腕にあざができるほど……

メディア関係者を訪ねて説明しても、「やっぱり1枚2000円のほうが効果あるんじゃないの?」と厳しいことを言われて、なかなか取り上げてもらえません。

グライド・エンタープライズ取締役 佐藤すみれさん

サンプルを持って女性誌の編集部やライターさんのところを毎日まわりました。サンプルとしてお渡しする商品ひとつがだいたい500グラムくらいです。5人とアポイントを取っているときは5つ持っていけばいいのですが、途中で誰か他の人に会うかもしれないと思うと、結局10袋を腕にかけて電車に乗って、歩いて……。ですから、もうバッグを下げる肘の内側があざだらけ(笑)。そのうち、旅行に出かけるみたいにカートをゴロゴロ引くようになりました。

その頃は他社製品のPR業務はすべてやめ、ルルルンだけに絞っていました。商品ラインナップが多いと、相手の欲しがっている情報に合わせて、ご紹介する商品を選ぶことができます。けれど、もはやルルルンしかありませんから年間を通じて企画に組んで頂くのは大変でした。「できればフェイスマスクの特集を組んでください」「保湿企画のときは、フェイスマスクも取り上げてください」とお願いし、フェイスマスクの効果を示すデータも提供しました。

薬事法の関係で、フェイスマスクの効果を誌面に出すことはできません。しかし、企画を立ててもらうためのデータが必要です。たとえば、化粧水をそのまま肌に浸透させるのと、フェイスマスクを併用したときの水分量の継時での変化といったデータです。

最初オンラインショップだけで扱っていたルルルンが、12月からプラザやロフトなどのバラエティショップ、コスメショップに置いてもらえるようなり、売上がボンと伸びていきました。

社長から、取締役の打診

会社の売上が伸び、社員の数も徐々に増え、今は15人ほどです。13年に社長から「取締役をやってみないか」と言われました。ルルルンは女性向けの製品でもありますし、がむしゃらに働く姿を見ていただいて私が選ばれたのかなと思います。何より社長の言葉だったので、ありがたく受けることにしました。いつも「女性が自分の考えでビジネスができ、頑張れば取締役にもなれるという会社をつくりたいんだと」と話している方で、女性が活躍することにリスペクトを持っているようです。

私は男性と張り合って意見を通すタイプではありませんし、バリバリと仕事ができるわけでもありません。「私に取締役が務まるかな」と少し不安でした。昨年末に結婚した主人からは「頑張れ」という励ましの言葉をもらいました。

うちの男性社員はどんどん引っ張ってくれる人が多いので、ならば「相撲部屋のおかみさんのような取締役になってもいいのかな」と考えています。親方が厳しい稽古をつけている横で、フォローにまわる。社員の悩みを聞いたり、健康に気づかったりするおかみさん役です。

取締役になってみると仕事や会社に対する見え方が違ってきます。それまで会社の中で自分は何ができるだろうかと考えていたのが、うちの会社が社会の中で何ができるんだろうかと視点の転換がありました。「世界を変えるルルルンプロジェクト」では、ザンビアに水タンクをつくる活動を始めています。今後も「今まで手の届かなかった高品質な化粧品をすべての女性が使える価格へ」という使命を持ち、商品を生みだしていきたいと思っています。

●佐藤さんのキャリア年表

2007年(22歳) 青山学院大学文学部卒/ノバルティスファーマ入社
2008年(23歳) ヨガインストラクターに
2009年(25歳) グライド・エンタープライズ入社/国内化粧品ブランドのPRを担当
2011年(27歳) フェイスマスクルルルンの立ち上げメンバーとして、PRと商品開発を担当
2013年(29歳) 取締役就任

■仕事道具
ラボで着る白衣、マスクの形を決めるときに使う日本人女性の平均顔型マネキン「顔黒子ちゃん」。訪問先が不在の場合にひと言を書き残すメモも常に手元にある。