海外でも、エコロジー的な視点を前面に出しているアーティストが出てきています。たとえば、ワインやウィスキーの鉛シールやキャップで巨大なタペストリーを作るナイジェリア出身のエル・アナツイ、都市のネオンサインや産業廃棄物を美しいインスタレーションにするアメリカ人のジェイソン・ローデス(2006年没)、そして彼よりももっと身近な日用品を繊細な素材に仕立ててオブジェを創りだすニューヨーカーのサラ・ジーなど。

ある先生がおっしゃっておられましたが、日本は縄文時代が1万年近く続いたことで、これは他の地域に比べ4000~5000年ぐらい長いそうです。森に住む生活が長かった分、日本には自然との共生意識というものが非常に強くなったのではないか、私達がアニメの宮崎駿監督の「となりのトトロ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」といった作品に強く共感を覚えるのは、日本人の中に森の中に長く住んでいたDNAがあるからではないか、とも話されていました。

伊勢神宮。内宮御正殿を西側から。©神社本庁
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伊勢神宮。内宮御正殿を西側から。©神社本庁

自然との共生という概念を考える時、代表的な例が伊勢神宮で行われている「式年遷宮」にあります。伊勢神宮には内宮、外宮ともそれぞれに東と西に同じ広さの敷地があり、20年ごとに一度、同じ形の社殿を新しく造り替えます。また、神さまの御装束、神宝も新しくし、大御神さまに新殿へ御移りいただくお祭りが「式年遷宮」です。

今から1300年前から始まり、これまで20年に一度、繰り返し行われてきたものです。なぜ20年に一度なのか、に定説はないようですが、宮大工の職人が20代で初めて式年遷宮に関わり、40代で中心的なスタッフとして汗を流し、60代で20代を教えながら参加する、という職人の技術伝承のための側面が強いらしいのです。これは宮大工に限らず、式年遷宮に関係する約800種、2500点に及ぶ、御装束、神宝類を調製する2千数百名の職人達も同じで、その中には人間国宝も含まれています。つまり文化伝承のシステムが「式年遷宮」なのです。

伊勢神宮が最初につくられた当時、既に奈良の法隆寺は建てられており、当時の技術で永久的な社殿は造れたはずです。しかし、神宮のシステムは、いつでも新しく、いつでも変わらぬ姿を求め、20年に一度、造り替えることにより永遠を創りだしたのです。世界中には永遠を目指した石造りの神殿がいくつもありますが、20年に一度生まれ変わることで永遠を目指す発想は、世界のどの国にも見られないものです。

伊勢の深い森に足を踏み入れると、誰でもが背筋を伸ばし、深呼吸をせずにはいられません。日本固有の伊勢神宮の「式年遷宮」を衝撃と共に受けとめ、絶賛したのがフランスのドゴール政権で文化大臣を務めた小説家のアンドレ・マルローでした。マルローは「富士山を作ったのは自然だが、伊勢神宮を作ったのは人間だということに私は心から感動した」と語っています。ものは滅んでいくけれども、木造の伊勢神宮は、日本人が存在しなくなるまで続くということを即座に理解したのでしょう。

伊勢神宮では毎年、植樹して美しい森を育てています。そしてこの山から流れてくる清水で、稲を育て、野菜を育てています。そして川は海に注いで、海藻や魚類を育て、塩として精製されるのです。一方、遷宮で使用されたご用材は、地震や自然災害などで被害を受けた全国の神社に譲り渡されたり、移築されたりして活用されています。自然を大切にし、そして無駄なく活用してゆく「循環型システム」がはるか昔から確立されているのです。私は、世界に誇れる日本のアイデンティティとして、この自然との共生の精神があると考えます。もちろん国家としても、長い歴史の中で培ってきた方法が地球環境問題について発言し、リーダーシップを発揮するバックボーンがあると思いますが、アーティストも堂々と自信を持って日本発のコンセプトを発信すべきだと確信しています。