女性管理職比率が高い会社は、やはりD&Iが進んでいるのか。人事担当者たちが「女性管理職比率○%」の裏側を赤裸々に語る。

テレワークも絵に描いた餅、結局は原則出社に後戻り

人事担当者本音トーク座談会メンバー

【A】私が入社した頃は、総合職として採用されるのはほとんどが男性で、女性は事務職というのが当たり前の時代でした。入社後、社長が交代したのを契機に雰囲気が一転。人事部内に「女性活躍推進」のプロジェクトが発足しました。前時代的な業界なので、女性活躍の取り組みは他社よりかなり早かったと思います。

【B】うちはここ1、2年ですね。働き方改革以前は、残業も当たり前。どうしても結婚や出産で辞めてしまう女性が多かったので、女性管理職比率は他社さんに比べると全然低いです。

しかし、昨今の世界的な潮流として人的資本の情報開示が重要視され、D&Iの浸透度を目に見える数字で公開する必要が出てきました。そこで「2025年までに女性管理職比率10%」という目標はトップもコミットする全社目標になっています。

【C】4、5年前から具体的にD&I推進を始め、女性管理職比率は20%に増えたので、一定の成果は出ています。ただ、課長比率は上がっていますが、部長以上に昇進する女性はまだまだ少ないのが課題です。

【D】うちは女性比率は高くて、営業職は男女半々、研究職はむしろ女性のほうが多いですね。女性の活躍で会社が成り立っているという認識は全社員に根付いていると思います。

ただ、事業系の意思決定層は数字に強く事業計画が立てられる人材でないと務まらないので、店舗営業を経験している男性のほうが昇進しやすい。そこが女性管理職比率向上のボトルネックになっています。

当初はオンライン営業に積極的、今は対面に戻りつつある

【A】今やD&Iはどの企業も経営課題に挙げていて、取り組みを行っています。ところが、トップにその熱意があっても、やはり現場の社員との間には部長、課長と階層がいくつもありますよね。うちの場合、大概どこかの階層にD&Iを妨げる要因があり、なかなか現場まで浸透しない現実がある。皆さんの会社はどうですか?

【C】コロナを機に在宅勤務を本格導入して柔軟な働き方を定着させようとしているのですが、日頃「D&I推進」を盛んに口にしている当の役員たち本人が出社して、役員室からリモート会議に出席している。お客さまへの営業も、コロナ禍当初はオンライン営業に積極的に切り替えていく方針だったのに、今はもうほぼ対面に戻りつつあります。

技術と書類で会う人々のグループ。
写真=iStock.com/courtneyk
※写真はイメージです

【A】うちもいざコロナでテレワークが始まったと思ったら、紙じゃないと説明は受けられない、説明はリモートじゃなくて直接などと言い出す役員が現れて、結局出社せざるをえない状況でした。

ある部長から「子どもが小さいのに出社して偉いね」と言われて(笑)。結局は会社に来る人が評価されてしまう。トップが言っていることと、現場がやっていることがまったく違うんですよね。

【C】同じです(笑)。とにかく新しいものを使おうとしないし、パソコンのセキュリティーも厳しすぎて、チャットツールやZoomも使用するのに上司の許可が必要なんですよ。

しかも働き方改革についての発信は熱心なわりに、人づてに降りてくる上層部の本音は「対面が大事」。当然、社内全体が在宅勤務しづらい雰囲気になってしまいました。

【B】うちも人によってはD&Iに否定的な社員はいます。そこで、女性管理職比率など数字の目標だけではなくて、会社の課題解決には女性活躍推進が不可欠だということをトップメッセージとして、管理職含めた全社員研修で徹底的に共有しています。

【D】オーナー企業だと、D&Iのような新しい試みもトップダウンで進めやすいんでしょうね。

【A】対外的な数字ばかりにとらわれ、何のためにD&Iをやるのかという意識がうちには足りない気がします。

【B】さらに食品業界はターゲットが年齢性別問わず幅広いうえ、今後はよりグローバルに展開していくにあたり、性別だけでなく年齢や国籍など人材の多様性自体も大きな課題。そこでキャリア採用を積極的に行い、今は全社員の45%をキャリア採用の方が占めるようになりました。

社内の同質性が高いと優秀な人材ほど辞めてしまう

【D】うちも日本企業にありがちな例に漏れず、社員の同質性の高さが課題なのですが、その原因は“ホワイト”すぎるからなんですよね。もともと残業は週平均10時間で、テレワークも推進しており服装も自由。育休の取得比率も男女変わりません。だから働きやすくて離職率も低い。

それ自体は良いのですが、その同質性の高さゆえに変化が起こらず昇進制度も昭和感満載で、いまだに基本、年功序列です。上が辞めないとポストが空かないから優秀な人ほど外部に流出してしまい、言い方は悪いですが“緩い”社員ばかりが残ってしまっています。D&Iという観点では、女性活躍よりも同質性の高い“緩い”社員たちの処遇のほうが大きな課題ですね。

【C】最近「将来有望だな」と思っていた30代の社員が次々と辞めていくんですよね。先日も、在宅勤務がしづらい雰囲気に失望したと言って管理職候補だった男性が退職してしまいました。また、女性は面談すると自己評価が非常に低い傾向があって、上司からの高い評価も信じられない。「自分はこの仕事に向いていないのではないか」と言うんです。

採用を絞っていた影響で30、40代の女性が少なく自分の将来像が描けないうえ、男性がいまだに接待、ゴルフ、夜遅くまで飲み会をして営業しているのを見ると「ああはなれない」と思ってしまうんでしょうね。

【D】柔軟な働き方はD&Iには不可欠なんでしょうけど、工場勤務の社員は3交代制など時間に縛られる働き方をせざるをえないですよね。

【B】工場は内勤より多く休暇を付与するなどのインセンティブを設ける方向で検討しています。人事の立場としては一律のルールを設けるほうが圧倒的に楽なんですが、これからは社員ごとにある程度個別対応をしていかないと、優秀な人材には選ばれなくなってしまうのは間違いなさそうです。