恋愛をしない若者が増えている。マーケティングライターの牛窪恵さんは「恋人は面倒だから要らないけれど、結婚はしたいという若者が多い。恋愛と結婚を切り離すことで結婚を増やすことができるのではないか」という――。

※本稿は、牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

恋人は欲しくないけど、望むのは恋愛結婚という矛盾

2014年の内閣府の調査では、「恋愛しない」若者の実態が明らかになりました。

20~30代未婚で、かつ同時点で恋人がいない男女(約6割)のうち約4割(37.6%)が「恋人が欲しくない」と答え、その最大の理由は「恋愛が面倒(だから)」(46.2%)でした(同「結婚・家族形成に関する意識調査」)。

令和のいまも、恋愛に消極的な若者が目立ちます。同じく内閣府の白書(’22年)を見ると、20~30代独身女性の約4人に1人(24.1%)、同男性の4割弱(37.6%)が、いま恋人がいないどころか、過去にも「交際経験ナシ(恋人0人)」の状態です(図表1)(同「男女共同参画白書」)。半面、同年の時点で8割以上は、いまも「いずれ結婚するつもり」だと考えています。

【図表1】これまでの恋人の人数
出所=『恋愛結婚の終焉

つまり、若者たちは少なからず「恋人は要らない」「恋愛は面倒」だと考えながら、彼らの8割以上が望む「結婚」の大半は、いまも「恋愛結婚」だという現実があるのです。

たとえるなら、「受験勉強や入試は、面倒だからしたく(受けたく)ない」、でも「○○大学には入学したい」と言っているようなものです。明らかに矛盾しています。

屋外で手をつないでいるカップル
写真=iStock.com/PeopleImages
※写真はイメージです

「恋愛せよ」と責め立てても意味がない

そんななかで、国や社会が、彼らに対し「重い腰をあげて恋愛せよ」と責め立てても意味がないと考えるのは、私だけでしょうか。

一方、「恋愛に熱心でないなら、いっそ教育現場で教えよう」とする識者もいます。

成蹊大学文学部の小林盾教授も、その一人です。彼は’22年、内閣府の研究会(*1)において「現代の恋愛チャンスには、格差がある」とし、その是正に向けて、教育内容に「壁ドン」などを組み込むことを提案しました。

壁ドンとは、男性が壁を背にした女性の前に立ちはだかり、壁にドンと手をかけて顔を近づけることです。少女漫画などで「胸キュン」の代表的な恋愛シーンとして描かれますが、早稲田大学国際教養学部の森川友義とものり教授は、小林教授の提案に「(壁ドン教育は)人によってはセクハラ(になる)」とコメントしました(’22年 「ABEMAヒルズ」AbemaTV、10月20日放映)。

小林教授の思いも理解できますが、森川教授が言う通りでしょう。恋愛の原理だけならともかく、ハウツーまでとなれば、恋愛に興味がある学生にしか教えられません。それを強制的に広く行なえば、ハラスメントに繋がりかねず、恋愛の実践方法を教育現場で教えることには無理があるのです。

*1 2022年 男女共同参画局「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」

「結婚と恋愛を切り離す」理由

① 考え方次第で解決できるから

それでも若者たちの8割以上は、まだ結婚への意欲を捨てていません。そこで私は、あえて「結婚と恋愛の切り離し」を提案することにしました。令和のいま、スピード感も重視してこの提案を行なう理由は、おもに3つあります。

1つ目は、結婚における「結婚したい」「でも恋愛が面倒」は、先ほど挙げた「○○大学に入りたい」「でも入試や勉強が面倒」より、はるかに解決しやすい課題だからです。

仮に入試(勉強)が面倒な場合は、入学したい○○大学で「推薦など別のシステムによる入学を許可しているか否か」を調べあげ、入試以外の手段がなければ即アウトでしょう。ところが「恋愛結婚」は、システム(制度)ではなく、単なる“概念”です。本人が「恋愛」という通過儀礼にこだわらず、「恋愛以外の要素(感情や決定基準)を、結婚に発展させることはできないか」などと考え、それを実行すればいい。つまり本人の考え方次第で、今日からでも解決できる問題なのです。

② 「結婚=恋愛結婚」ではないから

2つ目の理由は、「恋愛結婚」のベースにある「ロマンティック・ラブ・イデオロギー(ロマンティック・ラブ)」、すなわち「恋愛・結婚・出産」を三位一体だとする概念が根付いてから、日本ではまだ半世紀程度の歴史しかないからです。

詳細は本書で述べていますが、今日私たちの多くが“常識”だと考えて疑わない「恋愛結婚」も、60~70年前の日本では、大いなる“非常識”でした。それなのに令和のいま、いつまでも当たり前のように「結婚=恋愛結婚」だと考え、無理にでも「恋愛しなければ」と焦る若者たちを見ると、お節介ながら「無理しなくていいよ」と言いたくなります。

恋愛のリスクが顕在化し、恋愛以外の「もっと楽しいこと」(選択肢)が増えれば、あえて面倒な恋愛を選ぼうとしないのも当然でしょう。そのうえ、恋愛結婚のベースにある「ロマンティック・ラブ」の概念は、既に’90年代初旬から、機能不全に陥っていたとも見られています。

それなのに、令和のいまも「恋愛しなければ結婚できない」とする昭和の価値観を若者に強いるのは、あまりにも酷なのではないでしょうか。

結婚
写真=iStock.com/Vasil Dimitrov
※写真はイメージです

「いきなり結婚族」の増加

③ 「早婚願望」が高まっているから

3つ目の理由は、この10年の間に、ゆとり世代(筆者定義。’88~’94年生まれ/現29~35歳)やZ世代(同。’95~’04年生まれ/現19~28歳)の未婚女性の間で「早婚願望」が顕著に高まっており、彼女たちの一部が「恋愛と結婚は別」などと口にし始めたからです。

マスメディアも’16年ごろから、交際を経ずに結婚する「交際0(ゼロ)日婚」や「スピード婚」の特集を組むなど、若者の早婚願望を報道するようになりました。同年11月24日放映の『クローズアップ現代+』(NHK総合)では、恋愛プロセスを飛ばして結婚を目指す若者を「いきなり結婚族」と紹介し、大いに反響を呼んだほどです。

若者の早婚願望は、複数の調査結果からも分かります。三菱総合研究所が20代の未婚男女に「30歳までに結婚したいか」を聞いた調査で、「YES」と答えた男女の割合が、男性では’16年に、女性では’17年に、いずれも上昇に転じました。’17年における同回答は、男性で約5割(50%)、女性で約7割(68%)で、女性のほうが約2割多い様子も見てとれます(図表2)(’11~’17年 同「生活者市場予測システム(mif)」)。

【図表2】「30歳までに結婚したい」とする人の割合
出所=『恋愛結婚の終焉

妊活ブームで結婚への焦りが強化された

また、ある情報サイトが大学生(含・短大生)に行なった調査では、「25歳前後で結婚すること(早婚)」に「メリットを感じる」と答えた男女が、全体のほぼ半数(49.8%)にのぼりました(’18年 ウエディングパーク「『若者の恋愛結婚観』に関する実態調査」)。国立青少年教育振興機構の調査結果でも、20~30代の未婚者、とくに女性で「早く結婚したい」と答えた割合が4人に1人を超え(25.5%)、男性(12.1%)の2倍以上に及んでいます(’16年 同「若者の結婚観・子育て観等に関する調査」)。

こうした傾向には、’11年以降、大学など教育現場でも強化されるようになった「キャリア教育」や、近年高まりを見せる「妊活(妊娠に向けた活動)」ブームが、少なからず影響しているでしょう。とくに妊娠については、「不妊治療」を受ける先輩や上司を目にするなどし、「35歳までに一人目(の子)を産まないと」などと焦る気持ちが高まり、「結婚も早いほうがいい」と(出産を)逆算して考える女性が、明らかに増えた印象です。

なにしろ、昨今は「36歳未満と36歳以上の女性を比べた場合、同じ20個の卵子があっても、赤ちゃんの誕生に結びつく確率が顕著に減少する(約70%→約50%)とみられる(*2)」といった残酷な統計確率まで示されるようになりました。出産の「期限」が“見える化”されたことで、「タイムリミットが近づくのが怖い」と焦る女性も、決して少なくないのです。

*2 日本産科婦人科学学会サイト/ A Cobo, et al: 2018 Elective and Onco-fertility preservation, Hum Reproduction, 33, (12)

恋愛力より冷蔵庫の余りものでご飯を作る能力

もっとも、同じ統計を見れば、年齢が上がるにつれて妊娠しにくくなる原因は、男性にもあることが分かります(本書の第5章で詳しく述べています)。ですが、正確なエビデンスを知る男性は、女性よりはるかに少ないでしょう。だからこそ、早婚願望は女性を中心に目立っており、「ぐずぐず恋愛なんかしていられない」「恋愛と結婚は別」と割り切る女性の声が少しずつ聞こえるようになってきているのです。

たとえば20代女性が洩らす、次のような声です。

「結婚で大事なのは、生活を続けられる『サステナビリティ(持続可能性)』でしょう。恋愛みたいな一過性の楽しみは、学生時代に済ませたから、必要ないんです」(24歳女性)
「オシャレなレストランに詳しい男性は、結婚後に浮気するし、冷蔵庫の余りもので子どものご飯を作る能力もない。“恋愛力”なんて(結婚に)邪魔なだけ」(26歳女性)

冷蔵庫で食べ物を見ている人
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです

さらに最近は、10代の女子高生までもが「結婚は生活だから、見た目がカワイイとかじゃなく、私の内面をキチンと評価してくれないと」などと言います。

都内の進学高校に通うユミさん(16)もその一人です。「私は一生働き続けたいタイプ」だといい、「結婚したら私も、稼いだお金を半分、家計に入れる」とのこと。その代わり、未来のパートナーには家事や育児をシェアして欲しい、結婚後は家族でレジャーも楽しみたいから、「土日が休日でない男性は、恋愛止まりだと決めている」といいます。

さすがに“出産年齢”を意識しない男性は、そこまで割り切れていない印象です。

それでも、博報堂生活総合研究所の調査で「恋愛と結婚は別なものだと思う」と考える人の割合を見ると、「YES」と考える男性が最も多いのは20代(52.2%)で、最も少ない50代(41.1%)を1割以上、上回りました。20代女性ではさらに多く(59.5%)、最も少ない40代(43.6%)を約16%上回っています(図表3)(’22年 同「生活定点」)。

【図表3】「恋愛と結婚は別なものだと思う」の回答割合
出所=『恋愛結婚の終焉

男性は女性に経済力を、女性は男性に家事力を求める

ちなみに「生活定点」の調査対象(約3000人)は、未婚者に限らないため、40代やその上の年代では、若い20代より既婚割合が高いはずです。

結婚後、恋愛感情がすっかり冷めた夫婦が、「理想と現実は違う」と痛感し、「恋愛と結婚は別」と答える気持ちは重々理解できます(苦笑)。これに対し、未婚が多いと思われる20代の男女が、「(結婚前から)恋愛と結婚は別」と割り切るのは、まったく別の意味があるように思えます。

おそらく彼らの一部は、若いうちから「結婚は生活だ」「恋愛とは別だ」と気づいているのです。「結婚相手に求める条件」でも、いまや女性に「経済力」を望む(「重視+考慮する」)男性が5割弱(48.2%)、これは、’15年より6.3%、’10年より9.5%も増えています(「16回出生動向基本調査」)(図表4)。また、男性に「家事・育児の能力や姿勢」を望む女性(同)は、およそ97%(96.5%)にも及ぶのです。

【図表4】未婚者(18~34歳)が結婚相手の条件として重視・考慮する割合
出所=『恋愛結婚の終焉

危険な兆候

恋愛シーンにおいては、いまも若者の多くが、男性に「男らしさ」を、女性に「女らしさ」を求めます。それなのに、結婚をイメージする場面では真逆で、男性は未来の妻に「経済力」を、女性は未来の夫に「家事・育児力」を求めていることになります。

牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)
牛窪恵『恋愛結婚の終焉』(光文社新書)

つまり、恋愛と結婚のニーズは180度違うと言ってもよく、これだけを見ても「恋愛→結婚」の流れに歪みが生じているのが分かります。若者たちは(無意識かもしれませんが)、その矛盾に気づき始めたからこそ、「恋愛と結婚は別」だと言うのでしょう。

もはや、この状況を放置し続けるだけの、時間的猶予はありません。

なぜなら「恋愛は面倒」だとする彼らの多くが、恋愛のみならず結婚までも「面倒」だと感じ始めているからです。多くは語りませんが、’10年までは未婚の男女(18~34歳)で、1割に満たなかった「一生結婚するつもりはない」の回答が、’21年には男性で17.3%、女性で14.6%にまで増え(図表5)、逆に「いずれ結婚するつもり」の回答が、男女とも6年前(’15年)より、5%前後減ってしまいました(「第16回出生動向基本調査」)。

ここまで顕著な減少は、過去に例がありません。まさに今後数年で、少子化どころか「未婚化」にも再び拍車がかかる危険性を孕んでいるのです。

【図表5】未婚者の「一生結婚するつもりはない」の回答割合
出所=『恋愛結婚の終焉