今の会社の人間関係が嫌になって転職を考えるようになった。そんな場合、面接で転職理由を聞かれた時にはどのように答えればいいのだろうか。転職エージェントの森本千賀子さんは、「面接で転職理由を聞かれ、そのまま『人間関係がイヤ』と答えると、面接担当者にマイナスの印象を抱かれる恐れがある。うそをつく必要はないが、そこからキャリア目標や志望動機に展開するといい」という――。
オフィスで面接中
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転職理由で多い「人間関係」と「評価」

転職相談にいらっしゃった方に「なぜ転職したいと思ったのですか?」と尋ねると、2つの理由が多数を占めます。「人間関係」「評価」です。

「評価」に不満がある場合も、「上司との折り合いが悪く、評価してもらえない」という「人間関係」に起因するケースが少なくありません。やはり「人間関係」は転職に踏み切る大きな要因となり得ます。

さて、中途採用の選考では、面接の場で必ず「転職理由」を聞かれます。このとき、正直に「今の職場の人間関係に不満を持っている」と答えるのはNG。なぜなら、面接担当者は次のように考える可能性があるからです。

「人間関係の悩みなんて、どんな職場でも生じるもの。うちの会社に入っても、人間関係がうまくいかなければ、また辞めてしまうのだろうか」
「上司や同僚との関係がうまくいかなかったのは、あなたの方に非があったのではないか」

このような疑念を抱かれないためには、どのように答えればいいのでしょうか。

面接前に準備しておきたいポイントをご紹介します。

「人間関係が理由」をどう伝えるか

「人間関係が理由」という本音を伏せて、キャリアアップなどのポジティブな目的だけを語ることもできます。

しかしながら、「ウソはつきたくない」という方も多いでしょう。実際、本音を隠してごまかそうとしても、面接担当者には見抜かれてしまうものです。「正直ではない人物」と、マイナス印象を与えてしまう恐れもあります。

そこで、同じような内容を伝えるにしても、表現を変えて伝えることをお勧めします。

【NG表現】
「人間関係がうまくいっていないんです」
「上司と相性が悪いんです」
「同僚との仲がこじれてしまい、居心地が悪いんです」


【OK表現】
「組織(上司)と考え方が合わず、運営方針に納得できないんです」
「上司や同僚と価値観が合わないと感じています。『仕事において大切にしたいこと』にギャップがあります」
「社風が合わないようで、自分の強みを発揮しづらい雰囲気があります」

上のNG表現だと「感情的になっている」と捉えられますが、OK表現に転換すると「仕事に対して自分なりの考え方・価値観をしっかり持っている」という印象に変わりますよね。

「自身の強みや志向をより活かせる環境に移りたい」という動機であれば、納得を得やすいといえます。

ポジティブな目標や志望動機に展開する

転職理由を聞かれたとき「人間関係」だけで話を終わらせないようにしましょう。

人間関係はあくまで転職を考え始めた「きっかけ」にすぎず、真剣に今後のキャリアを描いた結果、やりたいことや目指すことが見えてきた。それを実現できる求人を探したところ、その会社に出合った――そんなストーリーを展開すると、ポジティブな印象を与えることができます。

ストーリー展開の一例を挙げてみましょう。

上司の考え方に共感できず、異議を唱えたら怒りを買ってしまい、重要な仕事を任されなくなりました。話し合いを試みましたが、取り合ってもらえない状況です。それをきっかけに転職を考え始め、改めて自分がやりたいこと、仕事で大切にしたいことを見つめ直した結果、「チームワークを強くすることでお客様への満足度を高める」働き方を目指したいと考えました。御社では部署・職種間の連携やコミュニケーションが活発とお見受けしましたので、私が望む働き方を実現できるのではないかと思い、志望しました。

このように、人間関係の問題はさらっと触れる程度にとどめ、やりたいことや目標、キャリアプランなどの話を重点的に伝えるといいでしょう。

転職に踏み切る前に

先ほど、「人間関係」を転職理由に挙げると、「あなたの方に非があったのでは」と思われる可能性があることをお伝えしました。

これは、実際にそうであることも少なくないと感じます。

私が転職相談者の方とお話ししていて、「人間関係への不満」を深掘りしてお聞きすると、ご本人が人間関係を構築する努力をしていないケースも見られます。

コロナ禍以降多いのは、「出社」と「リモートワーク」を自分で選べる状況で、出社をまったくしないケース。対面コミュニケーションを積極的にとらず、しかも、オンラインコミュニケーションツール(チャットツールの雑談スレッドなど)の活用もせず……では、メンバーとの心の距離も離れ、ぎくしゃくした雰囲気に不満を感じるのも当然でしょう。

また、上司から話しかけてくるのを「待つ」ばかりで、話しかけてもらえないと「適切なマネジメントを受けていない」「コミュニケーションが足りず、自分を理解してもらえない」と嘆く方もいらっしゃいます。

しかし、会社からの指示や上司からの働きかけがなくても、自ら動いてコミュニケーションの機会を増やすことは重要だと思います。

参加自由な会社のイベントも同様です。飲み会やバーベキューパーティーなど、面倒に感じて避ける方も多いようです。

しかし、実際に参加してみると、普段の仕事では見ることのない上司や同僚の素顔に触れ、新たな発見もあります。仕事で接点のない他部署の人と話し、思いがけず意気投合することも。

楽しいかどうかは別にして、業務をより円滑に進めるためにも、そうしたオフの機会も活用して人間関係を築くことをお勧めします。

ビールで乾杯
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転職にはやはりリスクが伴います。安易に転職に踏み切る前に、今の職場で人間関係を改善することを試みてはいかがでしょうか。

自分から歩み寄って積極的にコミュニケーションをとっても人間関係が改善されないのであれば、部署異動を願い出る手もあるでしょう。

「人間関係がいい会社に転職したい」の落とし穴

人間関係に不満を抱いて転職活動をする方は、やはり転職先の条件として「人間関係の良さ」を重視する傾向があります。ところが、ここにも落とし穴があります。

よく起こりがちな「こんなはずじゃなかった」のケースを挙げてみましょう。

面接で直属の上司となる人と意気投合し、『この人と一緒に働きたい!』と思い、入社。ところが、その人はしばらくすると退職してしまった……。


面接で会った管理職に魅力を感じ、入社。ところが、その人とは別の部署に配属された。配属先の上長は、自分が苦手とするタイプだった……。
採用ページでうたわれている「社員みんな仲が良い」という風土に魅力を感じ、入社。けれど自分は既存社員とはタイプ・志向が異なり、話が合わずに浮いてしまった……。

つまり、人間関係を軸に転職先を選んでも、「入社してみないとわからない」のが現実なのです。

だからこそ、転職先を選ぶ条件は、人間関係だけでなく、「自分の強みを活かせる・伸ばせるか」「将来目指す自分像に近づけるか」といったキャリアビジョンを軸に選んでいただきたいと思います。

とはいえ、もちろん人間関係が構築しやすい職場のほうが望ましいですよね。

応募先に入社を決めるかどうかを判断するには、「面接で話した人」などの個人にフォーカスするのではなく、「社風がフィットするかどうか」を見極めましょう。

例えば、企業SNSなどでは、公式サイトの情報からはわからない内部の雰囲気や社員の志向性を感じとることができます。

また、選考プロセスのどこかで、入社後に一緒に働く人たちと話す機会を設けてもらうと、組織全体の雰囲気がつかめるでしょう。