言葉にしなくても、顔にはさまざまな表情があり、感情や性格を雄弁に語ります。 営業では、相手の機嫌や性格傾向で、営業トークの切り口を変える必要があるのです。交渉を有利にコントロールする、読心術のテクニックをパフォーマンス学の第一人者、佐藤綾子さんが伝えます。

さまざまな情報が読み取れる「顔」

営業活動での出会いは一期一会。初対面の短いやりとりで、相手の好感と信頼を得るのが、まずは成功につながる第一歩です。そのためにはまず、“相手を知ること”が重要となります。できれば同時に、性格傾向まで把握できると、その後の展開をよりコントロールしやすくなります。

でも、初対面で相手の感情や性格まで一握できるのでしょうか? それがあるのです。「顔」――つまり表情です。そもそも顔は、社会的知性が全て凝縮しているパーツ。つまりその人を解読する「キラーパス(サッカー用語から転じて、最適・最強のメッセージのこと。ダイレクトなメッセージのこと。)」なのです。例えば、顔で分かる、主だった感情や性格は下のようになります。

●感情、欲求、性格を見抜くキラーパスとしての「顔」
・自信があるかないか
・リラックスしているか緊張しているか
・勇気があるかないか
・自己顕示欲求が強い人か弱い人か
・人を守ってあげたいという擁護欲求があるかないか
・今仕事に成功しているか失敗しているか
・ウソや隠し事があるかないか
・悲しみと喜びの感情のどちらが勝っているか
・欲求が満たされているか欲求不満か
・驚いているか無感動か
・軽蔑しているか尊敬しているか
・優しいか意地悪か

このほか「顔」から発せられる情報から分かる、4つの事柄を紹介しましょう。

1.「スマイル」の量で分かる、自信と幸福の尺度

「自信」あるいはその反対の「不安」と、「幸福」とその反対の「不幸」のバランスは、スマイルのサイズと時間で如実に分かります。

話すために口の周りの筋肉が動くのは当然として、人は笑うと、総称「笑筋」という口の周りの筋肉と目の周りの筋肉が収縮してスマイルマークのような顔になります。この時、この筋肉を大いに使って、笑顔の量が増えていれば自信があることを示し、一方で笑顔が少なければ何かがうまくいっていない、あるいは自分自身に不安を抱えて不幸感がある、と測ることができます。私の実験データでは、日本人の2者間対話で会話がうまくいっている時、スマイルの量は1分間当たり34秒以上。対話時間の半分以上のスマイルが確認されています。

あなたの営業相手はいかがですか? イーブンに話せる相手なのか、それとも自信なさげであなたの主導権を必要としているタイプなのか。同じ提案をするにも話の入り口や、提案方法が違ってくるはずです。

2.「アイコンタクト」で分かる勇気、顕示欲求、養護欲求

アイコンタクトの3要素【(1)見つめる方向性(2)見つめる長さ(3)見つめる強さ】のバランスで分かるのは、「勇気」の有無、そして「顕示欲求」と「養護欲求」の強弱です。

■「勇気」の有無を判断して落ち着いて話せる環境づくりを

アイコンタクトが弱々しい時は、本人に勇気がなく、おっかなびっくりした目つきになります。またまばたきが通常より急増している時は、その人を見て「落ち着かないな」と感じるでしょう。まばたきの急増は、心理学的には欲求不満と強く関係し、「転位行動」と呼ばれます。何かしら環境や現状に不都合があり、他の動作でごまかそうとしている行動です。まばきの回数は1分間当たり、37回以下ならば日本人としては普通なので、やたらにまばきが増えていれば、嘘をついているか、隠し事をしているか、困惑しているか、のいずれかだと注意してください。3つ同時に発生している場合もあります。

貧乏ゆすりや爪をかむなども同様です。こんな動作が出ていたら、何かストレスを感じ、外界に対してあるいは目の前にいるあなたに対して、ストレスや不信感を持っているのだと気をつけましょう。両者の距離が近すぎないか、周囲の音が大きすぎないか、何が相手にストレスを与えているのか、まず冷静に考えてみましょう。

■「女性の見つめ」と「男性の見つめ」の違いを知ろう

営業相手が男性の場合、ビジネストークの最中にあなたをしっかり見つめてきたら、その人は「変化欲求」の強い(現状をよくしたいと思っている)人、あるいは「顕示欲求」の強い(自分のしていることを、あなたに見せつけたい)人であることが多いです。これはEPPS(Edwards Personal Preference schedule)という心理テストと組み合わせた、私の実験結果です。これが女性の場合、あなたをよく見つめていれば、守ってあげたいという「養護欲求」で見ている場合があります。

また男性と女性で“見つめる強さ”に共通しているのが、「顕示欲求」です。顕示欲が強く、自分を見てほしい、話を聞いてほしいと思っている人は、男女ともに相手のことをよく見つめています。営業相手からの強いアイコンタクトに気付いたら、自分の提案をしようと焦る前に、まず相手の話をよく聞いてあげましょう。

3. ウソが見抜ける「表情のズレ」

表情筋の動きにズレが出る人がいますが、これは本意でないことを言ったり、そもそも正直に物事を進めていない場合があります。ズレを素早く読み取って、対応を考えてください。

■表情がズレる3つのケース

(1)言葉にする感情と表情筋の動きがズレている場合
例:口では「おめでとう」と言っているのに、目は無表情である。
→「おめでとう」と言いながら心では喜んでいない。

(2)表情の上半分と下半分が違う感情を表現している場合
例:「お待ちしておりました」と口元は微笑んでいるのに、目がキッとなっている。
→実はあなたの来訪を喜んでいない。

(3)表情筋の開始動作が時間的にズレている場合
例:「ジャケットがとてもよくお似合いです」と接客する際、口元と目元の笑いに時間差がある。私の実験では、まず顔の下半分が動き出し、つられて上が動く。
→実はその服、あなたに似合っていません。

●うそをつく時に表れる不自然な表情
・アイコンタクトの時間が減る
・口元の笑いと、目の笑いに時間差がある
・瞬きの回数が増える
・目を異常に大きく見開く
・唇をなめる
・ぬすみ見をする
出典:『目つき、顔つき、態度を学べ!!』佐藤綾子著/ディスカヴァー・トゥエンティワン刊

4.「口」の動きで分かる幼児性性格

一般的に偉いと言われる人の中には、親の七光りなど偶然に偉くなった人もいれば、反対に偉くなれずに、その原因が人のせいだと思っている人もいます。どちらも現実認識と他者認識の甘い、幼児性性格を備えた場合があります。

幼児性を見分ける術は簡単です。人と話す時に、唇を前に突き出し、尖らせているのが最も分かりやすい例です。人に配慮をする気がないので、その時の感情で唇を尖らせ、場合によっては眉をハの字にさせて「不愉快だ」と気分を表現します。

このような人たちは感情コントロールが下手な甘ったれ屋さん。仲間に持つと苦労しますし、営業先でこういう幼児性性格の人物と出会ったら、その人の態度に対して本気で腹を立てずに上手に話を合わせておき、あとでさらに決定権がある人と話をしましょう。

佐藤綾子 パフォーマンス心理学博士

常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。