助産院と医療の関係

神奈川県相模原市・のぞみ助産院で、産後の出血多量で女性が亡くなっており、対応の問題などで助産師が書類送検されたニュースが流れた。亡くなられた女性のご冥福をお祈りしたい。そして、この助産院は医療連携の点で問題があった疑いも出ているが、助産院と医療の関係はどのようになっているのだろうか。

日本では助産師は開業権を持っており、助産院を開設して医師のいない場でも分娩を扱うことができる。ただ助産師が扱える妊婦さんは正常な経過をたどった人のみなので、問題が起きたら、その時点で医療と連携をとれる体制が築かれていることが不可欠だ。普通はどの助産院もそうした関係を持っていて、中には、医師を中心に症例検討会が継続的に開かれているところもある。

医療連携は助産院の義務でもある。そのため、助産院の業務を規定している医療法は、その第19条として「助産所の開設者は、厚生労働省令で定めるところにより、嘱託する医師及び病院又は診療所を定めておかなければならない」と定めている。

この制度は、以前は単に嘱託医がいればよいとされ、しかも何科の医師でもよかった。医師が少なかった時代に、どんな地域でもお産ができるようにとの配慮だったと聞いている。しかし今日の事情には合わなくなったので、今は産科または産婦人科の医師、そして医療施設との連携が求められるようになっている。この施設は、産科または産婦人科そして小児科があり、新生児が診療できる病院もしくはクリニックでなければならない。これは、365日24時間、危険度が高い搬送でも、できる限りスムーズに行えるようにしておくためだ。

制度が変更された2006年には、産科医が減少して多忙を極める中、全国の助産院で新たな連携契約を結ぶために大変な努力があった。しかし、この努力の中で、地域の医療施設や行政と助産院のつながりが強くなって、それは収穫だったという助産師もいる。

医師と包括的指示書を交わすと、助産院も緊急時の薬を使うことができるようにもなった。嘱託医と「いつ、どのように使うか」をあらかじめ定めておけば、薬を処方することは許されていない助産師も緊急時のために助産院内に薬品を備えることができる仕組みだ。こうすれば、医師が到着するまでの待ち時間に、薬剤による治療が開始できる。これは特に、産後の出血が多い時に頼りになる。

認定制度も参考に

私は、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』(岩波ブックレット)を書いていた頃、日本助産師会では各地で支部長さんたちが飛び回り、安全性の向上にエネルギーを注いでいたのを見ていただけに、今回のニュースは残念だ。

自然なお産や温かいコミュニケーションを求めて助産院で出産する人は、助産師との相性はもちろん大切だが、それだけではなく、医療連携についても質問しておきたい。

助産院は、嘱託医の氏名、施設名などを院内に掲示する義務がある。額に入れ目立つところにかけられていることが多いので、それは必ず確認しておこう。

また、私も委員をつとめている日本助産評価機構は、組織として高い基準を満たした助産院の認定を行う制度を持っている。基準の多くが安全管理や医療との連携などに係る項目である。まだ認定施設が少ないが、早く普及してほしい。認定施設には院内に掲示できる認定証を発行することも検討している。

助産院によっては、異常が起きなくても、もしもの時のために嘱託医、嘱託医療機関で妊婦健診を受けておくルールができていることもある。緊急時にいきなり行くのではなく、こうして関係を作っておくことも大切だ。

産み方に「安全か自然か」という二者択一の発想はおかしい。どちらもバランスよく考えて産み方を決めたい。

河合 蘭(かわい・らん)
出産、不妊治療、新生児医療の現場を取材してきた出産専門のジャーナリスト。自身は2児を20代出産したのち末子を37歳で高齢出産。国立大学法人東京医科歯科大学、聖路加看護大学大学院、日本赤十字社助産師学校非常勤講師。著書に『卵子老化の真実』(文春新書)、『安全なお産、安心なお産-「つながり」で築く、壊れない医療』、『助産師と産む-病院でも、助産院でも、自宅でも』 (共に岩波書店)、『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)など。 http://www.kawairan.com