思春期の子どもは自分の見た目を気にするが、それが心(こころ)の病にまでなってしまう場合もある。10代の身体醜形症患者を診療してきた中嶋英雄さんは「本来、これからの自分をイメージし、内面を磨く準備をはじめる大切な時期なのに、中には『整形して顔さえ可愛くなれば将来も幸せになれる』と信じこむ子もいる」という――。

※本稿は、中嶋英雄『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)の一部を再編集したものです。

一人で空を見上げる女子学生
写真=iStock.com/hanapon1002
※写真はイメージです

トラウマとなる体験があるPTSDタイプ

いじめや悪口など、ある特定の出来事によって深い傷を心に負いながらも心の奥にしまいこみ、その後何かのきっかけで思い出し、身体醜形症を発症することがあります。

クラスメイトから「ブサイクだね」と悪意のある言葉を投げられたり、親から「お姉ちゃんほど綺麗じゃないね」などと言われた体験がトラウマとなり、思春期になって自分の顔の悩みとして現われ、とらわれてしまうのです。

このタイプの症状は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に似ています。

PTSDは、突然の不幸な出来事によって生命の安全が脅かされたり、虐待などによって強い精神的衝撃を受けたことが原因で、それがトラウマとなって心身に支障をきたす病気です。

心の傷となるような衝撃的な出来事の体験をきっかけに身体醜形症を発症している場合は、フラッシュバックや悪夢を見る、過覚醒といった症状があらわれていると思います。

姉と比べられ一度も褒められたことがないルミさんの例

幼い頃から3歳上の姉と比べられ、褒められた記憶が一度もないというルミさん。顔へのコンプレックスが強く、大学を中退してからは引きこもりがつづいています。

小学校の頃、顔のホクロがだんだん目立ってきたことで、それを理由に姉と比べてけなされるようになりました。

母親から「なんでそんなところにホクロがあるの」「顔つきがきついわね」などと言われて悩みはじめますが、明るく振る舞うことで何とかしのいでいたそうです。

けれども中学校に入ると、「誰かがまた顔のことをけなすんじゃないか」とつねに気にするようになります。何も言われない日はホッとするものの、明日はまた言われるのではないかと、びくびくする毎日でした。

「成績だけは姉を超える」と進学校から名門大学に進むが…

それでも、「顔はダメだけれど、成績だけは姉より上位にならなくては」と偏差値の高い高校に入学。バスケ部にも所属して頑張ってみましたが、顔のことばかり気になって集中できず、結局バスケ部を1年で辞めてしまうことになります。

顔も可愛くてスタイルも良くて、バスケも上手で成績も良いという子が何人もいて、引け目を強く感じるようになり、あらゆることに消極的になっていきました。

ホクロや顔つきのことでけなされたことが強いコンプレックスになり、トラウマとして残ってしまっているのです。

学校の階段を上る女子高生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです

気になっていたホクロをとるが対人恐怖症になり大学中退

名門の女子大に入学しますが、入学後はなるべく人とかかわらないようにして友人もつくらず、孤独に過ごしました。

入学後すぐ、美容皮膚科でレーザー治療を受けてホクロをとりますが、長期間マスクをつけていたため、ルミさんは人に会うのが怖いと感じはじめます。

マスクが外れても対人恐怖的な気持ちはなくならず、と同時に、講義中に「お腹がグーグー鳴ったらどうしよう」という恐怖感がつのるようになりました。

しだいに大学の授業にも出られなくなり、2年生のときに自主退学してしまいます。両親からは強い反対も、とくになかったそうです。

退学後2年ほどはアルバイト生活をしていましたが、その後は何もせずに午後2~3時に起き、朝6~7時に寝るという昼夜逆転の生活。食事も不規則で体重は変わらないものの、生理周期には不順が見られる状態でした。

幼い頃のトラウマからどうやって回復するか

ルミさんの顔の悩み自体は突拍子のないものではなく、幼い頃の母親からのトラウマのせいで強いコンプレックスを抱いている状態です。

向かい合う母と娘
写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです

ひとりのときには鏡で何度も確認してしまうという強迫行為があるものの、人目もはばからず長い間見つづけるほどではありません。ただ、生活そのものはあきらかに破綻していました。

身体醜形症とも言えますが、恐怖性不安障害の傾向も強く出ています。とくに、お腹が鳴ることや自分の顔のせいで他人を不快にさせることを極端に恐れるせいで社会生活を送れていないことを考えると、社会恐怖(対人恐怖)の可能性もありました。

カウンセリングをするうちに、母親が気持ちを理解してくれないことに対する強い怒りがわいてきて、父親からDVや言葉の暴力を受けたことも思い出しました。

家庭内で否定的な経験ばかりしてきたために、自己肯定する力を得られず、「自分が可愛い容貌をしていないからだ」と理由づけることで、何とか自分を保っていたのでしょう。

それが身体醜形症、自己臭恐怖(自分が臭いと気にする症状)など社会恐怖としてあらわれ、回避性、依存性、妄想性、境界性パーソナリティ障害の症状を引き起こすまでにいたってしまったのです。

分析を進めると、思考のクセが極端にネガティブなのがわかりました。自分で悲惨な未来を予測して恐怖にとらわれてしまう思考パターンです。

ルミさんの思考パターンをポジティブな思考の選択肢に置き換えていくことで、今の生活から脱却することを目指していこうと合意し、現在もカウンセリングをつづけています。

思春期失調症タイプは心身のアンバランスが原因

子どもは日々成長する存在であり、その心も身体も成熟の過程にあります。

なかでも「思春期」は、子どもと大人の狭間で揺れ動き、心と身体が大きく変化する時期です。

本来なら、変化する自分と向き合うなかで新たな自己を発見し、自分なりの価値観を身につけてアイデンティティを確立していくことになるわけですが、身体の成熟の早さに心の成熟が追いつかず、心身のバランスを崩してしまう子どもたちも少なくありません。

学校に行きにくかったり、引きこもりがちになったり、身体の不調を頻回に訴えるなど、さまざまな悩みや問題を抱えている子どもたちが多くいます。

精神的に親から自立することへの不安のあらわれでもありますが、その不安が何らかのきっかけで膨らみすぎてしまうと、不登校や摂食障害、リストカットなどの自傷行為にまでいたります。

自己意識が発達してくる時期でもありますから、「他人から見られる自分の姿」が気になるようになるのは自然なことですが、さまざまな心身のアンバランスや自立への不安が、容姿への強い劣等感につながってしまうことがあります。

「女性はいくら成績が良くても可愛くなければ意味がない」

また、子どもの頃から成績が良く周囲から高い評価を受けてきた子が、思春期に入って周りの女性の容姿に対する高い評価に気づいてショックを受け、「女性はいくら成績が良くても、可愛くなければ意味がないんだ」と思い込んで身体醜形症になり、整形依存にまでいたってしまった例は、残念ながらいくつもあります。

対処しきれない不安感を顔の問題に置き換え、「自分が醜いからすべてがうまくいかない」という思いにとらわれてしまうのが、この思春期失調症タイプです。

「どう整形すれば理想の顔になるか」と考えるリサの例

数カ月前から顔の形を気にするようになって不登校気味だと言うリサさん。朝、登校の準備はするものの、どうしても行けない日が増えていると言います。

鏡はもちろん、映るものには何にでも顔を映して見つづけるのがやめられません。スマートフォンのアプリで「どう整形すれば理想の顔になるか」というシミュレーションばかりしていて、勉強が手につかなくなりました。

リビングでスマホを見ている女の子
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

美容整形の費用を貯めるために、親に内緒で校則違反のアルバイトをはじめようとしたり、「自分は整形願望にとりつかれたクズ人間だ」と感じて急に苦しくなり、醤油1リットルを飲んで死のうと考えたこともありました。

中学2年生のときクラスメイトから「ブス」と言われた

リサさんの父親は日系アメリカ人で、アメリカの大学を卒業した国際弁護士。母親も短大卒業後にアメリカに留学していて、そこで両親は出会ったそうです。

3歳上の兄は日本のインターナショナルスクールを卒業し、現在はアメリカの一流大学に留学中です。リサさんも兄と同じインターナショナルスクールに入学しますが馴染めず、7歳のときに公立小学校に転校。けれども11歳でまたインターナショナルスクールに復学し、今は日本の私立高校に通っています。

中学2年生の頃、クラスメイトから「ブス」と言われて顔のことを気にするようになりますが、「ブスで勉強もできなかったら、何も取り柄がなくなってしまう」と思って勉強に励むようになり、高校では特進クラスに進級。文化祭でも委員長になって活躍しました。

ただ、文化祭が終わってしまうと何もかもが嫌になり、学校を休みがちになりました。アイプチなどのメイクで少し気分は晴れたものの、メイクの限界を感じて、このままでは将来の見通しが立たないと思うようになり、「整形して顔さえ可愛くなれば将来も幸せになれる」と信じこむようになったのです。

期待値の高い環境で、兄と比較されるという強いプレッシャーのなかで育ったリサさん。勉強や文化祭を懸命に頑張りましたが、文化祭が終わってしまったことで一種の燃えつき状態になり、目標を失って顔にとらわれるようになりました。

「顔さえ良くなれば将来が開けるはずだ」という思い込み

思春期という大きな変化の時期に、自分のアイデンティティをうまく見つけられず、「顔さえ良くなれば将来が開けるはずだ」と信じることで自分を守っていたのでしょう。

祈る女子高生
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです

リサさんには、若いときには誰もが外見を気にしがちだけれど、人の魅力は外面と内面による総合的なものであると理解してもらうことからはじめました。

メディアがつくり出す可愛さや美しさはいわば商業的な戦略で、真の美しさではありません。もちろん美しさを追求するのは人間の本能ですが、そこで言う「美しさ」は、決して外見だけを指すものではないからです。

メディアの商業的戦略にだまされず内面の美しさを磨く

中嶋英雄『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)
中嶋英雄『自分の見た目が許せない人への処方箋』(小学館)

心身ともに大きな変化に揺れ動く思春期ですが、その先には本来、可能性しかありません。これから輝いていく自分をイメージしながら、内面を磨く準備をはじめる大切な時期です。外見と心は切り離すことのできないものですから、考え方や心のあり方が顔や表情にあらわれます。知性や教養が豊かな人は自信に満ちて見えますし、品性があって所作や立ち居振る舞いが美しい人も、やはり魅力的です。

リサさんは、カウンセリングをするなかで、こうした内面の美しさについて理解してくれるようになりました。レジリエンス(回復力)が充分に育まれ、美容整形の結果に折り合える力があると判断できるようになったら、大学入学後には美容整形の相談をしよう。そう約束をしたところです。