「3.11」から5年が過ぎ、今、被災地の福島では、農業から復興を盛り立てようと奮起している人たちがいます。その活動に着目したのは、イギリスのエシカル企業「ラッシュジャパン」。生産者・製造販売者・消費者の3様がハッピーになる、ラッシュだからできる貢献のカタチをレポートします。

エシカル企業だからできる、有機的な復興支援

東日本大震災から5年。

1998年に日本進出したラッシュジャパンは、自然素材を使用し、動物実験を行わないコスメ・ブランドとして、ハッピーで楽しい商品を提案しながら、社会的メッセージを明確に打ち出してきた。近年注目される「エシカル」な企業の老舗と言っていいだろう。

※エシカル(Ethical)とは、英語で「倫理的な、道徳的な」という意味。そこから転じ、最近は主に「人や環境に配慮した考え方、またそれを選ぼうとする行動」を指す言葉になっている。

そんなラッシュジャパンの震災復興支援は、被災地のパートナーとしてコツコツと一緒にビジネスに取り組もう、という方法である。震災直後にあえて義援金を送らずに、消費税以外の売り上げ全てを寄付するチャリティ商品や、被災した人たちのイギリス本国へのツアー招待、東北でのイベント開催など、さまざまなアクションを伴うかたちで行ってきた。この5年間で、東日本大震災関連の復興プロジェクト数は128、助成額は1億7400万円弱になる。

2016年3月1日から始まった「つながるオモイ」キャンペーンも、そうしたラッシュジャパンらしい復興支援の一環である。

 
オーガニックコットン使用の「KNOT WRAP(ノットラップ)」は2種。「コットンフラワー」「ナノハナ」(写真中/右、画像は商品の一部)は、ともに700円(税込)。ラッピング布として使った後は、お弁当を包んだり用途はいろいろ。おしゃれにエコを楽しむスタイルはラッシュならでは。

隠れた人気商品の「KNOT WRAP(ノットラップ)」。カラフルなデザインの布地で、通常はペットボトルのリサイクル生地を使用しているが、キャンペーンではこの原料に、日本限定で、福島の企業組合「いわきおてんとSUN」が生産するオーガニックコットンを使用した。

KNOT WRAPは、プレゼント用に購入した商品をラッピングしたり、結んでミニバッグにしたり、スカーフとして首に巻いたりと、活用範囲が広いエコロジカルな風呂敷だ。柄の種類は“綿の花”をイメージした「コットンフラワー」、“菜の花”をイメージした「ナノハナ」と2つのデザイン。

47×47センチメートルの小さめサイズで、良質なコットンならではのハリのある風合いが心地良い、キュートなKNOT WRAPに仕上がった。価格は税込700円。手に取りやすい価格設定で、オーガニックコットン生地の肌触りを体感しながら、福島への気持ちを忘れないように、という工夫を感じる。

「和綿」で紡ぐ福島産オーガニックコットン

茶色っぽい綿の風合いが特徴の、日本原産種「和綿」。収穫量が少なく稀少だ。

2013年にスタートした「いわきおてんとSUN」は、オーガニックコットン事業、コミュニティ電力事業、スタディツアー事業の三つの柱を持った企業組合。その中のオーガニックコットン事業は、福島の農業再生と地域活性化に向けた新しい取り組みだ。

コットンと聞くとナチュラルなイメージがあるが、世界の綿花栽培の現場は、実は過酷な環境にある。大量の農薬が撒かれ、土壌汚染もあり、栽培農家の人々の健康に被害が出た例は後を絶たない。

そもそも綿花栽培は、『アンクル・トムの小屋』や『風と共に去りぬ』で描かれていたように、奴隷労働によって、大きな産業に発展した歴史がある。現代の安価で取引される綿花を材料にしたコットン生地は、農薬によって作る人や環境に負荷がかけられたものと考えたほうがいい。

そうした農薬によるさまざまな負荷を、可能な限り減らしたクリーンなコットンが、オーガニックコットンだ。

「いわきおてんとSUN」の事業は、農薬を大量に使用しないで済む、塩害に強い日本在来種の「和綿」を栽培し、布地生産、製品化まで手掛けるプロジェクトである。文字通り、種からの"メイドインジャパン"で、福島に雇用と産業を生み出し、国産のオーガニックコットンを福島から発信するという志で、事業に取り組んでいる。

【写真上】「いわきおてんとSUN」代表理事の吉田恵美子さん【写真下】同、オーガニックコットン事業部の酒井悠太さん

とはいえ、納得のいく高品質のオーガニックコットンは、そう簡単に作れるものではない。まだまだ、生産量が少ないのが現状だ。そのため、大量生産ビジネスに対応するのは難しい。一方で限られた貴重な原料を安価で提供するわけにもいかない。

これまでもノベルティの発注などはあり、それもうれしい反応だったというが、生産量と価格がネックとなって、商品化にこぎつけた例はなかった。だから、ラッシュジャパンからの誘いも、最初は「本当に実現するのかな」と半信半疑だったという。

そう考えると、700円の価格設定はリーズナブルだが、この価格が実現できたのには秘密がある。貴重な福島産の「和綿」を5%、アメリカ産オーガニックコットンを95%といった配合にしたのだ。

気軽に買えるKNOT WRAPが、未だ復興途中にある福島への思いや、環境にやさしいコットンについて考えるきっかけになる。持って楽しいファッショナブルな柄の商品になったのも、インパクトのあるデザインが得意なラッシュジャパンならではの「貢献」だろう。

企業の個性がひかる復興支援

キャンペーンではKNOT WRAPに加え、ソープ「つながるオモイ DROP OF HOPE」も商品化した。主原料は杉内清繁さんが代表理事を務める「南相馬農地再生協議会」の菜種油「油菜ちゃん」。菜種油以外の成分は、しめじや豆腐、オレンジ花エキスなどが入っている。

「つながるオモイ」キャンペーンでは、他にも「一般社団法人 南相馬農地再生協議会」が生産する菜種油「油菜ちゃん」を使用した、クリーミーな泡が特徴のソープ「つながるオモイ DROP OF HOPE」も発売。こちらは税込1200円だ。

「いわきおてんとSUN」が参加したKNOT WRAPの1枚「ナノハナ」は、菜種油がとれる南相馬の菜の花をイメージした柄。こんなところにも、あたたかな「つながるオモイ」が感じられる。

「つながるオモイ」キャンペーンのために集まったのは、左から順に「ラッシュジャパン」バイイングチーム・リーダーの黒澤千絵実さん、「南相馬農地再生協議会」杉内清繁さん、「いわきおてんとSUN」吉田恵美子さんと同・酒井悠太さん、「ラッシュジャパン」チャリティ キャンペーン・マネージャーの高橋麻帆さん

企業の個性は復興支援のやり方にも表れる。さまざまな草の根活動と手をつなぐラッシュジャパンによる、東日本大震災を忘れないための「つながるオモイ」キャンペーン。あの日のこと、これまでのこと、これからのことを考え続けるために、あなたもオモイをつなげてみませんか。

■ラッシュ・ジャパン「つながるオモイ」キャンペーン
https://www.lushjapan.com/
■「いわきおてんとSUN」
http://www.iwaki-otentosun.jp/
■「一般社団法人 南相馬農地再生協議会」
http://minamisoma-nouchisaisei.org/