【ジョン・ウー】 基本的に曹操は才気に溢れた文学家であり、軍事家でした。しかし野心に溢れ、目的を達成するためには手段を選ばないこともあった。欠点は猜疑心の強さ。なかなか人を信じられなかったので、少し孤独な人でした。『レッドクリフ』では彼の表面上の悪人的な部分より、内面的な面に焦点を当てました。

【北尾】 そういう意味で今回の映画はそれぞれの登場人物の個性を大変上手に表現されている。役者さんを上手にキャスティングされたと思います。諸葛孔明役の金城武君、彼はたまたま日本人ですが、なかなか素晴らしい“孔明ぶり”ですね。

【ジョン・ウー】 赤壁の戦いの当時、諸葛孔明は27歳。27歳といえばまだまだ新人のようなもので、志と活力に満ちた青年でした。現代の青年たちと同様、いつも希望に溢れ、友人を大切にし、自分に対して揺るぎない自信を持っている若き諸葛孔明を描きたかった。金城武さんのいたずらっ子のようでいて優雅さを失わない感じが、孔明が扇子を持った姿によく合うと思ったのです。

【北尾】 戦乱の時代に個性豊かな人物たちが登場してお互いに鎬を削り、あるいは手を携えて覇業をなそうとする。そうした人々が織り成す人間ドラマが三国志の魅力です。たとえば曹操にしても必ずしも人がついてこなかったわけではなくて、荀彧(じゅんいく)や郭嘉(かくか)といった名参謀がいた。一方、「伏竜鳳雛」の諸葛孔明や●統(ほうとう)など、際立った才のある者が皆、劉備についていった。またそうさせる劉備のリーダーとしての魅力といいますか、論語の「徳は孤ならず必ず隣あり(徳を行っている限り、人は孤立するものではなく、必ずよき理解者たる隣人が現れる)」という言葉を思い出します。
※●=广のなかに龍

【ジョン・ウー】 劉備と曹操に共通する点は、2人ともリーダーとして人を見抜く目があり、よく人材を登用したことです。曹操も実はとても“才”を愛した人で、多くの人材を抜擢し、上手く登用した。文学的な教養やリーダーとしての資質でいえば、劉備は曹操に劣りました。しかし、劉備には真心があった。自分が他人より劣っていることを自覚していたので、真心を持って関羽や張飛、趙雲や孔明の才能を愛し、部下に加えたのです。その性格もあって、彼の下で働く人たちは心から劉備を尊敬し、喜んで尽くした。

古代でも現代でも、本物のリーダーは人材を評価する以外に、自分の部下や信頼する人たちに対して真心を込めて接することにより、さらに多くの助力を得てゆくものです。部下に接する真心の部分では曹操は劉備に遠く及ばなかった。

【北尾】 まったくそうだと思います。「巧詐は拙誠に如かず(巧みにだましても、拙い誠実さに及ばない)」と韓非子も言っている。誠実に人と対峙するのは何よりも大事なことだと思いますね。

【ジョン・ウー】 それは現代においても不変で、景気の良いときは往々にして見落とされますが、景気が悪くなってくると真心の大切さというものが際立ってくるように感じます。

普段から真心を込めて皆に接しているリーダーは、たとえ問題が起きても皆と力を合わせて乗り越えてゆける。『レッドクリフ』の撮影中現場でもそれを強く感じました。だから映画の中でも登場人物の特定の誰かを神格化、英雄化するのではなく、互いの心のつながりを大切にしたかった。それが現代にふさわしいメッセージだと思ったからです。