ふるさと納税の利用者は12.5%と、8人に1人に過ぎない。どうすれば増やすことができるのか。獨協大学経済学部教授の岡部康弘さんは「私のゼミでは、ふるさとチョイスを運営するトラストバンクに、解決への具体策を3つ提案した」という――。
肉
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利用しない理由は…

総務省「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査結果」によれば、2022年度にふるさと納税を利用した人は740万人である。2008年の制度開始以来、多くの納税ポータルサイトができテレビCMなどでプロモーションをした影響もあり、開始時から大幅に増えているといえど、納税義務者(所得割)5900万人の約12.5%に過ぎない。

ふるさと納税は、寄付額から自己負担額2000円を除いた全額が所得税及び住民税の控除の対象となり、更に返礼品として、自治体から特産品や宿泊券などをもらえるという優遇措置が講じられている。その割には利用者が意外と少ないと感じられる。

ふるさと納税による寄付を実施したいと思わない理由として挙げられるのが、制度や税金の控除の仕組みがよくわからない、寄付に関心がない、手続きが煩雑などである(ふるさと納税に関する調査2021、NTTコムリサーチ)。

手続きの簡素化のため、2015年に「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が導入された。しかし、利用者を増やすには、まずふるさと納税に関する理解や関心を高める必要がある。そこで私のゼミではトラストバンク(ふるさとチョイス)に、どのように利用者を増やすかを提案した。

同社創立者の須永珠代さんは、ふるさと納税という地方への貴重な寄付金が未来への投資ではなく、現状維持の消費として使われていることに課題を感じていた。そして日本の多彩な食、貴重な文化遺産、観光や文化、豊かな自然を支えている地方がこのままでは消滅するという危機意識のもと、「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンを掲げサイトを立ち上げた。その想いにゼミ生が共感し今回の提案をすることとなった。

提案1.体験の共有

最初は、ふるさと納税の返礼品を寄付者本人とその友人や知人とでシェアする方法である。日本には、他人から貰った品物の一部をさらに友人や知人などに分け与えるお裾分けという文化がある。友人・知人には自治体から直接ギフトとして返礼品が贈られる。例えば、返礼品が牛肉4キロであれば、寄付者に2キロ、友人や知人に2キロと分けるやり方である。

寄付者は、ふるさと納税制度を通して普段お世話になっている人にプレゼントを贈ることができる。また、返礼品として送られてくる生鮮食品には賞味期限があり、期間内に消費できなければ廃棄するという食品ロスの問題も解決することができる。

自治体からギフト(返礼品)を送られた人にとってシェア制度はふるさと納税に関心を持つ契機になる。ふるさと納税制度を利用しようと思う心理的ハードルが下がり、新規の利用者が増える可能性がある。このシェア制度に関して、「今までふるさと納税で、何が返礼品としてお勧めとか、どこのサイトを使うといいかという話が多いが、制度の目的である地域の活性化には実際に体験を共有することが重要」(和田正弘取締役)と関心を示していただいた。

ただ、「ふるさと納税の返礼品の還元率3割まで、梱包や発送料を含めた総経費を寄付額の5割以下にするという新ルールが導入された。シェア制度は送料が2倍かかるので寄付額もしくは返礼品の数量などに影響を受ける可能性がある」(川村憲一代表取締役)という指摘があった。

提案2.地域の特徴から探せる機能をつける

ふるさと納税に関するアンケート調査第2回(マイボイスコム、2021年)によると、ふるさと納税で寄付をしようと思った理由について、7割強の回答者が返礼品が魅力的であることを挙げている。

しかし、それとともに、日本の地域課題への関心があると回答した人も7割強存在する(トラストバンク「ふるさと納税に関する意識調査2022」)。

主要ふるさと納税ポータルサイトを見ると、「お礼の品から探す」というメニューに加え「地域から探す」というメニューがある。「お礼の品から探す」を選ぶと、例えば、肉類を選択すると牛肉(精肉)などの画面が出てくる。「地域から探す」を選ぶと、都道府県市町村名が出てくるというサイトの構成になっている。お礼の品に関しては、お礼の品の特質から検索がかけられ、その特徴について丁寧な説明がなされている。

返礼品メインのサイト構成でいいのか

それに対し、地域に関しては、ある自治体を選択すると、その自治体の観光案内や提供する返礼品の説明がなされているだけである。「自治体情報」という項目があるサイトもあるが、ふるさと納税に参加する自治体が1785あり、それをひとつひとつ調べることは不可能である。サイト構成がまず返礼品がメインで、返礼品の選択を優先することを前提に、それを補足する意味で簡単な自治体情報が記載されている。主要ポータルサイトでは、自治体の特徴から網羅的に自治体を検索することはできない。

蕎麦の花と八ヶ岳の風景、9月
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前述したように、自治体の課題に関心を持ち、寄付を通じて自治体を支援したいという想いも多くの人に共有されている。では、どのような自治体があるのか、そこにどのような人々が住み、どのような営みを行っているのかを知りたいと思うのが自然である。

返礼品と同じように、自治体を、分かりやすい指標を使い網羅的に「地域の特徴から」検索できる機能を提案した。

自治体をどのような指標を使い分類するかに関しては様々な方法があるが、ふるさと納税で寄付を行う者が、その地域をイメージしやすい指標で表す必要がある。例えば、財政力を表す財政力指数などの財政面、人口総数や増減、高齢化率などの人口動態面、主要産業が、農業、漁業、林業、製造業、サービス業なのかの産業面、その他の特徴(風光明媚めいび、伝統工芸、ベッドタウン、名所旧跡など)の多面的な評価指標が必要である。

提案3.使途分野での自治体間の比較ができる機能をつける

環境や社会に配慮して事業を行っていて、適切な企業統治がなされている企業に投資しようというのがESG投資である。ESG投資のような仕組みをふるさと納税に取り入れられないかと考えた。社会的意義のある取り組みに優れた自治体に寄付をする仕組みである。

総務省の「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査結果」では、ふるさと納税の使い途を「まちづくり・市民活動」「子ども・子育て」「教育・人づくり」「地域・産業振興」「スポーツ・文化振興」「観光・交流・定住促進」「環境・衛生」「安心・安全・防災」「健康・医療・福祉」「災害支援・復興」の10分野に分類している。

ほとんどの自治体が寄付金の使途を上記分野から選択できるようになっている。また、「ふるさとチョイス」には「使い道を探す」というメニューを設定している。それをクリックすると、上記のような使途分野が出てくる。一つの分野を選択すると、北から自治体が順に、もしくはその分野に関係するプロジェクトが多数出てくる構成になっている。

しかし、ここから自治体がどの分野にどれだけふるさと納税による寄付を使ったか知ることはできない。自治体のふるさと納税サイトに移動して、そこからその自治体の使途を知ることは不可能ではないが、手間がかかるし参加している自治体は1785もある。

そこで、自治体がどの分野に寄付金を充当したか、その割合を比較できるようにする仕組みを提案した。例えば、「子ども・子育て」を選択すると「子ども・子育て」分野へ寄付金の支出割合が高い順に自治体が表示される機能である。

赤ちゃんの手
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ふるさと納税の意義を具現化する仕組み

総務省は、ふるさと納税の意義として、1)納税者が寄付先を選択する制度、選択するからこそ使われ方を考えるきっかけとなる、2)お世話になった地域や応援したい地域の力になれる、3)自治体が取組をアピールできるという3つを挙げている。この提案した仕組みはこれら3つの意義を具現化する手立ての一つとなる。

寄付先を選ぶのに返礼品等の見返りという経済的合理性の軸に加えて、体験の共有、地域貢献や支援という新しい軸を提案した。これらの軸は対立するものではなく両立しうる。大手ふるさと納税ポータルサイトを見ると、返礼品としての牛肉だけで4万件以上ある。そこに新しい軸で絞り込みをかけることができる。そして、それが同時に、社会貢献だと構えることなく、気軽にでき、選択した地域や分野への支援にもなる。

そして、これは返礼品目的でふるさと納税を考えることに罪悪感を持っている人に心理的な免罪符を与える。

また、従来ふるさと納税ポータルサイトを返礼品が並んでいるコテコテのサイトと冷ややかに見ていた人達にも、新しい軸を、返礼を選ぶための補助的な軸ではなく、主軸として扱うことで、地域貢献や支援というふるさと納税の本質をアピールすることができる。

ふるさと納税制度は、自分で納税(寄付)する地域や使途を選べる特徴を持つ世界に類を見ないユニークな制度であるが、返礼品競争でその特徴が隠れ、本来の目的が見えなくなっていることが残念である。須永さんの掲げる「自立した持続可能な地域をつくる」というビジョンにより多くの人を巻き込んで共創していくには、新しい軸が必要である。