全国公私病院連盟の調査によれば、近年の赤字病院数の割合は6割~7割で推移しており、病院経営は淘汰の時代を迎えている。そうした中、病院・介護・医療機関職員の接遇力向上を目指すコンサルティングや研修を実施し、結果的に患者の満足度を向上させ、選ばれる病院づくりに結びつけているのが、ラ・ポールだ。接遇のコンサルタント、研修講師として全国を飛び回る福岡かつよ社長に、今、個人・組織問わず求められる「おもてなし力」向上の勘所を聞いた。
ラ・ポール株式会社

医療・介護機関を中心に、コミュニケーション力および接遇力向上のためのコンサルティング事業と研修事業を実施する。個々の組織の現状分析を行い、それぞれに合ったカリキュラムを提供する点に特色がある。

福岡かつよ氏は会社設立以来、営業活動はほとんど行っていないという。口コミで広がる評判を聞きつけた病院や医療機関などから、接遇研修やコンサルティングの依頼が次から次へと舞い込むからだ。

「お声がけいただいたら、最初に行うことは、組織の現状や悩み、そして最終的に目指すラインまで細かくお聞きした上で弊社が提案できる内容をご説明し、ご理解いただいた上で『本当に私どもでいいか』を改めて判断していただくこと。研修をすることは、組織にとって最も大切な人材をお預けいただくようなもの。最も重要な資産への投資をお任せいただくわけですから一分の齟齬(そご)があってもいけません。相互の信頼が成り立って初めて成果が生まれるからです」

そうした相手の意図を的確にくみ取ろうとする姿勢、自分の意思を明確に伝える能力、そして行動力こそが、顧客から厚い信頼を得ることにつながっているようだ。

福岡氏が医療機関における接遇に着目したのは、厚生労働省の外郭団体に勤めていた時代に遡る。介護保険立ち上げを控えた1998年、医療や介護の現場を対象にしたさまざまな調査研究に携わったことがきっかけだった。

「医療の現場はとにかく忙しく、スタッフは疲労困憊しているため、患者が病という命にかかわる大きな不安を抱えているにもかかわらず、その立場に思いを至らせることが困難な状況。そこでミスコミュニケーションが生じ、せっかくの医療技術が有効に生かされないという事態が起こります。適切な医療が患者に提供されるためには、双方のコミュニケーションの改善、すなわち医療を施す側の接遇力向上が有効と考えました。また、それが患者=顧客の満足度を高め、病院にとっても大きなメリットをもたらすと考えたわけです」

例えば患者に緊張や不安、威圧感を与えてしまうと注射針がうまく入らず、注射1本スムーズに打てないこともある。しかも患者の受け止め方は十人十色、置かれた状況は千差万別だ。

「患者=顧客がどういう状態にあるかを察知し、それにふさわしい対応は何か、と考えることが接遇の第一歩です。例えば『患者にわかりやすく伝えるには、ゆっくり話すのがいい』と言われることがあります。しかし、せっかちな性格で早口で話す患者には、イライラする原因になるかもしれない。こちらの話すスピードを患者のペースに合わせることで、コミュニケーションがスムーズに行えることもあるでしょう。あるいは笑顔は大事と誰しも無意識に思っているが、研修では改めて『なぜ笑顔が大事なのでしょうか』と問いかけます。笑顔によって相手に何をプレゼントしているのかと、接遇の本質を考える機会を提供します。すると『安心感を与える』『信頼関係を築くため』『心を開いてもらいたい』『話しやすい雰囲気をつくる』など、参加者からさまざまな答えが返ってくる。笑顔一つでも、受け手によって一人一人感じ方が違うということに気づくことが、相手(患者)に寄り添う心への大きな一歩につながるからです」

接遇は形のないもの。提供する側が一瞬一瞬自ら考え、言葉を選び、行動することができる力を育てることを重視している。接遇研修にありがちな形だけのトレーニングではない。

「心が伴った接遇を提供できなければ、そこに意味はありません。

1つの質問で明快な回答を得られることは希(まれ)で、あいまいな答えしか得られないことが多いため、それを具体化していくよう対話を重ねる必要がある。具体的な質問ができるようになるには訓練が必要です。ワークショップ形式の研修は、その訓練に最適です。重要なのは、患者に接するとき、自分が患者だったらどうしてほしいかとの観点から、どう対応すべきかを徹底的に考えること。そして評価は相手=患者が下すということに気づくこと。その意識や姿勢をトレーニングするわけです」

ワークショップでは福岡氏の問いかけに対し、参加者一人一人が自分の答えを述べていく。そこには、不正解があるわけでもなければ、唯一無二の正解があるわけでもない。ただ、数多くの答えが存在することを知ることができる。

「接遇やコミュニケーションにおいてベストはほとんどなく、ベターがあるだけなのです」

福岡氏はコンサルティング中や研修後は必ずスタッフの成長ぶりを具体的な事象や客観的な評価も併せて組織のトップに伝える。トップは自ら選んで採用したスタッフの存在価値をさらに認め、スタッフは自らの能力と成長をトップに認めてもらえる機会となる。そして福岡氏の手腕はクライアントが患者に選ばれる医療機関になることで社会に認められる。

「『相互信頼』の連鎖、これこそが私が社名に託したわが社のミッションです」と笑った。