「仕事」より「人」が優先される日本の賃金

現在、政府が強力に進めている働き方改革。「長時間労働の是正」と並ぶ目玉として挙げられているのが、「同一労働・同一賃金」による正規・非正規労働者間の賃金格差縮小です。

ところが、本連載2016年6月3日「『同一労働・同一賃金は実現できない!』本当の理由」(http://president.jp/articles/-/18165)で述べたように、そもそも日本では正社員の中でも同一労働・同一賃金になっていない点に、この問題の難しさがあります。年功(年齢や勤続年数)や家族構成など、労働内容以外の要素で決定する傾向が未だ色濃く残っています。

欧米企業の多くでは、基本的に賃金は職務・職種によって決定するのが普通です。すなわち、日本では「人」に対して給与が決まってきたのに対して、欧米では「仕事」に対して決まる給与体系(=職務給)が一般的なのです。

職務給で重要なのは、職務を適切に評価するということです。職種や職務を区分し、それぞれの責任の重さや難易度、影響度の大きさといったことを判定し、値決めする。欧米では転職によるキャリアアップも活発なため、企業は同業種や同地域における他社の給与水準を、日本以上に気にかける。他社より劣っていれば、優秀な人材を引き付けられない、と考えるからです。

欧米は『仕事』によって賃金も異なるのですから、職種ごとに賃金水準が違うのも、ごく自然なこと。生産職より技術職の方が高給であったとしても、そのこと自体は当然のこととして受け止められます。より高給を望むなら、技術を勉強して技術職に異動させてもらうか、社内で叶わなければ、他社の技術職に応募すればいいのです。

また、このようなことは先進国だけに限ったことではありません。中国企業でも、営業職と技術職、事務職、生産職では、給与水準や給与体系は大きく異なるケースが多い。ただし、中国の場合は、都市部と地方では所得格差が著しく、地域別・職種別賃金といった方が適切かもしれません。

インドでは、IT技術者になれば、平均賃金の何倍もの給与を得られるため、優秀な子どもの多くが情報工学系の大学を卒業し、ITエンジニアになることを目指します。なおかつ、国もそれを後押しします。日本がIT技術の分野で、インド・中国に追いつかれ、追いこされてきた背景には、このような事情があるのです。