管理栄養士の仕事を「女神」ととらえる

転職先は、当時はまだ黎明期のインターネットを使った通信販売を手掛ける健康食品の会社だ。ここでは、カスタマーセンターに大勢の管理栄養士を配置し、顧客の食生活にアドバイスをしていた。この時、顧客が商品や会社よりも、管理栄養士に対して非常に感謝していることに気づいたのだった。

管理栄養士が一人の顧客を継続的にサポートできる仕組みをつくってはどうか――。彼女はアイデアをまとめた。経営者になるつもりはなかったが、厚さ数cmにもなる事業計画書を見た友人から出た言葉は、「自分で起業したら」だった。“してしまったことを悔やむより、したかったのにやらなかったことのほうが、 悔いが大きい”というユダヤの格言がこのとき脳裏をかすめた。そして、友人の応援と自分の蓄えで、一歩踏み出すことを決心する。

わが国の死因の約6割を占める生活習慣病は、食事指導と生活習慣の改善によって発症や重症化を予防できるといわれている。より長く元気に生活できる結果、寿命を延ばせるならば、管理栄養士は女神のような存在だととらえ、ギリシャ神話の女神の名前から「アグライア」という会社を設立した。

その後、各社健康保険組合を通じた指導を中心に順調に成長し、2014年にはクックパッドグループへ。現在、同社には、約100人の管理栄養士が在籍し、この1年で約4000人をカウンセリングしている。

「管理栄養士の仕事は病院や学校のメニュー開発が主で、利用する人に会うことがなかなかできなかった。ここでは、一人一人とじっくり向き合え、『ありがとう』と言ってもらえる」

同社の管理栄養士の一人はうれしそうに話した。顧客だけでなく、管理栄養士の生き方も変えたのだ。高木さんの冒険はまだ続いている。

iOS/Android向けアプリ「やせる食事記録― ダイエット とるだけ」日々の栄養管理はスマホのアプリで。食事をアップすれば、管理栄養士が助言してくれる。【スマホ左】食事の写真を撮り、専用のアプリにアップする。【スマホ右】管理栄養士が食材をチェック。栄養バランスのアドバイスが届く。
 
高木鈴子(たかき・れいこ)
株式会社クックパッド ダイエットラボ 代表取締役。成城短期大学卒業。全日空ワールド(現・ANAセールス)を経てヴァージン アトランティック航空日本支社に入社。マーケティング部長を務め、マーケティング全般に関わる。2006年アグライア創業。14年クックパッド ダイエットラボに社名変更。

撮影=山田 薫