「まず『目的』を明確にすることが土地活用の出発点」。こう語るのは不動産コンサルタントの浦田健氏だ。土地を有効活用するための心構えと事業の組み立て方を聞いた。

“やるべきこと”は基本的に決まっている

──相続増税や低金利政策もあり、土地活用策としての賃貸住宅経営があらためて注目されています。近年の動き、市場環境などをどう見ていますか。
浦田 健(うらた・けん)
不動産コンサルタント
(株)FPコミュニケーションズ 代表取締役

明治大学商学部卒業。ゼネコンなどを経て、2002年に個人向け不動産コンサルティング会社を創業。08年、一般財団法人日本不動産コミュニティー(J-REC)を設立し、代表理事に就任。大家さん、不動産投資家の経営指導を行っており、コンサルティング実績は延べ1万件を超える。賃貸住宅経営関連の著書も多数。

【浦田】確かに相続対策として地主さんが賃貸住宅経営を始めるケースは多いですね。節税メリットはあるし、継続的な収入も得られる。ただ、今は土地オーナーだけでなく、一般のビジネスパーソンも大家業に参入し、業界は活性化しています。それだけに競争が激化し、より“経営者的な感覚”が重要な時代になったということ。アパート・マンション経営は新たな段階に入ったともいえます。

そうしたなかで強調したいのは、入り口としての「目的」を明確にすることです。収益を上げたいのか、土地を守りたいのか──。例えば相続対策としての土地活用なら「賃貸住宅を建てる」「土地を売って買い換える」「土地を担保にお金を借りて別の資産を買う」「何もしない」など複数の選択肢があります。まずは資産の“健康診断”を行い、それに基づいて処方箋を考え、それぞれのメリットやリスクを突き合わせながら、自分が納得できる選択をしていくことが大切です。その答えがアパート・マンション経営であれば、具体的にどんな物件を建てるか、検討していくことになります。

──目的や方向性を定めた上で、次に取り組むべきことは何でしょうか。

【浦田】賃貸住宅経営で成功するために“やるべきこと”は基本的に決まっています。最大のカギは「企画」が握っているといっていいでしょう。その第一がマーケティング。所有する土地の価値、可能性を知ることです。エリアに競争力があるのか。需要のある間取りはどのようなものか。さらに近隣の家賃相場や稼働率も見ていく。これらは当然のことではありますが、案外、意識を向けていないオーナーさんが少なくありません。

今の時代、インターネットを活用すれば、家賃相場は分かります。また周辺の仲介会社などに電話をすれば、人気の間取りや家賃なども教えてくれます。ただ一番いいのは、自分の足でエリアの賃貸物件を実際に見て回ること。例えば、部屋にカーテンがかかっているか、明かりがついているかどうかでおおよそ空室率もつかめます。半日も歩けばエリアのリアルな状況を把握できるでしょう。

現実を語る事業者が信頼できるパートナー

──自らマーケティングを行うことで、自分なりの判断基準を持つことができそうです。市場調査のほかにやるべきことは何でしょうか。

【浦田】次のステップは都市計画法や建築基準法など、建築関連法規の確認です。自分の土地がどの用途地域に該当するのか、建ぺい率や容積率はどれくらいかなど。この内容しだいで建物の規模や収益性が大きく変わってくる。市区役所の都市計画課などに問い合わせれば詳しく教えてくれます。

まず自分の足でエリアを踏査し、次に建築物の可能性を探る。ここまで来ると敷地内に建てられる構造物の間取りや戸数、家賃などがおおむね見えてきます。あとは具体的に事業収支計画の作成に入っていくわけです。

──専門的な知識が必要な作業ですね。

【浦田】具体的な事業収支計画については、不動産会社などの事業者から提案を受けることになるでしょう。ただ、その内容を理解できるかどうかが大事。だからオーナー側も勉強しなければなりません。先ほども言いましたが、やるべきことは決まっている。起こりうる事態や課題、その対処法はある程度見えています。要はそれを「知っている」か「知らない」かだけなんです。

事業収支計画づくりにしても、戸数、家賃、そして建築費、税金などから単純投資利回りを計算。あとは借入金を考慮すると粗利回りが出てくる。簡易的にでもそうした作業をすることで「うちの土地はいくら稼げるか」という採算性がチェックできます。得られる収入から逆算して、投資額を決める。これは不動産投資の鉄則です。