「投資は、お金持ちが自分の資産を増やすためにやっているもの」と思っていませんか? 私たちが当たり前のように享受する便利で豊かな生活は、この投資と深く関わっているのです。セゾン投信社長・中野晴啓さんにその関係について教わります。

「投資」の真理は、次世代のためのお金活用にあり!

新しい年が始まりました。昨年より連載「知的でエレガントなお金の育て方、教えます」を通じてお伝えしてきた「脱・預金バカ」。その最重要ポイントは、自分のお金をインフレに打ち勝つ資産に置き換えることであり、そのための適切な行動規範はズバリ「長期投資」です。

多くの日本人が、投機的行為を「投資」と混同し、本物の投資の概念を誤解していることは前回の連載第6回「なぜ世間のお母さんは『投資は危ない!』と言って子供を育てるのか」(http://woman.president.jp/articles/-/837)でお伝えしました。では「投資」という言葉の正しい定義とは何か? 辞書を引いてみましょう。「三省堂 大辞林」には、「利益を得る目的で、資金を証券・事業などに投下すること」とあります。またウィキペディアを検索してみると、まず「投資とは、主に経済において、将来的に資本を増加させるために、現在の資本を投じる活動を指す」と定義付けされ、「金融における投資」なる項目へと続きます。そこでは実に正確に「投資」の概念が説明されており、「投機」との違いも明快に述べられています。秀逸な解説ですが、表現が非常に難解です。

「投資なんて自分とは関係ない」と思っていませんか? 実は今、便利で豊かな生活ができるのは、過去に行われてきた投資と密接に関係しているのです。

この小難しい説明の中でとりわけ重要なのは、“将来”のために“現在”の資本(お金)を活用する、という趣旨が述べられている点です。つまり本来の「投資」とは、未来に向けて、今あるお金を活用していくこと、すなわち今を生きる私たちが、次の世代のためにお金を使って経済をより大きく豊かにしていく行為であるという真理を、まずは知ってほしいのです。

これこそが、今すぐ儲けを求める「投機」との違いであり、ゆえに未来に向けた時間軸を前提にした「長期投資」が必然となるわけです。

豊かな生活を実現する立役者は誰か?

より具体的に身近な例で説明しましょう。人は誰しも今よりもっと豊かな生活を欲するものです。もっと楽しくて、もっと快適で、もっと便利で、楽ちんで、ゴキゲンな日々を求める生き物であることは、自明の理でありましょう。

そして気が付けば、些細(ささい)なことからびっくり仰天することまで、いろいろな願望がいつの間にか実現しているということが、周りにたくさんあるはずです。冬には温かく、夏には涼しい暮らしがあり、トイレに入れば当たり前のようにボタンひとつで水がジャーっと流してくれる。あるいは江戸時代には東京から大阪まで東海道をテクテクと1カ月近くもかけて歩いていた旅が、今では3時間足らずで新幹線が運んでくれる。当時は船で何カ月もかかり決死の覚悟が必要だった海外渡航だって、ジェット機を使えば大概その日のうちに移動できます。

僕が若い頃は、彼女の家に電話するとお父さんが出ちゃったりして、いつもドキドキしていましたが、今では携帯でいつでも彼女に直接連絡できるようになり、おまけに遠距離恋愛だって、画像を送ったり動画で会話ができたりするから寂しくなくなったでしょう。かつて夢想されていたテレビ電話の機能が、誰でも安価に使えるようになって……と振り返ると世の中は驚くばかりの進化を遂げています。

また、ひとりじゃとても持てない重い荷物だって、宅配便のお兄さんが笑顔で家まで持って来てくれる。そんな今日では当たり前の日常生活の数々が、過去には夢だったって、思い至りますよね? 自分が子供から大人になる数十年の間でさえ、社会は絶え間なく進歩・発展を続けているのです。

では、それっていったい誰が実現させてくれているのでしょうか? 私たちの生活を豊かにしてくれているのは、事業・ビジネスなのです。そう、私たちに喜びや感謝・感動・満足を伴う豊かさを提供してくれる主体は、ビジネスを営む企業であるということです。

「投資」で経済活動に参加できる

そして、ありがたい製品やサービスを発明し進化させるためには、ビジネスに携わる人達の必死の努力と共に、たくさんのお金が、そして進歩を実現させるための長い時間が必要であることは、皆さんにもお解りいただけるはずです。本物の「投資」とは、そうした私たちを豊かにしてくれるビジネスの中に、お金という養分を投入していく行為なのです。

前回の連載第6回「なぜ世間のお母さんは『投資は危ない!』と言って子供を育てるのか」(http://woman.president.jp/articles/-/837)に書いたフレーズを繰り返します。本物の「投資」とは、社会的需要に裏打ちされた事業・ビジネスが必要とする資金を融通する行為! 今度はきっと得心してもらえると思います。

ステキな製品やサービスに、たくさんの人達がありがたいと言ってお金を払うから、企業には売上が立って、積み上がった売上から利益が生まれる。ビジネスが新たな利益(富)を増やすことを成長と言います。そして富の増大の集積が、経済成長なのです。

そんな製品やサービスを購入するのに対して、お金を使ってその企業を直接支えることができるのが投資です。

本物の長期投資マネーは、もっと豊かな社会を実現する経済成長に資する、未来・次世代に向けた経済活動の糧であり、私たち生活者にとっての「長期投資」とは、自らがお金を通じて経済活動に参加することに他なりません。

僕は資産運用業の現場に携わる者として、「株式や債券の投資先企業に対して、世の中を驚かせて感動させたい!」と頑張っている、その事業に携わる人達の汗と涙と努力の結晶に思い馳せぬわけにはいきません。どうですか? 「投資」って、本物の「長期投資」って、とってもカッコ良くて気持ちいい行動だと思いませんか?

では、こうしたステキな「長期投資」はどこからリターンが得られるのか? どうして「長期投資」こそが、インフレに打ち勝つ行動規範なのか? 次回じっくり解説してまいりましょう!

中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信株式会社 代表取締役社長。1987年明治大学商学部卒業後、現在の株式会社クレディセゾン入社。セゾングループで投資顧問事業を立ち上げ、海外契約資産などの運用アドバイスを手がける。その後、株式会社クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年に株式会社セゾン投信を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現し、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代を中心に直接販売を行っている。セゾン文化財団理事。NPO法人元気な日本をつくる会理事。著書に『投資信託はこうして買いなさい』(ダイヤモンド社)、『預金バカ』(講談社)など。