大学3年生で日本初のブリュレフレンチトースト専門店「forucafe」をオープンさせて以来、ビールサーバーから注ぐ新感覚のコーヒー「ドラフトコーヒー」のサーバーの卸売り事業など、国内の飲食業界に新たな風をふきこむビジネス展開で注目を集めてきた気鋭の女性起業家・平井幸奈さん。「料理が大好き」な気持ちをビジネスに変えた平井さんのチャレンジ精神を育んだものとは――。

なんでも一番になりたかった小学校時代

「広島の、海と山に囲まれた田舎で、体育教師の父と英語教師の母の元で育ちました。二人とも特に教育熱心だった印象はなく、何かを『やりなさい』と言われた記憶はないです。ただ大人になって母に聞いてみると、小さなことでもいいから、早い時期から人生の成功体験をたくさん積ませることを意識していたそうです」

撮影=植田真紗美

母も父も、平井さんをやる気にさせるのがうまかったという。特に記憶に残っているのは、クラスのなわとび大会。当日まで父親と一生懸命練習し、見事優勝した。

みんなの前で賞状をもらえたのがうれしかった平井さんは、それから“なんでも一番になりたい”小学生時代を過ごす。

“自分はできる”はずが毎日怒鳴られて…

「学校のテストでも、習い事の書道やピアノでも、絶対に一番がよくて。例えば書道の大会の前には遊ぶのを我慢して、5~6時間練習したり。母は私がやりたいと言ったことは絶対にやらせてやりたいと思っていたようで、夜9時くらいに教室に迎えに来て、泣きながらまだ練習する私を横で見守っていました」

小学生時代/ピアノの発表会にて
写真=本人提供
小学生時代/ピアノの発表会にて

成績もずっと学年1位。そんな優等生の平井さんが、勉強や習い事の合間にハマったのが料理だった。

家の手伝いや家庭科の授業で料理を習うのが楽しく、高校生になってからは料理教室にも通い出した。平井さんがそれまで趣味だった料理を仕事にしたいと考え出したのは大学時代。

「田舎から上京して、照明が薄暗いかっこいいお店で働きたいというミーハー心でフレンチレストランのキッチンでアルバイトを始めました。それまで勉強を頑張ってきたこともあり比較的できたので“自分はできる”と思いあがっていたのですが、店に入ってみたら、全くと言っていいほど仕事ができなくて。毎日先輩に怒られていたのですが、少しずつ仕事を覚えていき、やっと一人前にディナーの準備ができた日。来店したお客さんが『おいしい』と言ってくれたのを見て、どんどん飲食の世界にのめり込んでいきました」

運命を決めた起業家の言葉

そんな矢先に大学の授業でライフネット生命保険の創業者・出口治明さんの話を聞く機会があった。そこで「これだけは誰にも負けないという強みをつくったら、それで人生は広がっていく」という言葉を聞き、平井さんは「私は料理を、もっともっと究めてみたい」と思ったという。

それから平井さんは食べに行った店を気に入ると、いきなり「この店で働きたい」と直談判するなどして、さまざまな店で経験を積んでいく。大学に通いながら飲食バイトに明け暮れる日々の中、転機が訪れたのは、“世界一の朝食”と称される「bills」のアルバイト時代。

ワーキングホリデーを利用し、シドニーにある1号店・サニーヒルズ店で修業できることになったのだ。「お金をもらいながら料理も外国語も学べるなんて最高」と意気揚々と1号店に向かった。が、予想外の反応が待ち受ける。

「bills」サリーヒルズ店
写真=本人提供
「bills」サリーヒルズ店

役立たずすぎて、30分で業務終了

「1号店は忙しいキッチンを4人の少数精鋭で回していて。行ってすぐに『この食材、マイナイフで切って』と指示を受けたのですが、私はもちろんマイナイフなど持っていなくて……。店の人は、日本から助っ人が来る! と期待していたのに、来たのは全然仕事ができない私。『日本からヤバいやつが来た……』というような印象だったと思います。シフトに1日5時間くらい入る予定でしたが、初日は30分で帰されて落ち込みました」

しかしそこでも負けじとくらいついた平井さん。2週間後にはじめてヘッドシェフに「今日はユキナがいて助かったよ。ありがとう」とやさしく声をかけられたときは涙が出るほどうれしく、興奮してよく眠れないほどだった。

オーストラリアのシドニーにて、1号店のシェフと。
写真=本人提供
オーストラリアのシドニーにて、1号店のシェフと。

全貯金を使い飲食サービスを学生起業

シドニーで「料理を仕事にしたい」気持ちを強めた平井さんは、帰国してすぐに動き出した。貯金をすべて使って、キッチンの広い家に引っ越しそこで料理教室やケータリングサービスをスタート。

「そのうち、シドニーでの経験をもっと発信していきたい。自分のお店を出したいと考えるようになりました」

しかし、それまで平井さんのやりたいことには反対したことがなかった母が、本格的に起業して店を開くことには「心配だ」と反対した。

「ただ、もうやると決めていたので(笑)。開店準備を進めていたら母が東京までやって来て身の回りのことを手伝ってくれました。開店直後は本当に眠る暇がないほど忙しく、カフェの階で椅子を並べて横になる私を見て、母が半泣きになってしまい。今でも、当時店でかけていたBGMを耳にすると、嫌な気持ちになると嫌みを言われます……」

forucafe本店内観
写真=本人提供
forucafe本店内観
初期に開発したブリュレフレンチトースト。平井さんは今もよく店に顔を出し、キッチンやホール業務も行う。
写真=本人提供
初期に開発したブリュレフレンチトースト。平井さんは今もよく店に顔を出し、キッチンやホール業務も行う。

今でも支えになっている、中学時代の両親の一言

従業員を抱える今はだいぶ慎重になったと話す平井さんだが、学生のうちに女性が起業するのは想像以上に大変だったのではないか。母が心配したように、失敗することは怖くなかったのか尋ねた。

「中学生の頃、人間関係に悩んで学校に行くのが嫌になった時期があって。辛くて、もう学校に行きたくないと泣いたときに親が『どんなことがあっても家族だけは味方だから大丈夫よ』と言ってくれたのが子供ながらうれしかった。起業するときも、私には絶対的な味方がいる、という心強さがあったと思います」

写真=本人提供

今では、1歳10カ月の子を持つ母になった平井さん。「子供が大きくなって何かにチャレンジしたいと言ったら、私も何でもやらせてやりたい。もう少し大きくなったら、forucafeで楽しそうに働く自分の背中も見せられたら」と母の顔でほほ笑んだ。

今も昔も変わらないこと
ガッツ

「『ガッツがある』『忍耐強い』とよく言われます。シドニーの店でも『すぐにやめると思った』とあとで言われましたが、やめる気は全くなくて。子供時代から、頑張れば何かしらの結果が出るという小さな成功体験を積ませてもらったのが大きいかもしれません」
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