人前で話すことが苦手なシャイな性格は治すことができるのか。心理学者の内藤誼人さんは「自分はシャイだと思い込んでいた人も、積極的に人に話しかける宿題をこなすうちに、けっこう社交的になれるものだなと気づき、本人の思い込みも変わります」という――。

※本稿は、内藤誼人『自信をつける習慣 よけいな迷いが消えていく58のヒント』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

あやしげなパワーストーンにも効果はある?

雑誌を見ていると、後ろのほうに、なんだかあやしげな商品の広告が載せられていることがありますよね。幸運をもたらしてくれるパワーストーンですとか、女性にモテモテになってしまうブレスレットですとか、「本当にそんな効果があるのかな?」と思わずにはいられない商品がずらり。

おそらく、大半の読者はそういう商品には効果などはまったくないと疑っていると思います。

けれども、心理学的には、本当にまったく効果がないとも言い切れないのです。本人がその商品を「本当に効く!」と信じていれば、それなりに効果も出るだろうと思うのです。「鰯の頭も信心から」と言われますが、信じていると本当にそういう効果が出るのです。

ブレスレット
写真=iStock.com/Нина Дроздова
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ウソでも、ラベル通りの力が高まった

ワシントン大学のアンソニー・グリーンワルドは、ポスターや新聞広告で実験参加者を募集し、5週間、市販のサブリミナル・テープを聞いてもらいました。

あるグループの人には、「自信がつく」テープを、別のグループの人には「記憶力を高める」テープを聞いてもらいました。そして5週間後、「どれくらい効果がありましたか?」と聞いてみると、なんと50%の人が「効き目があった」と答えたのです。

ところが、じつは、グリーンワルドが手渡したテープは、ラベルが変えられていました。つまり、自信がつくテープの中身が本当は記憶力を高めるテープで、記憶力を高めるというラベルの貼られたテープは、本当は自信がつくテープだったのです。

実験参加者は、まったく関係のないテープを聞かされていたわけですが、ラベル通りの力が高まったと感じたのです。

こういう理由によって、私は、あやしげな商品でも通信販売で買ってみるのも、ひとつの方法かな、と思うのです。本人がその効果を信じれば、本当にその効果が見られるかもしれませんので。

たとえば、女性にモテモテになるというブレスレットを購入したとします。そして、そのブレスレットには本当にご利益があると信じ切っている人がいるとしましょう。

すると、その人は女性に対して自信を持ち、堂々と臆せずに話しかけたりすることができるかもしれません。その結果として、女性と知り合いになれたり、お付き合いができたりすることもあるでしょう。

ブレスレット自体には何の効果がなくとも、本人の期待によって行動が変われば、本当に女性にモテるようになるのです。

あやしげな商品だからといって、「こんなのは詐欺だ」と切り捨ててしまうのもどうなのでしょうか。

ときには、上手にだまされてみて、「よし、これで僕の自信もアップするはずだ!」と思い込むのも、けっして悪くはないと思いますよ。

変えるべきは意識ではなく、行動

自信がない人は、自分の思い込みを変えようとします。「もっと前向きになろう」「もっと積極的になろう」「もっと自信を持とう」と。

しかし、思い込みはそんなに簡単に変わるものではありません。そういう努力はすべてムダとは言いませんが、思い込みを変えようとしても変わらないと思います。

それよりも大切なのは、まず行動を変えること。

行動を変えれば、思い込みのほうも、行動に合わせて変わってくるものです。思い込みを変えるから行動も変わるのではなくて、行動を変えるから思い込みも変わるのです。

白いチョークでHOME WORKと書かれた黒板
写真=iStock.com/canbedone
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行動を変えれば自信がつく

スタンフォード大学のマイケル・ニューマンは、人前でしゃべれないとか、パーティに参加できないとか、公共の場所で食事をするのが苦手、といった症状を示す社交不安障害と診断された36名に実験参加を求めました。

普通、カウンセリングやセラピーでは、悩みの相談を聞きながら、本人の思い込みを変えていこうとするものですが、ニューマンは違いました。純粋に行動だけを変えるように指示したのです。

ニューマンは、毎回のセッションで、まず本人に「これならなんとかできる」という行動を決めてもらいました。参加者は、それを宿題とし、翌週のセッションまでにやってくるのです。うまく宿題をクリアできたら、翌週にはまた別の行動的な宿題を出す、ということをニューマンはくり返しました。

たとえば、「1日に3人の人に挨拶をする」とか、「道に迷ったふりをして、知らない人に道を尋ねてみる」といった宿題を決めて、それを実行するのです。

ニューマンは8週間のセッションをおこなったのですが、行動を変えるようにすると、参加者たちの思い込みも変わってくることがわかりました。「自分はシャイだ」と思い込んでいた人も、積極的に人に話しかける宿題をこなすうちに、「けっこう社交的になれるものだな」と気づき、本人の思い込みも変わってきたのです。

読者のみなさんも、思い込みを変えようとするのをやめましょう。

それよりも行動を変えたほうが、絶対に自信はつきます。そして、行動を変えれば、しみついた思い込みも変わってくるものです。

「こうすれば自信がつきそう」と思うような宿題を、自分なりに決めてください。その際には、行動として、実践できるような形で決めなければなりません。「勇気を出す」といった抽象的な宿題にしてしまうと、いったい何を、どうすればいいのかわかりませんので、もっと具体的に決めなければなりません。「知らない町の駅で降りて探検してみる」「電車の隣に座った人に、『こんにちは』とだけ声をかける」のように、具体的に取り組めるものにしましょう。

毎週、必ず宿題を決めて行動するようにすれば、だいたい2カ月ほどで自信もついてくるでしょう。

ポジティブな言葉かけは逆効果

自己啓発本を読むと、自分自身にポジティブな言葉かけをしましょう、といったことが書かれています。

「私なら、絶対にうまくいく」
「私は、だれからも愛される」

こんな感じのことを、自分に言い聞かせるといいよ、というのですね。

けれども、こういうポジティブな言葉かけは、自信のない人はやらないほうがいいのです。なぜなら、もっと落ち込んでしまうから。

自信のない人は、「私なら、うまくいく」と思い込もうとしても、すぐに「でも、次もやっぱりダメなんだろうな……」と否定してしまいます。

ようするに、ポジティブになろうとすると、かえってネガティブになってしまうのです。

カナダにあるウォータールー大学のジョアン・ウッドは、249名の大学生に自尊心を測定するテストを受けてもらい、さらにポジティブな言葉かけについて、「役に立つと思いますか?」「気分がよくなるというより、逆に悪くなることもありますか?」と聞いてみました。

すると、図表1のような結果になりました。

データを見ればわかる通り、ポジティブな言葉かけは、「自信のある人」には効果的なのですよ。けれども、自信のない人には逆効果なのです。

自信のある人は、すでに自信があるわけですから、ポジティブな言葉かけなど、本当は必要としていません。ポジティブな言葉かけが必要なのは、むしろ自信のない人でしょう。ところが、自信のない人は、ポジティブな言葉かけをしようとすると、どうも裏目に出るようです。

頭を抱える男性
写真=iStock.com/nemke
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内藤誼人『自信をつける習慣 よけいな迷いが消えていく58のヒント』(明日香出版社)
内藤誼人『自信をつける習慣 よけいな迷いが消えていく58のヒント』(明日香出版社)

読者のみなさんも、もし自分自身にポジティブな言葉かけをやってみて、かえって気分が落ち込んでしまうようなら、ポジティブな言葉かけをやめたほうがいいですよ。自己啓発本にはポジティブな言葉かけがいいと書かれているかもしれませんが、やらないほうがいい人もいるのです。

何回かポジティブな言葉かけをやってみて、「自分には向かないな」と思ったら、別のやり方で自信をつけるようにしてください。

自信をつける方法は、いくらでもありますから、ポジティブな言葉かけにこだわらなくても大丈夫なのです。