20世紀初頭まで、痛みを認識する場所は「視床」という脳の一部だとされていた。しかしその後の研究により、「痛み」は視床だけではなく、「ペインマトリックス(痛み関連脳領域)」といわれる脳内の様々な場所で認識されていることがわかった。この「痛み関連脳領域」は、痛みに関する「言葉」「イメージ」「記憶」「予想」によっても興奮する。いつも「腰」や「腰痛」のことを気にしているということは、常に「痛み関連脳領域」を興奮させ続けているということでもある。

モルヒネの6.5倍の鎮痛作用

「気にする」だけで「痛み」がでるの?──いや、「気にする」だけでは「痛み」はでない。それは、脳内には、過剰な興奮を鎮めるシステムが備わっているからだ。たとえば、「痛み」には、痛みを鎮めてくれる脳幹下行性抑制系というシステムが働いている。ただし、このシステムは、不安・恐怖などの感情やストレスで働きが悪くなってしまう。「腰痛」への不安が強いほど、「腰痛」を気にするほど、痛みは鎮まりにくくなってしまう。

逆に、「痛み関連脳領域」の活動を低下させる方法もわかっている。それは、報酬系といわれる部分を活性化させること。例えば、モルヒネの6.5倍の鎮痛作用があるとされているβエンドルフィンは、特に脳内の「報酬系」に多く分布する。ということは、「快感」をたくさん感じて報酬系を活性化すれば「痛み」は鎮まる。“心をワクワクさせると身体の痛みは消える”ということは科学的に説明できることなのである。 

「腰痛を治す」ということが「痛みが消える」ということであるならば、私のおすすめは“恋”をすること。なにも相手は人間じゃなくてもいい。ペットでも、植物でも、趣味でも……。あなたにとって考えているだけで心がウキウキ弾むような、好きで好きでたまらないなにか──そんなワクワクで頭の中をいっぱいにしてみてほしい。(つづく)

伊藤かよこ(いとう・かよこ)
1967年大阪府出身。東京都在住。鍼灸師。会社員時代に「椎間板ヘルニアによる腰下肢痛」の診断を受け、その後2年にわたり3度の入院と手術を経験。2000年はり師・きゅう師免許取得後、神奈川県で鍼灸カウンセリング治療院を開業。腰痛をはじめさまざまな心身面での不調に悩む多くの患者さんと対話を重ねる。2016年11月、世界初の腰痛改善小説『人生を変える幸せの腰痛学校』を上梓。現在は心と身体に関する講演や勉強会などを中心に活動。
(イラストレーション=かとうゆめこ 撮影=椎名トモミ)
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