リーマン・ショック時に企業はリストラに走ったが、現在でもさらに希望退職者を募る会社が増えている。

1週間先さえ見えない企業からすれば、現在黒字でも先々の経営危機を予防するために人員の合理化を進めたいと考えるのだろう。希望退職者を募っても予定数に満たない場合、整理解雇するという判断もありうる。そのとき、社員は防衛することができるのだろうか。

そもそも整理解雇は労働者の責めに帰すべきものではなく、本人の努力とは無関係な経営の判断である。従って相応の理由と一定の手続きがなければ解雇できない。整理解雇が認められるには判例が示した次の「整理解雇の4要件」が要求されることになる。

(1)整理解雇の必要性 企業が高度の経営危機にあり、人員整理の必要性がある。
(2)整理解雇回避の努力 希望退職者の募集や出向・異動などの可能性を検討する、など整理解雇回避の努力を行った。
(3)人選の合理性 解雇対象者の選定や運用基準に客観的な合理性、公平性がある。
(4)労働者側との協議 整理解雇の必要性、時期・規模・方法・人選基準などを説明、協議した。

もっとも、これら4つはすべて満たす必要がある「要件」なのかどうかには議論がある。10年ほど前からは「要件」ではなく、1つ欠けたからといってただちに整理解雇無効ではないとする「要素論」が主張されるようになり、少数ながらも4要件を満たさない整理解雇を有効とする下級審判決も出ている。整理解雇の必要性においても、何をもって「高度の経営危機」とするか経営側の判断を重視する傾向にある。

しかし、このように理屈のうえでは整理解雇の要件が緩和されているようだが、現状においては「人選の合理性」1つ欠けても解雇は難しい。たとえば、出勤率などは数字でわかるので合理性があるが、能力や意欲の評価は基準があいまいで、よほどしっかりした人事考課制度を備えていないと合理的とは判断されない。

整理解雇回避の努力にしても、まず希望退職を募集したのか、役員の賞与や報酬をカットするなど経費削減をしたのか、新規採用を減らしたり、解雇対象者の配置転換を検討したのかなど、段階を踏まなければならないのである。

一方、2006年から個別の労使紛争を解決するために「労働審判制度」という新制度がスタートした。3回以内の期日でまず調停を行い、それで解決しない場合は労働審判が行われ、審判に異議があれば訴訟に移る。

これまで労使紛争の訴訟は時間がかかり、労働者が泣き寝入りするケースが多かった。しかし、この制度では7割近くが調停で解決し、復職を希望しない場合も和解金による紛争解決という選択肢があるので、労働者にとっても朗報だろう。

申し立てから解決までの平均日数が75日弱と短期間で済むので、年々件数が増えている。09年は11月までに全国で3141件と、対前年比1.5倍の伸びだ。現在、この制度で整理解雇をめぐる紛争は少ないようだが、今後は増える可能性もある。

労働者派遣法の規制強化改正案が成立すると、原則的に登録型派遣が禁止され、また有期雇用も規制される可能性がある。そうなれば正社員は増えるが、雇用調整弁がなくなって、逆に整理解雇の要件が緩和される可能性もある。

過去、小泉政権下で規制緩和が議論されたとき、一定の金銭支給によって雇用終了が認められる「解雇の金銭解決制度」を法改正で導入するという動きもあった。今後は正社員だからといっていままで通り、法によって守られるとは限らないかもしれないので油断は禁物だ。

※すべて雑誌掲載当時