日本の医療用医薬品市場において、アストラゼネカの業績は右肩上がりだ。業界順位も2012年度の12位から、本年度第3四半期(7~9月)には7位まで上昇した(※)。来年度は、6位を狙うという。業績向上は、優れた治療薬を早く届けて病と闘う人々に貢献したいという熱意の成果でもある。2013年4月より日本法人の社長を務めるガブリエル・ベルチ氏に急成長の源泉や経営者としての思いを聞いた。

アストラゼネカ
日本法人は2000年にアストラジャパンとゼネカの合併で発足。「サイエンスの限界に挑み、患者さんの人生を変える医薬品を提供する」をミッションとする。主に、消化性潰瘍、気管支喘息、高コレステロール血症、2型糖尿病、肺がん、乳がん、前立腺がん等の治療薬を製造・販売。

パイプラインの充実度は世界トップクラス

ガブリエル・ベルチ
日本法人は2000年にアストラジャパンとゼネカの合併で発足。「サイエンスの限界に挑み、患者さんの人生を変える医薬品を提供する」をミッションとする。主に、消化性潰瘍、気管支喘息、高コレステロール血症、2型糖尿病、肺がん、乳がん、前立腺がん等の治療薬を製造・販売。

アストラゼネカが事業展開する約100カ国のうち、日本は6つの成長プラットホームの一つ。対日投資額は過去2年間で1億ドル以上も増加しました。2020年まで毎年2種類ずつの新薬を上市するという目標を立て、研究開発投資にも意欲的です。患者さんの役に立ち、その結果自らも成長する。これを持続させるには、何より新薬の提供が重要なのです。

アストラゼネカが持つ新薬のパイプライン(製品化候補)にある新規化合物のプロジェクト数は現在70超を数え、グローバルでトップクラス。主なターゲットを「循環器・代謝」「呼吸器・炎症・自己免疫」「オンコロジー(がん)」に定め、なかでも世界中でアンメット・ニーズが増大するオンコロジーは重点領域です。近年、人にもともと備わる免疫システムを活用することでがん細胞を選択的に攻撃する薬が注目されており、その開発でもアストラゼネカはフロントランナー。またDNAの損傷修復のメカニズムに着目した薬も開発中で、オンコロジーのパイプラインは多様です。

充実したパイプラインの背景には、何があるのか──。重要な役割を果たしているのは、研究開発、メディカルとマーケティング部門など社内での協働、そして社外とのアライアンスです。アカデミアと積極的に手を結び、ロンドン本社はバイオサイエンス研究の中心地、ケンブリッジへの移転を進めています。一方、日本でも新薬開発の初期段階から国立がん研究センターや大学などと連携。民間企業についても、外部資源のサイエンスと商業化の提携を活発に行っています。

徹底してサイエンスを追求人材育成にも力を注ぐ

当社が掲げるバリューの一つ“We follow the science.”──つまりサイエンスの徹底追求も創薬の大きな成功要因です。

膨大な化合物から候補となる物質を探すという手法ではなく、人体や疾患を細胞や遺伝子のレベルで解明する。そこから効果的な化合物をデザインし、製品化する。だから例えば、がん細胞に対する奏効率の向上と、正常細胞への副作用の軽減を同時に満たすブレークスルーの実現に着々と近づけるわけです。

サイエンスの重視は、新薬を上市した後も続き、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)と呼ばれる社内人材も、その一翼を担います。役割は上市後の新たなエビデンス構築や適正使用の推進など。中立性を持って、サイエンスをベースに医師の疑問に答え、議論を行う存在です。社内に設けた独自のMSL認定制度は今年、一般財団法人日本製薬医学会により「販促活動からの独立性」「医学・科学性」「教育体制」の観点から適正であると国内初の認証を受けました。

MSLのみならず、あらゆる職種の社員が私たちの財産だと確信しています。能力を最大限に伸ばし発揮できるよう、社員一人ひとりが上司と一緒に開発育成プランを組んで実践します。選抜制の奨学金やリーダー候補者に対する特別なプログラムなども用意しています。経営会議で毎月、人材のレビューを行うなど、私たち経営陣が人材育成に深くコミットしていることもユニークといえるでしょう。

多様性を重んじるとともに挑戦する姿勢を求めていく

ダイバーシティの尊重もアストラゼネカの風土です。私たちの会社では年齢、経歴、性別などに関係なく、能力と成果でキャリア・アップできる。国内では37歳の最年少の営業部長(注:支店長相当)や32歳の営業課長も活躍中です。グローバルの呼吸器領域のブランド責任者として活躍している日本人もいます。

日本人社員もぜひ日本を飛び出してほしいと思います。これまで10カ国ほどで働いてきた私自身、妻子とともに日本で生活し、暮らしやすさを強く実感しています。しかし少しの勇気を持って海外へと踏み出すことで、必ずや新たな道を切り開くことができるでしょう。そう、まさに“Can-Do”の姿勢。誰にでも、どんな場面でも、新しいことにチャレンジする姿勢を私は求めます。組織の一員であっても、起業家的な精神で仕事に挑んでほしいのです。これまでにない価値は、そこから生まれるのですから。

大学で分子生物学を学んだ私は、研究活動より製薬企業での仕事を選びました。より直接、治療に貢献できる場を得られると考えたからです。1日も早くアンメット・メディカル・ニーズに応え、患者さんが病を克服し、人生が明るく変わる──。

立ち止まってはいられません。速い環境変化のなかで組織をリードするには、意思決定と行動のスピードこそ一番のカギです。私は情熱的で、現場派の経営者だと自認し、社員が迅速に解決策を見つけられるよう努めています。また社員皆が学び、成長する機会を持ち、自社のすばらしいサイエンスを患者さんにお届けするという共通の目標に向かって一丸となれるすばらしい職場にしたいと考えています。

※出典:アイ・エム・エス・ジャパン株式会社