修学旅行の営業などで持ち前のバイタリティーを発揮、部下や上司との関係に悩みつつも管理職として成長。女性の部長職比率は27%と比較的高い中でも実力は群を抜き、今春のJTB経営統合後、初の女性執行役員となった髙﨑さん。キャリア33年目の今、振り返る最大のピンチとは?

上司のやり方に反発し、会議で糾弾したことも

男女雇用機会均等法施行の年に入社し、2018年春、株式会社JTB初の女性執行役員になった髙﨑さん。前例のないキャリアを、持ち前のタフさで積み上げてきた。

JTB 執行役員 髙﨑邦子さん

「日本交通公社が大卒女性を採用し始めて3年目に総合職として入社しました。最初に配属されたのが団体旅行の営業。いろんな学校の修学旅行を取り扱う仕事です。やはり入札で競合他社と争い、取ったり取られたりという世界ですから、取れずに落ち込むことも多かったですね」

今思えば自分の提案が学校側のニーズに合わず独りよがりなものだったとわかるが、当時はがむしゃらだったと振り返る。また、特別支援学級の修学旅行で、単なるビジネスを超えた感動体験もした。

「生徒さんたちが一世一代のイベントとして旅行を楽しんでいたことがうれしかったですね。もうすぐ卒業して就職する生徒さんが『また髙﨑さんに旅行を手配してもらえるよう頑張って働きます』と言ってくださって、その思い出は一生の宝物ですし、こういう体験をつくれるんだと、仕事にやりがいを感じました」

入社4年目にはグループリーダーとなり、後輩の営業ウーマンたちを束ねる立場になった。

「修学旅行が集中する5月頃は体力的にもしんどいですし、添乗すれば対人関係で嫌な思いをすることもある。後輩にはそういった思いをさせまいと守っていたんですが、本人が自分で困難を乗り越えることも大事なので、長い目で彼女たちの成長を考えれば、正解ではなかったかも」

試行錯誤しながらも営業成績はトップクラス。目標額を超えなかった年はないという。「あくまでひとりの営業であり、性別がたまたま女というような感覚。男女平等にチャンスが与えられる、良い会社なんですよ」

そして、28歳のときには、経験を積むため、オーストラリアへ。オセアニア支配人室に勤務し、カルチャーショックを受ける。

「まさに『豪(郷)に入っては豪(郷)に従え』。現地採用のスタッフは、みんな終業5分前にデスクを片付け始め、きっちり定時に帰ってしまう。当時の日本人と違ってワーク・ライフ・バランスを大事にする姿を目の当たりにし、価値観が大きく変わりましたね」

(中)南極大陸に到達!
(下)支店長時代は部下が60人

帰国して異動した営業開発室では、支店間をまたぐ大型プロジェクトを手がけるが、職場での人間関係で悩むことにもなった。

「それがモチベーションが最も落ちたときでしたね。私の直属の上司が、部下の仕事の進捗(しんちょく)状況をいちいち手帳に書き込んで確認し、報告を求めてくるような人で、私から見れば『その時間が無駄です』と(笑)。私より若い人たちもその報告のために無駄な時間を使いすぎていたので、抗議しました。すると『部下のくせに黙っていろ』というような反応だったので、がまんできず部署の会議中に『そのやり方はおかしい』と言ってしまったんです。でも今、自分が会議で部下からそんなことを言われたら嫌ですね(笑)」

仕事のスタイルが確立され、自信がついてくる30代らしいエピソード。これをきっかけに他の同僚からも不満が出て、上司のやり方は改善されたが、1年後には、新天地の広報部に異動した。

40歳で長女を出産し、働き方を大きく転換

しかし、異動直後、海外で事件が起き、日本人も巻き込まれて、連日、ニュースで取り上げられる騒ぎに。マスコミからは、JTB経由で予約し、事件に遭遇した顧客の情報を求められた。

「もちろん個人情報を話すわけにはいかないのですが、とにかく記者さんの責め立てがすごくて、私もまだ慣れていなくて、つい『今、調べております』と答えてしまったんですね。すると、もちろん『何時にわかるんですか? あんた調べているって言うたやんか』と5分ごとに聞かれて」

結局、数時間後に「私どもの口からは明かせません」と謝罪し、記者たちの怒りを買ってしまった。それ以来、広報のモットーとして「逃げるな、隠すな、嘘つくな」を心に決め、後輩たちにもそう指導している。

「あのときのことは今でも夢に見ますよ。間違いなく私のJTB人生で一番の大失敗でしたね」

そんな強烈な体験もしたが、それをきっかけに初期対応の大切さを実感。その後は会社と社会をつなぐ広報の仕事に情熱を傾けた。そして、47歳のとき、JTB西日本本社広報室長に就任。そこから役員への道が開けた。

「子どもを40歳で産んだことも、大きな転機になりました。計算外だったのは自分の子どもがこんなにかわいいということ。知らんかったわと(笑)。子どもと一緒にいたいから仕事を早く片付けて家に帰ろうとなるわけですよ」

仕事中心だったワーク・ライフ・バランスを見直し、現在の働き方改革とダイバーシティの推進を担う仕事につなげている。

「やはり会社の永続的な発展と社員の幸せ。これが両輪で進んでいかなければならない。社員にとって働きやすい職場とそのための制度を活用してほしいですね。そして、女性も思う存分、仕事で活躍してほしい。本当に母親のような気持ちでそう思っています」

役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
「夢見ることができれば、それは実現できる」(ウォルト・ディズニー)

Q 趣味
演劇・ミュージカル鑑賞

Q ストレス発散
仕事と子育ての両方を楽しむ

Favorite Item

星の王子さま
サン=テグジュペリの名作童話。「『肝心なことは目に見えない』など、珠玉の言葉が詰まっていて、付箋を貼って持ち歩いています。今の本は娘からのプレゼント」(髙﨑さん)

 
髙﨑邦子(たかさき・くにこ)
JTB 執行役員
関西学院大学法学部を卒業後、1986年に日本交通公社入社。97年に管理職初登用。2011年、JTB西日本本社広報室長に就任。14年に同社CSR推進部長。16年、同社教育旅行神戸支店長。18年、JTB執行役員となり働き方改革・ダイバーシティ推進担当に。
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