韓国と北朝鮮の間で融和ムードが高まっている。北朝鮮は元日に、韓国で2月から開幕する平昌冬季五輪に「代表団を派遣する用意がある」と放送。これを受け、9日には約2年ぶりとなる南北協議が行われた。日米が北朝鮮への「最大限の圧力」を維持するなかで、韓国はどう動くのか――。

南北会談は文在寅政権が発足してから初

朝鮮中央テレビは1月1日午前中の30分間、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長の「新年の辞」を発表した。その中で正恩氏は「米本土全域が核攻撃の射程圏内にあり、核のボタンは私の事務室の机の上にある」など米国を威嚇する発言を繰り返した。

米国本土を攻撃する核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の実戦配備宣言である。

その一方で正恩氏は対話の姿勢を見せた。韓国で2月から開幕する平昌(ピョンチャン)冬季五輪に「北朝鮮代表団を派遣する用意がある」と語ったのだ。平昌冬季五輪の成功を願い、「派遣を協議するため、南北朝鮮が早期に会う必要性がある」と話した。

この発言の通り、1月9日には閣僚級を首席代表とする韓国と北朝鮮の代表団が、南北軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)の韓国側施設「平和の家」で会談した。南北会談は2年1カ月ぶりで、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権発足後、初めてだ。

北朝鮮が融和ムードを演出するのは、なぜなのだろうか。その狙いはズバリ米国主導の国際包囲網を崩し、米国と韓国を分断することだろう。北の発言をそのまま鵜呑みにしてはいけない。

新聞各紙は社説でこの点をどう解説しているだろうか。1月10日時点で、南北会談を取り上げたのは5日付の朝日と毎日、それに10日付の毎日と東京だ。社説で2回取り上げている毎日は、この問題に熱心だといっていい。どの点から熱心なのかも、読み解いてみよう。

「金正恩氏の発言はくせ球だ」と朝日

「北朝鮮の得意な『くせ球』というべきだろう。年明けとともに、これまでの強面(こわもて)から突然、対話の呼びかけに転じた」

1月5日付の朝日新聞の第1社説は、冒頭から「くせ球」と皮肉りながら書き出す。

くせ球とは野球で打者の打ちにくい球のことだが、転じて相手の出方をうかがうために表向きとは違う狙いを持った発言を指す。なるほど、今回の金正恩氏の発言は、まさに朝日社説の指摘通りだと思う。

続けて朝日社説は「韓国の文在寅政権は、提案を歓迎し、早ければ来週にも南北協議が開かれそうだ。2年近く断絶していた軍事境界線の直通電話はおととい、再開通した」と解説し、「朝鮮半島問題は対話を通じて解決されねばならない。南北間の話しあいが再開すること自体は歓迎すべきことだ」と指摘する。読者は朝日社説の次の主張を見逃してはならない。

「北朝鮮の態度の変化には注意深い対応が欠かせない」
「韓国にだけ秋波を送り、米国は突きはなす。そんな姿勢からは、米韓の歩調を乱れさせようという狙いが透けて見える」

朝日社説は、北朝鮮の狙いは、アメリカと韓国の断絶にあると解説しているのだ。

北朝鮮の狙いを見抜いて慎重に行動せよ

朝日社説は北朝鮮の狙いを見抜いて慎重に行動するよう、こう韓国に呼びかける。

「これまで対話を呼びかけてきた文政権にすれば、協議再開はそれだけで待望の進展と映るだろう。だが、過大な評価に走って浮足立つのは禁物だ」
「喫緊の課題は軍事的な衝突の回避であり、長期的には朝鮮半島の非核化である。日米中ロの周辺国からの支えなしには、安定的な解決はありえない」
「韓国政府はそれを忘れず、とりわけ日米との情報交換を密にして対話に臨む必要がある」

この沙鴎一歩も朝日社説と全く同じ思いである。いまの韓国にとって重要なのは思慮深さだ。北の甘い言葉にだまされてはならない。

朝日社説は「金正恩氏は新年の辞で、地域の緊張を緩和して平和的な環境を整えるべきだと述べた」と指摘し、こう訴える。

「その通りだ。だが、国際社会の声を無視して挑発を続けたのは北朝鮮にほかならない。危機を和らげる意図が真剣ならば、少なくとも大陸間弾道ミサイル発射の動きを止めるべきだ」

国際世論の反対を無視してICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を続け、揚げ句の果てにはその実戦配備を宣言する。ならず者国家と非難されても仕方がない。韓国にはその北朝鮮の実態をよく考えてほしい。

「一触即発」の危機は続いている

最後に朝日社説はこう指摘して筆を置いている。

「日米は、韓国への後押しを惜しんではならない。たとえ表向きであれ、北朝鮮が軟化姿勢に転じた動きを逃さず、やがては日米との対話にも広げさせる結束と工夫が求められている」

これもその通りである。今回の北朝鮮の軟化姿勢を巧みに捉え、北朝鮮を国際社会にうまく引っ張り出す。

韓国にとってもそうだが、北朝鮮と米国が戦闘状態に入れば、日本も大きな打撃を受けることは間違いない。日本は最大限の外交努力を惜しんではならない。

「ロケットマン」などと米大統領のトランプ氏は金正恩氏をからかっているが、北朝鮮側は本気で米国への攻撃を考えている。からかいの言葉が火だねとなる一触即発の危機が続いていることを忘れてはならない。

「五輪は核・ミサイル開発の取引材料にはならない」

毎日新聞も1月5日付の第1社説で、金正恩氏の新年の辞を取り上げている。

冒頭で「国際的孤立を打破するために平和の祭典を利用する。北朝鮮のそんな思惑が透けて見える」と指摘し、見出しで「文政権は意図を見誤るな」と韓国に注文を付ける。

その社説の前半で「北朝鮮が純粋に五輪を盛り上げようと考えているとはとても思えない。むしろ、五輪を成功させたい文政権の事情につけ込んだ揺さぶりと見るべきだ」ときっぱり北朝鮮を否定する。朝日社説同様、うなずける主張である。

さらに毎日社説は「読み取れるのは、同盟関係にある米韓の離間を図ることで自らの立場を有利にしようとする計算である。北朝鮮はこれまでも同様の試みを繰り返してきた」と指摘する。

そのうえで北朝鮮のしたたかさを「南北対話が始まれば、北朝鮮は米韓合同軍事演習の中止を五輪参加の条件として持ち出してくる可能性がある。韓国による独自制裁の解除を求めてくることも考えられる」と解説し、「だが五輪は、核・ミサイル問題での取引材料になるようなものではない。文政権は五輪の政治利用を許さない姿勢を明確にすべきだ」と主張する。

社説が似通うほど北朝鮮問題は重大

後半で毎日社説は「北朝鮮がここにきて南北対話に応じようとする背景には、相次ぐ国連制裁で石油禁輸が強化されたことの影響もあるのではないか。当面は備蓄や密輸でしのげても、将来的な展望を描くのは難しいからだ」と指摘した後、こう主張する。

「(韓国の)文(在寅)政権にはそうした北朝鮮側の事情を逆手に取って、核・ミサイル問題の解決につながる端緒を見いだす戦略が求められる」

これもうなずける主張だが、前述した朝日社説とほとんど同じ内容だ。朝日社説と毎日社説が1月5日付という同じ日付で掲載されている以上、どちらかがどちらかの社説を見て書いたということは考えられない。大手新聞社の社説が似通うほど北朝鮮問題は重大なのだろう。

次のように、毎日社説の最後のくだりも朝日社説と似ている。

「そのためには北朝鮮の意図を冷徹に見極め、日米と緊密に協議しながら対話に臨むことが必要だ。両国との連携は、北朝鮮と交渉する韓国の立場を強めるものである」

なぜ各紙の社説は遅れたのか

そもそも1月1日に「新年の辞」が発表されていたにもかかわらず、社説として取り上げたのは朝日と毎日だけ。しかも5日付社説だった。各紙とも「新年の辞」については連休明けの3日付紙面には大きく掲載していた。各紙が遅れたり、取り上げなかったりしたのはなぜか。

大きな理由は、社説を書く論説委員が休んでいたからだろう。各紙の論説委員は休みを取るために、年末年始の社説をあらかじめ用意している。このため年末年始には政治、経済、社会、文化といったテーマ別に大きな1本社説を用意する。それを1週間ほど続けることで、休みをつくるのだ。

休むことは重要だ。しかし今回の金正恩氏の新年の辞は、即座に社説で対応すべきテーマだったと思う。5日付で取り上げた朝日と毎日はまだいい。他紙は準備していた予定稿をそのまま載せることで、論説委員の休みを優先したのではないだろうか。これでは社説を楽しみにしている貴重な読者を裏切ることになってしまう。

「一筋縄ではいかない」と毎日

1月9日の南北対談を受け、毎日と東京は1月10日付の社説でも北朝鮮の話題を取り上げている。

毎日社説は「危機打開に資する戦略を」との見出しを立て「北朝鮮による平和の祭典への正式な参加表明は評価できる。少なくとも大会期間中は軍事的な挑発を行わないだろうと考えられるからだ」と書く。

さらに毎日社説は「今回の動きは、金正恩朝鮮労働党委員長が新年演説で五輪参加に前向きな姿勢を示したことで始まった。背景には、核・ミサイル開発によって深まる国際的孤立の中で突破口を探ろうとする思惑があろう」と北側の狙いを指摘する。

韓国側の考えについては「一方で韓国の文在寅政権には、停滞が続いていた南北関係を打開したいという期待がある」と指摘する。

そのうえで毎日社説は次のように主張する。

「ただ、南北対話は一筋縄ではいかないものだ。文大統領は核・ミサイル問題での危機打開にもつなげたいと意欲を見せるが、成果を焦れば北朝鮮の術中にはまりかねない」
「現在の北朝鮮情勢は南北対話で打開策を見いだせるほど単純なものではない。そうした自覚が必要だ」

複雑になってしまった南北関係は毎日社説が指摘するように「一筋縄ではいかない」「単純なものではない」のである。やはりその辺のところの自覚が現在の文政権に足りないのだ。

韓国一国で解決することはできない

東京新聞の社説は最後にこう主張する。

「このまま南北間の対話や事業をいくら進めても、問題は解決しないし、五輪終了後には、緊張が再燃してしまうかもしれない」
「韓国は、北朝鮮との交渉を急がず、姿勢を変えさせるための交渉を着実に続けてほしい」

沙鴎一歩も同感である。一筋縄ではいかない以上、「粘り強く、一歩ずつ」(東京新聞社説の見出し)進めていくのが重要だ。

9日の南北会談では韓国側が非核化などの平和のための対話を呼びかけると、北朝鮮側は「われわれの核やミサイルはアメリカを狙うもので、韓国に危害を加えるものではない。非核化は南北会談で取り上げることではない」と強硬な姿勢を見せたというが、これが北朝鮮の実像なのである。

表向きは韓国との融和を見せ、裏側では韓国と米国の間に大きなくさびを打ち込もうとしている。

このしたたかな北朝鮮を相手にするには韓国一国では無理なのである。日本や米国はもちろん、国際社会が一つになって北朝鮮を交渉のテーブルに着かせるよう努力していくしかない。