ゴミ屋敷に1人暮らし、モノ盗られ妄想、セクハラ……。介護の現場に携わる人々は、日々、どのような高齢者を介護しているのだろうか――。

ゴミ屋敷に住むトンデモ老人

2000年、介護保険制度が施行されてから13年が過ぎようとしている。制度施行当初には、多くの混乱もあったが、現在では、何度かの改正を重ねて、制度自体は定着したようだ。

しかし、未だに介護業界は、慢性的に人手不足であり、3K(きつい、汚い、臭い)といった職場環境のイメージが払拭されていない。実際に介護の現場に携わる人々は、日々、どのような高齢者を介護しているのだろうか。

時折、テレビなどのニュースを賑わすのが、「片づけられない症候群」の高齢者だ。いわゆる「ゴミ屋敷」と化した一軒家に住む高齢者も珍しくない。ある介護ヘルパーは語る。

「一軒家に1人暮らしの男性なのですが、近所から市役所に苦情が出るほどの『ゴミ屋敷』として有名でした。その方は、息子さんが自殺され、奥さんは家を出ていかれたそうで、精神的に閉じこもっておられました。最初に訪問した際には、玄関も開けていただけませんでした。

そこで、市役所の方の立ち会いのもとで庭から『入りますよ』と声をかけて家の中に入ったのですが、『何しに来た!帰れ!』という対応でした。家の中に入れば想像通り、ゴミだらけ。排便・排尿のあともあちこちに。ビールの空き缶も散乱しており、どこから手をつけたらいいのかわからない状況でした」

別の介護ヘルパーはこう語る。

「男性の人でしたが、何でもストーブの前に干して、2~3度使ったティッシュペーパーですら、干して使っていました。湿った煎餅も干して食べれば、おしっこで濡れたパンツも洗わないで干してはきます。あまりの悪臭に『換気をしますよ』と言えば、『熱が逃げるから、すぐ閉めてくれ』と言うんです」

さらに消費期限切れの食材の使用となると、枚挙にいとまがない。ある介護ヘルパーが一例を挙げる。

「訪問すると、冷蔵庫の中には、消費期限切れの食材ばかり。『お願いですから腐った素材で料理させないでください。捨てさせてください。カビが生えています』と言っても聞き入れられず、仕方なしにその食材で煮物を作れば、たまに見に来るらしい息子や娘たちが『腐ったものを食わせるとんでもないヘルパーだ』と事業所に電話で抗議してくるんです」

介護ヘルパーには、女性が多いが、やはりセクハラに悩まされることも多いという。ある介護ヘルパーはこう語る。

「ある男性の方の家に訪問していた際に、背後から胸をもまれて、思わず怒鳴り飛ばしたことがあります。何度も『やめてください』と言ってもしつこくて、下半身にまで手を伸ばしてくるんです。他のヘルパーにも同様のことをして、かなりきつく言われたらしく、今ではせいぜい指で胸をチョンとやる程度になったそうですが……」

もちろん、言葉上のセクハラとなればきりがなく、「ご主人とどれくらいやっているんだい?」とか、「彼氏とは?」程度になれば、ごく日常会話。特に、体が密接になる入浴介助の際には、ここぞとばかりに、胸を触ってくる高齢者は、数知れずとか。

ある事業所の責任者はこう指摘する。

「セクハラは日常茶飯事です。いちいち取り合っていたら、仕事はできません。相手は、体のご不自由な高齢者です。どううまくかわせるかが大事ですね」

お手伝いさん扱いの介護ヘルパー

介護の現場では、かなりの割合で認知症の高齢者も介護する。「4人に1人の割合」と答える事業所もある。認知症の高齢者は、感情の起伏が激しく、日によって、介護ヘルパーへの対応も激変するという。ある介護ヘルパーは語る。

「認知症の方は、攻撃的になることも多いですね。また、前日のこともすっかり忘れている方がほとんどですから、何度伺っても『何しに来たんだ! 帰れ!』と怒られる方もいます。さらに、ずっとしゃべり続けている方が多いのも特徴的ですね。『どこから来たの? 子供は何人?』など同じことを繰り返し話されて、調理をしている横に立って、ずっとしゃべられている方もいます」

認知症の高齢者とのコミュニケーションでも特にトラブルになるのが「モノ盗られ妄想」だという。

「モノがなくなってしまったと騒がれる認知症の方は多いですね。自分で置いた場所を忘れてしまうんです。そして、私たち介護ヘルパーに『おまえが盗ったんだろう』と詰め寄られるときには本当に困ってしまいます。そういう場合、私たちも根気強く、一緒に探して解決するんですが……」

介護保険制度が施行されたことをいいことに、この制度をかなり「悪用」するケースも多々あるという。ある介護ヘルパーは語る。

「かなり立派なお宅の90歳の女性のケアに入っています。ほとんど自立されていて、身の回りのことはすべてご自分でされます。息子さん家族は、2階で生活されていますが、水回りはトイレ以外、すべて共同です。本来、共有のものは掃除してはいけないことになっているのですが、居間も風呂も洗面所も廊下も掃除しなければなりません。ひたすら掃除です。ご家族は皆さん、仕事をお持ちで多忙なので『誰も掃除をしないから助かるわ』と。社会人のお孫さんなどは、たまたま居間に下りてくると、『お手伝いさん、ちょっとここのゴミを取り残しているよ』とお手伝いさん扱いです」

別の介護ヘルパーも語る。

「私は『家政婦9割引き』と言われました。そのうえ、掃除機の紙パックがパンパンになって悪臭を放ってまで使っていたので、『そんなことをしたら、モーターに負荷がかかって壊れますよ。紙パックを交換したほうがいいですよ』と言えば、『紙パックの中のゴミを外へかきだして、もう1回、その紙パックを使って』と。当然、断りました」

さらにもう一例。

「何かというと『哀れな年寄り』とご自分のことを言うかと思いきや、『あれしろ、これしろ』と命令口調。『同じところばかり、掃除しないで、たまには庭掃除や換気扇の掃除もしろ!』と怒り出す」

どの介護ヘルパーに聞いても共通しているのは、介護を受ける側は、最初のうちだけは感謝しても、2カ月、3カ月と経つうちに、介護してもらって当たり前、あたかも「家政婦がやって来た」という感覚になってしまうようだ。

介護支援では禁じられている窓ふきや庭の掃除、あるいはペットの世話なども平気で頼み、断られると、とたんに不機嫌になる高齢者も多いという。

どんな老人が「愛される」のか?

それでは、どんな高齢者が「愛される老人」なのだろう。ある介護ヘルパーは語る。

「やっぱり、『ありがとう』と、きちんと口にされると嬉しいですね。本当に来てよかったと思います」

一方で、何人かの介護ヘルパーの口からは、「私たちは、介護のプロです。報酬をもらって、仕事としてやっている以上、満足のいただけるサービスを提供できたかどうかが大事であって、あえて利用者の方からの感謝は期待していません」という言葉が出てきた。

「よくも悪くも自己主張の強い方が、自分にとっての愛すべき人ですね。なんでも『ハイハイ、ありがとう』といった方が愛される高齢者と思われるかもしれませんが、介護は1対1の微妙なバランスの中で成り立つ仕事なので、しっかりと自己主張をしていただくことで、その人が何を望まれているのかはっきりとわかります。逆に、何が不満なのかもわかれば、やりがいも出てきますし、達成感もあります。当初はぎこちなかった関係でも、その積み重ねの中で、利用者の方に満足していただくことで、お互いの信頼関係が築かれ、心の通い合う瞬間も生まれるんです」

どうやら「愛される老人」というのは、介護ヘルパーの言うことに唯々諾々と従っている高齢者ではないようだ。しっかりと自己主張をしたうえで、介護する側と、納得がいくまできちんとコミュニケーションをとり、心を通い合わせることができる高齢者こそ、「愛される老人」といえそうだ。