経歴や学歴、収入の高さが邪魔をして婚活がうまく進まない……、そんなアラフォーキャリアが、婚活アドバイザー・大西明美さんの経営する結婚相談所で、“結婚決定までの最短記録”を打ち立てました。彼女が幸せをつかむまでのプロセスを追います。

年収1000万円超えのキャリア女性現る!

「わ、年収1000万円を軽く超えてる……」都内在住のアラフォー女性から結婚相談が申し込まれた。私の経営する結婚相談所では、申込書に年収を書く欄を設けていない。本人に会う前に先入観を持ちたくないからだ。しかし、彼女は備考欄を使ってあえて年収を書いてきた。「私は、年収と経歴のせいでお見合いもままなりません。その辺りも踏まえてどうぞよろしくお願いいたします」とあった。

「婚活が進まない」というバリキャリ女性の悩みを聞きますが、結婚相談所の人たちの悩みも同様に深いものでした。

私は読んだ瞬間、頭を抱えた。「困ったなぁ。うちだって、同じだよー!」男性は、自分より経歴や年収が勝っている女性に対して、はっきり言って“引く”。そこを「まあまあ」と言いながら、お見合いを成立させなければいけない。とはいっても、「俺より年収は高いけれども、会ってみたら運命の人かもしれないし」という男性が1人か2人は現れる。

すると、今度は違う問題が待ち受けている。「私の経歴を考えてくれていますか? なんでこんな教養のなさそうな人を紹介するんですか!」と、女性から怒られたりする。結婚相談を仕事にしているとはいえ私も人間なので、この手のやりとりは面倒だから気が重くなる。もー、だから会う前に年収情報聞くの、嫌なんだよー!

“デキる男”であることよりも大事なこと

相談の日、時間通りに彼女は現れた。ウェーブがかったロングの黒髪に、紺色のパンツスーツがばっちり決まっている。テレビドラマで見るようなイメージ通りの“バリキャリ”といった風貌だ。

冒頭、いきなりパンチを食らった。彼女が言ったことは衝撃的だった。「大西さん、誤解してほしくないのではっきり言います。私は、男性の年収も経歴もどうでもいいんです。求めるのは、私を1人の普通の女性として扱ってくれる人、これだけです」

なんだ、これ? いつものキャリア女性の展開と違う。「ふ、普通って……? どういうことですか」「なぜ、普通って言っているのかをまず説明しなければいけませんね」

いわゆる“デキる男”と呼ばれる高年収の男性を紹介されても、彼らの方から知識量や教養を張り合ってくるため疲れる。超高収入を得られると言われる学歴と資格を持つ彼女が「すごいですねー」と言っても、「なんだよ、嫌な感じ」となってしまう。明らかに学歴も経歴も女性の方が上であることにより、男性をみじめな気持ちにさせてしまうらしい。

彼女の言い分はこういうことだった。「だからね、いっそのこと学歴が一切物を言わない、私とは全然違う世界で生きている人がいいんです」

私は少し意地悪な気持ちで言った。「年収が300万円台の職人さんがいますが」「えっ、とても興味があります!」「はっ!? ホントですか?」

彼は、特殊技能を持った建築系の工芸職人だった。中国からの輸入品や工業製品に押されて、どんどん年収が下がっていると言っていた。「お金じゃないんですよね。僕じゃないとできないものを作りたいんです。そこに燃えるんです。とはいえ、ホント甲斐性のない男ですよね」自分のことをそう評しながらも、仕事に誇りを持つ人特有のイキイキとした目が印象的な男性だった。

そんな話をしたところ、「大西さん、すごい! その人と絶対会ってみたい!」ということで、彼女は即入会。彼と会うことになった。

婚活は1週間! そして彼の年収は倍増

結論から言うと、彼女はそのお見合い1回で結婚が決まった。婚活はわずか1週間。この最短記録は今も破られていない。記録を打ち立てたのが若い女性でもデキる男性でもないから、この仕事は本当に面白い。

彼女は、職人の仕事の話に夢中になった。「これも僕が作ったんだよ」と、彼が携わった建築物を巡るデート。彼女はキャリア女性としてではなく、普通の女性として心から彼を尊敬した。

そんなラブラブな日々の中、彼女の一言が彼の運命を変えた。「あなた、こんなに高い技術を持っているのだから、もっとお給料が多くないとおかしくない?」「えっ、そうなの?」「そうだよ! 私が調べてみる」彼女の仕事で鍛えられた眼は、問題を見逃さなかった。彼は相場の半額以下で雇われていることが分かった。その後、彼のインターネット就活が始まる。逆リクルートという制度を使い、同業他社からのオファーを受けた。転職後の年収は以前の2倍を超えた。

結婚する頃には、さらに彼女の年収に近づいていた。その彼が私に言った。「夢のような人生です。彼女は、仕事がデキるかもしれませんが、本当に可愛い普通の女性ですよ。でも僕の挑戦には心から応援してくれたんです。仕事柄、働きながらの転職活動は難しい。『いったん仕事を辞めてもいい?』と、結婚直前に彼女に聞いたんです。『いいよ。今、あなたが転職で失敗したって私がいるじゃない』って。ホント励まされましたよ」

なんと、結婚直前という大事な時期に、彼は転職活動のため一時的に無職になっていた。彼女は、彼を支えるために自分がいる。だから構わないのだと彼の挑戦を精一杯応援したのだ。

「自分の教養レベルに合わないと」とか、「学歴が違い過ぎたら何を話したらいいのか分からないので相応の人を」とは、決して彼女は言わなかった。「結婚したらずっと一緒にいるのだから、素の自分を愛してくれる人がいい」そして選んだ彼は、今やデキる男の仲間入り。

世の中では「嫁ブロック」と言って、夫の夢を邪魔する嫁が話題になっているけれども、バリキャリ女性は「嫁アタック」力を発揮してみてはいかがだろうか<参考記事:共働き夫婦が思わぬ「嫁ブロック」をしないために必要なこと(http://woman.president.jp/articles/-/992)>。

大西明美
婚活アドバイザー。結婚相談所を経営。1977年大阪府生まれ。東京都文京区在住。過去20年で延べ4万3000件の恋愛を研究してきた婚活指導の第一人者。小中学校ではイジメを受け友達がいなかったため、周囲の人間関係を観察することを目的にして登校を続ける。特に恋愛に注目してコミュニケーションを学ぶ。高校生のとき、初めてできた友人に恋愛相談を持ちかけられ、日頃鍛えた人間観察眼を生かしたアドバイスを行い、無事に解決。それをきっかけに恋愛相談が立て続けに舞い込むようになる。婚活指導を通して、5年間で200組以上のカップルを成婚へと導いている。
著書に『となりの婚活女子は、今日も迷走中』(かんき出版)がある。