7月2日の東京都議選での大敗北以来、安倍晋三首相が目指す憲法改正に急ブレーキがかかったという報道があふれている。しかし、本当にそうなのだろうか。いったんあきらめたように見せ掛けて、虎視眈々と「死んだふり改憲」を目指しているのではないだろうか――。
中曽根康弘元首相(左)の白寿を祝う会で、拍手を送る安倍晋三首相=5月15日、東京都内のホテル(写真=時事通信フォト)

読売に始まり、読売で終わる?

安倍氏は5月3日、読売新聞で改憲に向け「2020年に施行」を目指すと表明。その後、改憲に向けた決意を語り続けてきた。まとめると、

(1)ことし夏の間に自民党内での議論を深めて論点整理する
(2)今秋の臨時国会に自民党の改憲原案を提出する
(3)来年2018年の通常国会で、衆参3分の2以上の賛成で可決、発議する
(4)18年中に国民投票

というスケジュールになる。この通り進んでいけば、施行は19年中に可能。5月に安倍氏自身が描いた「20年施行」より速いペースとなる。いかに安倍氏が改憲に前のめりだったのかうかがえる。

状況が一変したのは7月2日の東京都議選の敗北。そして報道各社の世論調査で内閣支持率が大暴落。これを受けて安倍氏は8月3日の記者会見で、「憲法施行70年の節目で、憲法はどうあるべきか議論を深めていく必要があるとの考えから一石を投じた。しかしスケジュールありきではない」と語り、自身の発言を修正した。

翌4日の在京紙は6紙中、朝日、読売、毎日、産経、東京の5紙が1面トップで報じた。3日には内閣改造が行われている。そのニュースを脇に追いやってトップで扱われたところからも、安倍氏の発言の重大さが分かる。読売は翌5日の朝刊で「改憲案 秋提出見送りへ」という記事を掲載。読売が火を付けた改憲論は、3カ月後、読売が沈静化させるという皮肉な展開となった。

変化のきっかけは世論調査

確かに自民党内の議論はペースダウン。間もなく夏が終わりに向かおうとしていることを考えると、(1)の「夏の間に論点整理」は間に合わないだろう。実際、3日の記者会見のころは、安倍氏もかなり弱気になっていた。

しかし、その状況は変化の兆しがみえる。自民党内には「再び改憲への決意をみなぎらせ始めた」という観測が少なくない。

変化の原因は、内閣改造後に行われた世論調査である。改造では、安倍氏に距離を置いてきた野田聖子氏を総務相に、河野太郎氏を外相に抜てきしたことが評価され、内閣支持率は数ポイント向上。このことは、8日にアップした「『マジで危険』を避けた安倍首相の反省度」に詳しいので参照いただきたい。

この結果、自民党内では、「政権の支持が下げ止まったので、再び改憲に力を入れるべきだ」という声が台頭し始めている。

だが、安倍氏自身は、このような楽観的な分析をしているわけではない。むしろ世論調査の別のところに注目し、危機感を抱いている。社によって微妙に違うが、最新の調査を分析するとある傾向が出る。公明党支持層や支持政党なし層では、失われた信用をかなり回復している。そのことは安倍氏にとってはありがたい。その一方で自民党支持層は、横並びもしくは微減という状況になっている。