部屋は2畳、ベッドは1メートル、12時間3000円也

「個室ビデオ店で一晩明かしてみてください。安全なんですかねえ。ウフフフ。あ、私は用事があるので。では!」

夜12時、東京・新橋駅前。編集Kは僕に1万円札を握らせ、逃げるように去っていった。ヒドイ男だ。

新橋駅周辺は個室ビデオ店の激戦区。初心者の僕は大手チェーン店を選び、細長い雑居ビルをエレベーターで6階へ上がった。上の階にある「客室」までは階段で行くというシステムだ。12時間コースで3000円。安すぎて怖くなる。

「いらっしゃいませ。お好きなタイトルを六本までお選びください」

受付の奥にある部屋にはDVDがズラリと並ぶ。アダルトものが9割以上を占めるが、さすがに6本も必要ない。アダルトを3本、一般作を3本選んだ。

木曜日だからなのか、店内ですれ違う客はまばらだった。3人ほど見かけたが、いずれもノーネクタイの地味なスーツ姿の40代男性。ヤクザ風の男はいない。

マンガ喫茶のようなフリードリンクサービスはないので、店内の自動販売機でペットボトルを買った。客室に行く前、従業員に話しかけてみた。

「こないだ大阪で放火事件がありましたね。ここは安全なんですか」

「大丈夫です。ちゃんと階段のスペースは確保してありますし、非常の際には私たちが誘導します」

いったん、建物の外へ出て、非常階段で客室へ上がった。通路に段ボール箱や掃除用具などの障害物はない。非常口への誘導表示もある。見た目では安全性に大きな問題を感じなかった。

では、「快適さ」はどうなのか。

広さ2畳ほどの客室に入り、内側から鍵をかけた。1メートルほどの短いソファベッドの前に、テレビとDVDプレーヤーが置かれている。備品はボックスティッシュ2箱、紙おしぼり4つ、コンドーム1つ。目的志向のコンパクトなつくりだ。

不潔なイメージも覆された。大きなゴミが落ちていたり、家具に精液がこびりついていたり、といったことはない。ゴミ箱も交換済みだった。

さて、男が1人で外泊するときの快適ポイントは何か。独断だが、「気兼ねなく自慰できるか」「心地よく眠れるか」の2つだろう。

まずは前者。オカズは大量のタイトルから選んだAV。安ホテルのアダルトチャンネルとは比較にならない豊かさだ。

欠点は極端に壁が薄く、隣室ばかりか同じフロアにある8つほどの部屋の物音が筒抜けであること。しばらくAVを観てからズボンを脱ごうとすると、近くの部屋からけたたましいイビキが聞こえてきた。興ざめの極致である。

しかし、慣れとは恐ろしいもので1時間ほど経つと細かいことは気にならなくなってきた。もう一度、AVを観始める。よく考えると、僕の物音も周囲に聞こえてしまうのだ。ティッシュを抜き取る音さえも。これは恥ずかしいぞ。近くのおじさんは寝ていてくれたほうが好都合だ。

15分後、僕は目的を達成した。お茶を飲んで一息つき、「M1グランプリ」のお笑いDVDに切り替えた。口を大きく開け、声を立てないように笑いまくった。虚しいが楽しい。

深夜3時ごろ、眠くなった。狭いソファベッドで足を折り曲げて寝た。受付で借りたペラペラの毛布が意外と暖かい。途中、救急車のサイレン音を何度も聞いた。再び不安な気持ちになったが、いつの間にか眠りに落ちていた。

起きると朝10時を過ぎていた。体がちょっとだるい。隣室に神経を使ったり、足を伸ばせなかったせいだろう。

個室ビデオ店初体験の結論。翌朝に仕事があるときは、ある程度防音のしっかりしたホテルに泊まりたい。でも、休日前で終電車を乗り過ごしたなら、利用して節約する価値はある。