレはジブリとのつながりを重視したことで、『シン・ゴジラ』(2016年)や『君の名は。』といった新世代の作品をテレビ朝日に取られてしまったとも言えますね(『シン・ゴジラ』は実写映画ですが、僕の見るところ、限りなく「アニメ」に近い作り方をした作品です。これについては近著『大人の教養として知りたい すごすぎる日本のアニメ』(KADOKAWA)で解説しています)。

感動して、言葉にならず、呆然とした

今、アニメ人気は日本だけでなく世界で高まっているのですが、その要因の1つに、2016年の日本製劇場アニメの大豊作があります。世界中で大ヒットした『君の名は。』は当然として、忘れてはならないのが『この世界の片隅に』の存在でしょう。

当初は日本国内で63館でしか上映されていなかった『この世界の片隅に』は、口コミで評判が伝わって上映館が増え、世界中で公開されました。興行収入も国内だけで26.4億円を達成しており、公開から1年以上たってもまだたくさんの映画館で上映されています。

僕は映画館で『この世界の片隅に』を観たのですが、上映後、僕も含めて観客は呆然(ぼうぜん)としていました。ほんとうにすごいものを観たら、人間はなかなか言葉にできなくなります。「泣く」とか「笑う」というのは、感情がまとまっていて扱いやすいけれど、すごい感動というのは、言葉にならずに呆然とするものなんです。

テレビ局も『この世界の片隅に』は欲しいところでしょうが、主人公すずの声優を務めた「のん」(能年玲奈)の事務所移籍騒動があったから、怖くて手は出せないかもしれませんね。地上波で『この世界の片隅に』を放映できるとしたらNHKでしょうか?

さて『この世界の片隅に』、ジブリ作品とは浅からぬ因縁があります。この作品は、あらゆる意味で、宮崎駿、高畑勲らのジブリ作品に対する強烈な「アンサー」になっているんですよ。