日本企業を新たな「チャイナ・リスク」が襲っている。中国の独占禁止法当局が「外資たたき」に大きく傾き出したためだ。端的だったのは、中国の経済政策を担う機関の一つ国家発展改革委員会(発改委)による8月6日の定例記者会見だ。日本の自動車関連12社に独禁法違反の疑いがあり、調査に乗り出したことを明らかにした。
発改委は独アウディ、米クライスラーなど欧米完成車メーカーを輸入車、補修部品の価格つり上げで調査中と公表したばかりであり、その矛先が日本勢に向けられたことに衝撃が走った。発改委はこの会見で「日本の12社には補修部品、ベアリング(軸受け)価格で違反がある」とし、20日には違反認定した12社のうち10社に対して合計12億3500万元(約200億円)の制裁金支払いを命じたと発表した。
海外企業を対象にした中国における独禁法違反の事例としては過去最大の摘発案件となった。独禁法違反として摘発されたのはデンソーや三菱電機、日本精工などで、12社のうち日立製作所と不二越の二社は調査に協力的だったとして制裁金支払いを免れた。
これだけなら、2008年に独禁法を施行したばかりで歴史の浅い中国の当局が、ワイヤハーネス(組み電線)、ベアリングというかつて日欧米の当局が摘発した事例に倣ったと理解できる。しかし、6日の発改委の会見後にトヨタ自動車、日産自動車、ホンダが矢継ぎ早に補修部品の値上げを発表したことから、独禁法違反の調査はこれ以外に日本の完成車メーカーに及んでいることが分かった。トヨタの場合は高級ブランド「レクサス」が槍玉に挙がり、欧米勢同様に高級車狙いの姿勢がうかがえる。この点を注視すれば、中国当局が独自の判断に基づき独禁法を運用し始めたととれ、中国に進出している外資にとっては、新たなチャイナ・リスクが顕在化した格好だ。
中国当局には、外資への圧力により中国企業への技術移転を促し、国内産業を保護・育成する狙いがあるとされる。その意味で、すそ野の広い自動車が狙い撃ちされたとの見方は強い。日本の部品メーカーが今回摘発された点については、完成車メーカーとの強い日本の「系列」関係が中国企業への部品供給を阻害している状況を問題視したと報じた現地紙もあった。
中国の独禁法は違反事例に売上高の一定比率を制裁金として科す欧州型の制度を採用しており、その額は多額に膨らむ。現地紙は、アウディには18億元が科せられる見通しとも伝えた。中国当局は、今回の日本の自動車関連12社の摘発を「中国の消費者の利益を損なう行為」として、国内外企業を問わず、独禁法を厳正に運用する姿勢を示す。ただ、自動車に限らず多方面で外資の摘発を加速しており、日本勢を含め中国に進出している外資は、新たな脅威に戦々恐々としている。