4800人の意見をまとめる経験

私にとってキャリアの転機になったのは、2013年まで労働組合の専従をしていたことです。当時、エネルギー本部にいた私は、オファーを受けたときとても不安になりました。20代から30代になっていく大事な時期に、事業部を離れてしまっていいのだろうか、と。

でも、結果的にその2年間で、とても大切なことを学べたと思っているんです。

三井物産 メディカル・ヘルスケア事業第一部 寺田理恵子さん

労働組合の専従というのは上司がいないんですね。数名の専従の組合員が組織のトップを任され、様々な意思決定の責任を取る立場になるわけです。ちなみに、女性総合職の専従は私が初めてでした。

三井物産の労働組合は4800人からなる組織です。ちょうど会社では十数年ぶりに人事制度が大改定される時期でしたから、従業員側の意見を取りまとめ、会社側と折衝していくことは、10年そこそこのキャリアの私には非常に重いものでした。相談できる上司がいない中で、たくさんの反対意見の一つひとつに向き合い、4800人の意見を1つにまとめていくプロセスは途方もないものでしたから。

これまで事業部という商社のイメージ通りの部署にいた私にとって、毎日が悩んでばかりの仕事でした。事業部門というのは、世の中に価値のあるものを生み出して、その価値が認められれば適正なリターンが戻ってくるわけです。一方で労働組合の仕事は、社員一人ひとりにとって何が価値あるものなのかが変わるんですね。

その2年間で、私は会社や仕事というものの本質の一端に触れた気がしたんです。

専従になるといろんな立場の社員から、相談や悩みごとを聞くようになります。社員の多様な声を聞いていると、人の活躍には、その人の意識や意欲のみならず、会社の用意している仕組みや施策、上司や周囲との関係性も大きく影響する、と実感します。

本当は力のある人でも、会社の制度や上司とのコミュニケーションの歪みによって、それを発揮できないことがある。逆に言えばそれを少し取り除くだけで、力を大きく発揮できるようにだってなる。

商社というのは人がすべての組織です。その能力を1%でもさらに発揮できるようにすれば、6000人もの社員がいるわけですから、とても大きな効果があるはず。そのことを実感する仕事に携わったことは、事業部でただただ突っ走っていた私にとって、会社というものの見え方が深まる体験でした。

数年に一度、「新人」に戻る

それにしてもこのわずか10年を振り返っても、ファッションビジネス事業部、エネルギー本部、労働組合、病院への出向と、次々に新しい分野で働いてきたものだと思います。

その度に全くの新人になってしまうので、本屋さんで入門書を買って勉強するところから始めてきました。当然、これまでの人脈や知見が一度リセットされてしまうわけですが、最近はそれこそが商社で働くことの醍醐味だと感じるようになってきました。

同じ組織と環境に長くいると、自分がいちばんそのことに詳しいという錯覚に陥るものです。そうするとイノベーションも起こりづらくなってくるかもしれない。もちろん変わりすぎるのも問題ですが、こんなふうに数年ごとに「新人」に戻ることを面白がれることが、商社での仕事を楽しんで続けていく1つのコツなのでしょうね。

三井物産の中では医療分野はまだ始まって数年。だからこそ、いまは自分がいちばんこの分野に詳しくなるぞ、という気持ちで取り組んでいます。そのなかでどんな出会いがあるのか、これからの1年、1年がとても楽しみです。

●手放せない仕事道具
作業着。現場に出るときはいつも身に着けている

●ストレス発散法
飲むこと!

●好きな言葉
気合

寺田理恵子
2004年入社。コンシューマーサービス事業本部にて主にファッション分野を担当後、07年修業生としてイタリアへ。08年よりイタリア三井物産Plastic Div.勤務。09年エネルギー第一本部原子燃料部原子燃料サイクル室を経て11年労働組合専従。13年メディカル・ヘルスケア事業部医療事業第一室、15年より社会福祉法人三井記念病院に出向中。