目の前の「ごちそう」に手を出さない自制心の強い人は、財布の紐もかたい。コツコツ貯めた種銭が将来何百倍にもなることを知っているのだ――。

欲望の対象に「視線を向けないこと」

前回(http://president.jp/articles/-/17376)は、「マシュマロ実験」のお話をしました。概要は……。

4歳の園児に「目の前のマシュマロ1個をすぐもらう」か、「20分間待って2個もらう」かを選ばせる、というのが実験の内容。結果はどうだったかと言えば、我慢できず1個だけもらった子が3分の2、残りの3分の1が我慢して2個もらった。実験したスタンフォード大学の教授は、園児たちのその後を追跡。欲求に打ち勝った自制心の強いグループは、欲求に負けたグループより、大学進学適正試験の点数が高く、中年時の肥満指数が低く、ストレスにうまく対処する、といった共通点があったという。

自制心、つまり「欲を制する」ことは、人生の成功に極めて大きな影響を与えるということです。とりわけ富裕層になりたい、と心のどこかで思っている読者の皆さんにとって、この自制心を働かせて種銭を貯めることは重要なミッションとなります。

安田財閥の創業者で、大正時代に国家予算の8分の1の巨富を築いた安田善次郎は著書の中で同じ趣旨のことを述べています。

「勤倹とは、単に金銭のために言うのではない。結局は自己の欲を制するということに帰するのである。人には情欲というものがあって、これが自己を捕らえようとする。それを制して身を慎み、行いを正しくし、独立独行し、人としての勤めをまっとうしてこそ、人間甲斐があるというべきだ」(『大富豪になる方法』安田善次郎)

というわけで、今回はマシュマロ実験から分かった、自制心を働かせやすくする戦略についてお話します。

マシュマロ実験を受けた4歳児のうち、3分の1はマシュマロにむしゃぶりつかないで20分間耐え切るわけですが、この4歳児たちには彼らなりの戦略がありました。

4歳児が考えた自制のための最大の戦略。それは、「マシュマロを見ない」「マシュマロを遠ざける」というものです。

誘惑に負けたグループの子は、そうした対策を取らず、実験開始直後からマシュマロを凝視したり、触って感触を堪能したり、匂いをかいだりしました。そうした子はほどなく「陥落」し、目の前の1個にむしゃぶりつきました。

一方で、マシュマロを2個もらえたグループの子は、マシュマロから視線を離したり、テーブルの端っこにわざと押しやったりしました。誰に教わったわけでもないのに、欲望の対象に視線を向けないことが自制心を保つのに役立つと理解 していました。

自制する方法として、そんなこと(見ない、遠ざける)は当たり前の行為だとお考えの読者もいるかもしれません。

しかし、われわれが生活しているのは「実験室」ではありません。実験室には、マシュマロしか置いてありませんが、実際の社会生活にはもっと多くの思考を占領する雑多な情報が あちらこちらにあります。そのような環境の中で、自制することは思いのほか難しいはずです。