働きながら子供の中学受験を乗り越えるにはどうすればよいのでしょうか。上場企業で管理職を18年継続しているいくみ@女性管理職&ブロガーさんは「中学受験は子供の人生にとって大きなハードルの1つと言えます。もし、成功体験が得られなかったとしても次に向けての気付きになるはず。仕事をしながらでも親自身がそんな思いをもってサポートに努めていくとよいでしょう」といいます――。

※本稿は、いくみ@女性管理職&ブロガー『女性管理職が悩んだ時に読む本』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

親子ともに不安だらけの「小1の壁」

ワーママたちが最も苦労するポイントとして語り継がれているのが「小1の壁」。保育園時代は送り迎えさえすれば、あとのケアはすべて保育士さんにお任せでOKでしたが、小学校に入学した途端に子供の自主性が求められます。もちろん、学童保育というシステムはあるものの、保育園とは体制が異なるので、いきなりこの変化に晒されて戸惑うことしきり。昨今では学童保育も必ず保護者が送り迎えする仕組みができているようですが、我が息子が小1となった1999年の頃は、1人で学童に行って1人で帰ってくる必要がありました(授業がある時は校内にある学童施設に移動するだけですが、長期休暇の際は9時からしか学童が開いておらず、また、親が17時までに迎えに来なければ下校させる)。小1といってもまだほんの7歳。子供本人だって不安だらけだろうし、親も同じです。特に、当時は保育園卒園後から4月1日までの春休みは保育園で預かってもらうことができなかったので、子供だけのキャンプに参加させたりしてなんとか凌ぐものの、4月1日になったら、いよいよ学童参加開始。何せ入学前ですから友達を作るのもままならず、どうしてよいものやら、何も分かりません。

日本の男の子と新しいランドセル
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最初の2週間が正念場

当時は「全員が携帯電話を持つ」というご時世ではありませんでしたが、息子が小学校入学の際に私も携帯電話を持つことにして、とにかく家に帰ったらまず私の携帯に電話すること、これを母子の約束にしました。また学童入所前に「1人通学練習」として、休みの日に息子が1人で学校に行って帰ってくるという「シミュレーション」をやってみたり。しかしながら、そうした手立てもいざ始まってみるとあまり即効性もなく。学童開始直後は17時頃に息子から我が携帯に電話が来るものの「ママ~っ! こわいよぉ~」。1人でなんとか鍵を開けて帰宅したはいいけれど、誰もいない室内におそらくたじろいでしまったのでしょう。とはいえ、会社から飛んで帰ることもできません。住まいのマンションに同世代のお子さんがいるご家族がいたため、無理言って私が帰るまでの間過ごさせてもらったり、時々は私が早退したり……。とにかく、最初の2週間ほどを乗り越えれば、実はその後はなんとか進んでいくものです。実際、4月の後半くらいになってくると、学童仲間同士で一緒に帰りながら、途中お互いの家に寄ったり公園で遊んでいたり……。気付くと、私が帰宅する19時くらいまでに電話もかかってこず帰ってきておらず、心配でいても立ってもいられない時に、ママ友から「○○君、うちにいますよ~」と連絡があってヤレヤレってことも。子供の順応性には脱帽です。可能な限りご近所の方々とのネットワークづくりや、入学したばかりであってもママ友同士の交流に努めるのがオススメ。もちろん自分たちだけ助けてもらうのではなく、お互いに持ちつ持たれつ助け合いの精神でお付き合いをしていくことが、心のよりどころにもなってくれます。我が親子、頼れる親族が近くにいなかったこともあって、世間様にたくさん助けていただいて今があるといっても過言ではありません。

鍵っ子生活になる「小4の壁」次に「壁」となるのが、「小4」。息子が学童保育にお世話になっていた当時は小3までしか利用ができず。小4になったら、もう選択肢は「鍵っ子生活」オンリーです。通常の授業期間であれば15時過ぎの帰宅時間になりますが、短縮授業期間や長期休みともなると、ず~っと1人で家で過ごす羽目に。保育園や学童保育やケアしてもらえる大人がいなくなってしまう初めての日常。子供は「なんとかできる」と健気にも言ってきたりするのですが親としては新たな不安が募ってきます。

若い次世代に鍵を渡す古い手のコンセプトイメージ。
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小学校から徒歩30秒のところに転居

まず、環境面として小学校からできる限り近くに居住地を決めておく。この点もワーママの部下さんたちに私がよく伝えていることなのですが、子供が1人で行って帰って来る距離が短ければ短いほど、親の安心材料も増えます。我が家は途中まで転勤族でしたので、子供が幼少の頃は常に賃貸住宅住まい。逆に、住まい選びに柔軟性を持てるということでもあります。息子が小学校2年生の時に転居する必要があり、選んだのは小学校から徒歩30秒の団地。しかも、公共の道路を通らず団地内の通路を抜けたら学校に着くという立地でとても助かりました。一方、放課後の過ごし方として、新たにケアしてもらえる大人の近くで過ごせたら安心だなぁ……と、当初は中学受験をするつもりはほぼなく、単に「学童替わり」的な発想だったのですが、小4から塾に通わせることに。クラスの友人たちが塾通いを始めつつあったため、息子自ら「塾に行きたい」と言い出したのもきっかけでした。通常授業の時は17時くらいから塾が始まり、19時過ぎに私が迎えに行けば済む。長期休暇の時は朝からの講習期間が設けられていたので、1日のうちところどころを塾で過ごすことができて、何かあったら、塾の先生とやりとりができます。幸い、友人達とワイワイ塾で過ごすのも楽しかったようで、小6まで塾通いを続けることができました。住環境と、近くに大人のいる状況で過ごせる時間の確保。学童保育が終わって以降はこの点が大きなポイントとなりました。もちろん、住まいの決め方についてはそれぞれのご家庭ごとに状況が異なりますし、我が家は「小学校まで徒歩30秒」という物件に恵まれたのはとてもラッキーでしたが、小4の壁の乗り越え方、ワーママライフを少しでも心穏やかに過ごすためのヒントにしてもらえたら嬉しいです。あと、どの塾を選ぶか? という点については、体験学習などを通じて「ここがフィットしそう」という感覚値でOK。中学校への進学実績やら夜間遅くまで学習に専念するスタイルやら、そんなことは二の次でかまいません。

仕事を辞めるべきか悩んだ「中学受験の壁」

「学童替わり」で通い始めた塾でしたが、当然、塾側の本来の目的は中学受験のサポート。小4の壁でもお伝えのとおり、もともとは受験する予定ではなかったものの、親子ともども、せっかく通ってきたならば、中学受験にチャレンジしてみようと思うに至りました。親も勝手なもので「どうせなら有名校に進学してほしい」などと邪な期待を描いてしまって、子供本来の能力とはかけ離れたところで志望校を決めてしまいがちです。しかも、子供は親の期待に応えようと懸命に努めてくれているのに、つい、いつもの仕事主体の生活を続けてしまっていた私。受験期が近づいてきた年末近くになって、子供のストレスがピークに達してしまったのです。塾に行っているはずの時間に全然別のところで過ごしていたり、学校生活においても、ちょっと気がかりな行動が見受けられるようになったり。この時ばかりは、仕事をしながら中学受験生の親もやるのは無理なのではないか? 受験を止めるか仕事を辞めるか、どちらか選ばなければ……と、かなり悩みました。

机の上にうつ伏せに横たわり、両親を励ます少年
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涙が出そうになった息子からの電話

まずは息子に「受験止めてもいいよ」と問いかけてみました。すると、「ボク、受験する」と、息子。もしかしたらこの期に及んでも親に気を遣ってくれていたのかもしれませんが、それ以上は聞きませんでした。職場にも事情を説明のうえ、「鍵っ子生活を少しでも緩和するために子供が登校するまでは家にいるようにしたい」とお願いをしたところ、上司が快く時差勤務を認めてくれたことが、とてもありがたかった。子供の思いと上司のはからい。それぞれに助けられて中学受験生の親として仕事を続けることができました。また、中学受験の始まる2月1日の週。複数校を受験することが多いですから毎回親の引率が必要です。夫と交代で休暇を取り、途中ようやく1校合格通知を受け取った時はあまりにもホッとしすぎて、その翌日くらいから私自身が発熱して臥せってしまったほど。合格した中学校は息子の志望校とは異なりましたが、「ママ~! 受かったよ」と仕事中の私に嬉しそうに電話をくれた時は涙が出そうになったことを、20年近く経った今でも鮮明に覚えています。中学受験は子供の人生にとって大きなハードルの1つとも言えます。受験する動機やきっかけは様々なれど、せっかくチャレンジしたのならば、1つでも成功体験ができるようなら嬉しい。もし、成功体験が得られなかったとしても次に向けての何かへきっと気付きになるはず。仕事をしながらでも親自身がそんな思いをもってサポートに努めていくとよいでしょう。ちなみに、我が息子の中学受験体験記、なかなかに苦労の連続でしたが、小学生の時にカリカリ勉強をする癖がついたことで、その後も何かとこの癖が奏功したようです。

ほっと一安心もつかの間「大学生から社会人への壁」

中高一貫校に進学した息子、高校受験の経験はせずに6年間を無事終えて、大学受験は第1志望校に合格することができました。ヤレヤレ。これで親の任務も完了だわ。ほっと一安心もつかの間。最後の壁は大学生から社会人になる時に立ちはだかっていたのです。もしかしたら、他のご家庭では大学生以降はまったく問題なく、その後に社会人としてお子さんを送り出すことも多いのでしょう。保育園生から高校生に至るまで、ワーママでいっぱいいっぱいの私を気遣うように、ほぼ順調に過ごしてくれていた我が息子でしたが大学生になってからいろいろな壁にぶち当たってしまったようで、就職が内定した後もしばらく試練が続きました。結果、大学を卒業するのに8年間かかったのです。この状況に遭った時に改めて自問自答。私が働いていたからなのだろうか? 何か自分が間違っていたのではないだろうか? 答えは見つかりません。

ストレスのたまった女性
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子育ての最後の最後で直面した壁

いくみ@女性管理職&ブロガー『女性管理職が悩んだ時に読む本』(講談社現代新書)
いくみ@女性管理職&ブロガー『女性管理職が悩んだ時に読む本』(日本能率協会マネジメントセンター)

大学生になると子供もある意味大人ですから、高校生以前のような「親についていく」といった歩み方ではない。だからこそ、問題に直面した時にどう向き合えばよいのか? まったく分かりませんでした。ネットや書籍で調べてみたり、専門家に相談しに行ってみたり。結果、「子供がいろいろ悩みに直面していたとしても、親が自分の人生を楽しく生きていけばよい」ということに改めて気付きました。実はこのことが、私が会社員仕事だけではなく、ブログやSNSや書籍を通じて発信することで世の中の役に立ちたい……と思うきっかけにもなったのです。子供が何かの挫けにぶつかってしまっている時。それが、特に大人になってからの出来事である場合「お母さん、その生き方でいいの?」と親に対して何かしらのサインを発してくれているのかもしれない。これはあるカウンセラーの先生から教えてもらったことです。すべてが同じではないかもしれませんが、私が子育てにおいて最後に直面した壁はまさにそんな体験でした。