「脚立に乗るのも怖かった」新人時代を経て、いまは後輩の指導役として活躍する横田さん。“自立”のきっかけは、先輩からの一言だった。

ALSOKで唯一の女性技術スタッフ

神奈川県藤沢市の南を走る国道134号は、湘南の海沿いを貫く爽やかな道だ。

ALSOKの湘南支社に勤務する横田淳子(あつこ)さんは、例えば空が晴れ渡った日の朝、この道路を商用車で走り抜ける時間がとても好きだ、と言う。

ALSOK(綜合警備保障)湘南支社勤務 横田淳子さん

太陽の光に照らされた海が輝き、しばらくすると砂浜の向こうにこんもりとした江の島が見えてくる。「今日も頑張ろう」と、彼女は素朴に思う。

そんな風景を見ながら担当する顧客のもとに向かうと、前日の疲れや仕事の悩みがたちまち消えてしまう気がするからだ。

横田さんは全国に支社を展開する同社において、ほとんど唯一といっていい女性技術スタッフである。担当しているのは湘南エリアのホームセキュリティで、顧客の自宅を一軒一軒訪ねては、セキュリティシステムの設置やメンテナンスを行っている。

警備会社であるALSOKは、男性が圧倒的多数で、女性の現場スタッフは少ない。だが、湘南支社のセキュリティサービス部長・大川智彦さんは、「近年、彼女のような女性の技術スタッフが、この事業にとってとても大切な存在になっているんです」と語る。社会の高齢化や人々の防犯意識の高まりを受け、ホームセキュリティ分野の成長が著しいことが背景にあるという。

「法人のお客さまとは異なり、一般家庭ではご自宅の寝室に上がって機器を設置することもあります。また最近では、これまでになかった集合住宅のお客さまも増えてきています。そのとき女性の技術スタッフがいると、安心感があるという声をよくうかがうんです。黙々と作業をしてしまいがちな男性スタッフと比べて、とりわけ彼女は明るくてお客さまとのコミュニケーションが上手。将来はもっと上の立場になっていってほしいと期待しています」

全くの未経験から技術職に抜てきされる

横田さんがALSOKの技術スタッフになったのは、2004年のことだった。

地元の商業高校を卒業後、1999年に同社へ入社した。最初の1年半は事務職を経験、その後3年半は顧客企業に出向き、常駐警備の受付スタッフとして働いた。その新人時代にはセキュリティシステムの電源を切り忘れてフロアに入ってしまい、警備員が駆けつけてきたことがある。あれは大失敗でした――と、彼女は少し照れくさそうに話す。

「ミスをして先輩に怒られることも本当に多かったですね。ただ、そこで働くうちに自分がとても接客が好きなことに気づいたんです。だから、最初は仕事ができなくても、とにかく笑顔で、いつも元気でいることを心がけました。来社されるお客さまも、ニコニコと笑っているほうがいいだろうな、って思ったから」

【上】ALSOKで技術職に就いている社員/技術職の女性はまだ少数だが、顧客からの要望を受け、支社として今後増やすことも検討。【下】仕事の必需品/ノートPCと携帯電話。十字ドライバー、ニッパー、六角レンチの3点も必携アイテム。

そうした前向きな姿勢を上司は見ていたのだろう。常駐警備の契約期間が終わって支社に戻ったとき、「工事班の技術スタッフをやってみないか」と声をかけられた。

それまで、機器を触ったことは全くなかった。新しい仕事に不安を覚えなかったといえば嘘になる。しかし、それでも彼女は「現場で多くのお客さまと接する仕事」であることに、魅力を感じた。

「異動してしばらくは戸惑うことばかりでした。でも、いま思えば受け付けの仕事で接客に慣れていたから、技術を覚えることに集中できたんです。いきなり技術職を担当していたら、続かなかったかもしれません」

当時の自分を思い出すと、彼女は笑ってしまうと言う。例えば、点検で少し高いところにあるセンサーの電池交換をするとき、脚立に乗るのが怖くていつも腰が引けていたものだ、と。

「おい、姉ちゃん大丈夫か?」

新築住宅の建設現場で職人たちにからかわれながら、少しずつ仕事を覚えていったあの頃――。

そんななかで、工事班の仕事をじかに教えてくれたのは、当時、1人だけいた一回り年上の女性技術スタッフだった。

先輩からの思わぬ一言

技術スタッフの仕事は個人宅やその建設現場、顧客企業のもとへ行き、センサーなどを取り付けることだ。機器を使ってセンサーのデータをバージョンアップしたり、時には複雑な配線工事を行ったりする。

当初、横田さんは運転免許もまだ取得しておらず、教習所に通う日々を続けていた。だが、ある現場に出た帰り道、先輩から思わぬ一言があった。

「『横田さんはさっきの現場で何をしてきたかわかってる?』と聞かれたんです。あの頃はただ先輩の後をついていって、仕事の様子を見ているだけでした。仕事のできる先輩に甘えて、それでいいと思っている自分がいたんですね。でも、そう言われて、このままじゃいけないと思い直しました。一人で現場に出ても、仕事ができるようにならないといけない。以来、現場に行くたびに『自分にやらせてください』と言うようになったんです」

「次の点検もあなたに」と言われるのがうれしくて

2015年4月、工事を担当する工事班の班長になった横田さん。「班長から係長、課長へと昇進していってほしい」と上司も期待する。

また、彼女はその先輩女性スタッフから、仕事に対する「負けん気」のような気持ちも学んだという。これまで女性がいなかった建設工事の現場では時折、率直にこう言われることがある。

「女の人で本当に大丈夫か?」

「先輩はたとえそう言われても、全くひるまずにお客さまと話を続けていました。それで、わかったんです。仕事をきちんと終えれば、そうした声も必ず収まっていくものなんですね」

彼女がいまもよく覚えているのは、仕事を教えてくれたこの先輩が転職して社を去ったときのことである。

「もう横田さんは大丈夫。これまでずっと一緒にやってきたじゃん」

こう言われて現場に送り出されたその日は、彼女が一人前の技術職として認められた日でもあったに違いない。

仕事にやりがいを感じる瞬間

現在、横田さんは湘南支社の中堅社員となり、若い部下を指導する機会も増えてきた。同じ部署には2014年に配属された女性の後輩が1人いて、新人の頃の自分を見るような思いで見守り、声をかけている。

「最初はいろんなことがあるけれど、きちんと仕事をすれば誰も怒ったりなんかしない。だから、大丈夫だよ」

Holiday shot!【写真上】10年ほど前、仕事を一から教えてくれた先輩女性と2人でハワイ旅行に行ったときの一コマ。隣はカフェの店員さん。【写真下】技術職2年目の後輩・平田さんとは月に1回、会社の近くの居酒屋で反省会(女子会?)を開く。「仕事の後の一杯はおいしい!」

そして、何より彼女がやりがいを抱くのは、ホームセキュリティの現場に徐々に自分のような女性スタッフが増え、顧客にとってもそれが当たり前になってきていると感じるときだ。

「『女性が来てくれて安心』『次の点検もあなたにお願いしたい』と言われると、本当にうれしくなるんです」

この仕事を長く続けたい――そう思う瞬間だ。

「いまだに複雑な回線には苦手意識がありますし、技術面ではまだまだ修業中の身です。だからこそ、お客さまとのコミュニケーションでは笑顔を絶やさず、顔を覚えてもらえるように努力をしています。これからも一つ一つ経験を積みながら、できることは何でもやってみよう、と思います」

 

■横田さんの24時間に密着!

6:00~7:00 起床・朝食・準備
7:00~8:30 自宅出発
8:30~9:00 出社・メールチェック
9:00~10:00 朝礼・出発準備
10:00~12:00 点検・工事
12:00~13:00 昼食
13:00~16:30 点検・工事
16:30~18:00 帰社・内勤
18:00~19:30 退社
19:30~24:00 帰宅/夕食
24:00~6:00 就寝

【写真左上から時計回りに】朝礼では全員が起立してスローガンを読み上げる。/技術車を運転して、アポを取った顧客先へ向かう。/午前に2件、午後に3件ほどの点検業務をこなす。/夕方は支社に戻り、報告書作成等のデスクワーク。
横田淳子
商業高校卒業後、1999年にALSOK入社。事務職を1年半、顧客企業の受け付け業務を3年半経験した後、技術職に転身。ホームセキュリティシステムの保全業務に従事する。