「自分が会社の経営のことを考えるなんて先のこと」と、たかをくくっていると出世や抜擢のチャンスを逃すかもしれない。すでに大企業では、密かに若い幹部候補を選抜し始めている――。

海外で活躍できるリーダーが不足

「本当にこれをやりたいと思っているの?」「いまの話では全然伝わらない!」「論理矛盾がひどすぎる!」――企業研修の会場に響き渡る講師の言葉。それは、叱責ともとれるような厳しく、激しい口調だ。

講師は外資系コンサルティングファームとグローバル企業のトップ経験者。参加しているメンバーは、課長以下の比較的若い社員たち。ダメ社員の集まりか、といえばそうではない。大企業で働く、選りすぐりの有望株たちだ。

ではなぜ、優秀な社員が激しく突っ込まれているのかというと、そこは将来のリーダー候補、経営者候補を見出す場、つまり選抜研修の場だから。

企業のニーズに応え、この選抜研修を手がけているのは、人材開発に長年実績があり、特に次代を担う経営者の育成支援に力を入れているセルム。同社の主要顧客には、メガバンクをはじめ日本を代表する大企業の名がズラリと並ぶ。じつはいま、大企業にとって、未来の幹部候補の発掘が喫緊の課題になっているというのだ。同社の加島禎二社長は次のように説明する。

セルム 代表取締役社長 加島禎二氏

「国内市場が成熟し頭打ち感が高まる中で、日本企業の目は自然と海外へ向くようになりました。しかも近年は、調達、製造、販売というサプライチェーンすべてを海外に持っていく形が増えてきたことが大きな変化です。したがって、ヒト・モノ・カネすべてをマネジメントできるリーダーや経営者が質・量ともに明らかに足りなくなっているわけです」

海外で事業展開をするとなると、従来の国内型システムや慣習が通用しないという側面も生じる。

「つまり、いきなり海外でリーダーシップを発揮しろと言っても、知識ではなく経験が足りなくて無理という現状がある。経験を積むには時間がかかる。だから有望な人材を若いうちから発掘し、チャレンジングな経験を積ませる必要性があるのです」(加島氏)

冒頭で紹介した、選抜研修での講師による挑発的な言葉も、その厳しさを伝えたいがためのこと。

「選抜研修に集まる人は、比較的ほめられて育ってきている。だから『海外へ行ったらこんなものじゃない』『修羅場では、いまのあなたじゃ通用しない』ということを、擬似的にでもわからせてあげないといけません」(同)