解決が後退している問題もある

現実がどうなっているかというと、この中で、すでに支援が実現しているものもある。まず出産の前後に医療機関に支払うお金は、心配することはなくなった。高額な病院で産まない限り、自費負担は限定的だ。乳幼児の医療も、自治体によって差があるものの就学前は大体カバーされ、保険診療の窓口負担がない。子どもが小さい時期については支援が増えつつあり、保育料もこれから2人目の軽減、3人目以降の無償化が始まる。

そして、実は待機児童も全国的な問題とはいえない。地域によっては余裕があるので、居住地域の様子を自治体に問い合わせることをおすすめしたい。また、待機児童が多い地域も、今後の改善は期待できる。国が「待機児童解消加速化プラン」を作成しており、消費税増税分の一部を財源とすることも決定しているからだ。

それにひきかえ、残念ながら動きが見えなかったり、むしろ後退をしているようにさえ見えるのは、高等教育の費用負担軽減、税制上の優遇、育児手当高額化など男性たちが「これがあればとても有効なのに」と感じた部分に集中している。

たとえば次年度から公立高校の費用負担軽減は本当に困窮している家庭に対して手厚くなるが、その財源は所得制限により捻出する形となり、少子化対策としては後退になった。大学は、授業料自体も上がっており低学歴化の兆しが出てきている。育休も正規雇用と非正規雇用の間には大変な格差があり、長時間労働の抑制も出口は見えない。このあたりが重石になって、産もうという人が増えないのだろう。

しかし、いつまでも負担感に押しつぶされていると、人生の妊娠可能な時間は逃げていってしまうという現実もある。

教育費をかけるタイミングが早くなっている

教育費については、子どもが生まれる前から貯金をすることで不安が解消できる。これから妊娠する人なら負担が急増する高等教育の時期まで時間はたくさんあるし、高齢出産で教育費のピークが老後の資金作りの時期と重なっても安心だ。

ただ、ファイナンシャルプランナーで『子どもの年代別大学に行かせるお金の貯め方』という著書もある氏家祥美さんは「子どもに多額の教育費をかけ始める時期がどんどん早くなってきている」と警告する。「近所の公立校が荒れていると聞いたから」などささいなことで私立小学校などに入ってしまうと、そのまま中学、高校、大学とすべて私立校に通うことになり途中で払いきれなくなる怖れがあるという。

そうした専門家のアドバイス、経験者の話によって不安をやわらげたり、本当に大変な事態に陥るリスクを軽減することはできる。自分にできる努力、くふうはやっていかなければならない。

ただ、国が子どもを産む人を応援することは、どの国でも未来への投資としておこなっていることだ。学費の高い私学も、大学ともなれば実際にはやむを得ず行くケースが多い。日本は国際的に見ても家族支援の予算が際立って少なく、バランスの良い少子化対策がとられていない。男女を超え、そして雇用形態、子どもの人数なども超えてさまざまな人が支援の在り方について関心を持ち、自分に合ったものを求めていくことは大切だ。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com