なぜきちんと手を洗っているのに、風邪をひいてしまうのか。その理由が「熱心に手を洗っていたから」とすれば、どう思われるでしょうか。75歳の医師・藤田紘一郎さんは、ほとんど石けんを使わず、水だけで手を洗います。でも手はスベスベで、風邪もめったにひきません。その理由とは――。(第1回)

※本稿は、『手を洗いすぎてはいけない』(光文社新書)の第1章「手を洗いすぎる人は、なぜ体が弱いのか?」を再編集したものです。

手洗いで風邪は予防できるか

春から夏は食中毒予防、秋から冬は風邪予防。

今や日本は、一年中感染症の予防に熱心な国になりました。そうしなければ命を落としかねないほど、私たちの国は不潔で危険な環境にあるのでしょうか。

いいえ、そうではありません。細菌やウイルス、寄生虫など目に見えないほど小さな微生物の存在におびえて、清潔に熱心になりすぎているのが、現代の日本です。

そのことは、手洗いのしかたを見るとよくわかります。「感染症予防の基本は手洗い」といわれ、手洗いの方法はたびたび熱心に指導されます。幼稚園や保育園、学校でも指導されますし、テレビや雑誌、新聞でもとり上げるほどです。

では、推奨される手洗いとは、どのようなものなのでしょうか。よくいわれる「正しい手洗い」をまとめてみました。

・時計や指輪など、手についているものを外す
・流水で手を洗う
・洗浄剤を手にとり、しっかり泡立てる
・手のひら、指の腹面をこすり合わせてよく洗う
・手の甲、指の背を洗う
・指の間(側面)、股(付け根)を洗う
・親指、拇指球(親指の付け根のふくらみ)を、反対の手でねじるようにして洗う
・指先、爪の間は、反対の手のひらの上でこするように洗う
・手首を、反対の手でねじるようにして洗う
・洗浄剤を十分な流水でよく洗い流す
・手を拭き、乾燥させる(タオル等の共用はしないこと)
・アルコールによる消毒(爪下、爪周辺に直接かけた後、手指全体によく擦り込む)

とても大変な工程です。こんなに細部にわたってていねいに洗わなければ、感染症の予防はできないのでしょうか。しかも、「2回洗いで菌やウイルスを洗い流しましょう」といわれることまであります。そうしてがんばって洗い、最後にアルコール消毒をしても、「アルコールは、ノロウイルスの不活化にはあまり効果がないといわれています」と、消毒剤には注意書きが示されています。

藤田紘一郎『手を洗いすぎてはいけない』(光文社新書)

私も試しに3日間だけ、1日3度の食事前と帰宅時の計4回、この手洗いを実践してみました。すると、どんなことが起こってきたでしょうか。

手の皮膚がカサつき、親指の爪の付け根が裂けてきました。

詳しいことは順々にお話ししますが、手を洗いすぎると皮膚の潤いが失われ、カサついてきます。これは自然の現象です。乾燥肌は「老化現象の一つ」とよくいわれますが、そんなことはありません。ふだん石けんを使わない私の手は、75歳ですがスベスベで、ガサガサなどしていなかったのです。乾燥肌の最大の原因は、「洗いすぎ」です。

そして、次にみなさんが知らない大事なことをお話しします。

洗いすぎると、人の皮膚はどんどんと「キタナイ」状態になり、病原性の弱い菌やウイルスにも感染してしまうほど、ヤワな体になっていくのです。

「流水で10秒間」だけでいい

では、私が推奨する「免疫力を強化するための手洗い」を紹介しましょう。

・両手を軽くこすりながら、流水で10秒間流す

以上です。驚きましたか。

手洗いとはこれで十分なのです。

これまで、薬用石けんなどを使って過度の手洗いをしてきた人には、私の推奨する手洗いを疑わしく感じるでしょう。もしかしたら、「流水で10秒間方式」に切り替えたばかりのときには、少々の風邪や下痢を起こすこともあるかもしれません。しかし、それはこの手洗いのせいではありません。それまでの過度の手洗いによって、あなたの免疫力が弱まり、十分に育っていないことの現れです。

ですから、多少の下痢など恐れずに「流水で10秒間方式」を続けてください。まもなく風邪を引きにくい体になっていくことを実感できるはずです。