景気低迷にもかかわらず、飛行機、自動車、映画館など、広めの幅を持たせた座席の商品が人気を集めている。売れている座席には、もしや共通の「幅」があるのではないか。メジャー片手に取材に出かけると、単純な幅のサイズでは測れない、“パーソナルスペース”に対するこまやかな配慮が詰め込まれていた。

日本航空は2007年12月より東京-大阪間で国内線「JALファーストクラス」の就航を開始し、現在は東京-札幌、東京-福岡便などにサービスを拡大している。

「エグゼクティブの方からの『プライベート感がほしい』というニーズに応えました」(日本航空の梅津健氏)

普通席しか搭乗したことのない、身長169センチメートル、体重75キログラムと少々メタボ気味の私が座ってみると、まず感じられたのは空間のゆとりと「個の空間」の確保とでもいうべき感覚だった。隣席とはセンターコンソールで仕切られ、リクライニングすれば隣の人と視線が合わないからだ。

座面幅は53センチメートルで普通席より11センチメートル広い。だが、ゆとりが感じられる要因は座面幅より肘掛けの広さだろう。肘掛け幅は最大部分で38センチメートルあるのだ。つまり、座面幅に肘掛けを加えた長さだけ一人当たりの占有幅が確保されている。

よりわかりやすく肘掛け幅の効果を感じられるのが、ファーストクラスと普通席の中間に設定されているクラスJである。

座面幅だけを見ると、クラスJと普通席では4センチメートルしか違いがない。ただし、クラスJの肘掛けは18センチメートルある。仕切りはないが、隣席の人と十分共有でき、シート間にわずかな空間もある。一方、普通席の肘掛けは5.5センチメートルで、隣人との共有には無理がある。

要するに、肘掛けをめぐって微妙な争いが起こりがちな普通席に対し、クラスJはそうしたことが発生しない。

「『ストレスがない』ということが大切なんですね。移動のときにストレスを感じると後味が悪いですから」(梅津氏)

価格を見ると、ファーストクラスが普通席プラス8000円、クラスJがプラス1000円という設定で、昨年のおおよその搭乗率は普通席の65%に対しファーストクラスは75%、クラスJは85%程度とのこと。

ファーストクラスは専用チェックインカウンターやラウンジ、食事等の利用ができる。個人で利用するなら1000円でストレスの少ない移動ができるクラスJが一押しだ。

一方、「映画館のファーストクラス」を謳うTOHOシネマズのプレミアスクリーンは、JALのファーストクラスと同様、プライベート感を重視したつくりになっている。

「一人当たりの面積は通常の1.5倍」(TOHOシネマズの篠田亜美氏)という六本木ヒルズのプレミアシートに座ってみると、程よいゆとりが感じられる。一般席との大きな違いは、2席に1つの割合で設置されたサイドテーブルである。このテーブルには大きめのポップコーンと飲み物を置くだけの広さがあり、その下には荷物も入れられる。

六本木ヒルズのプレミアスクリーンはワンドリンク付きで3000円と普通席より1200円高いが、休日の予約状況をネットで確認するとプレミアから先に埋まっていた。

広く感じさせて「ミニバン1位」

飛行機や映画館に比べ、自動車は室内デザインの際の制約が大きい。特に1.5リットルクラスのコンパクトミニバンでは、決められた車体サイズの中に多人数が快適に乗車できるようにする必要がある。

この課題を高い次元で解決して人気を集めているのがホンダ「フリード」だ。昨年下半期のミニバン販売台数で1位となっている。最も売れているのは前列から2人-2人-3人の7人乗りモデルで、価格は178万5000円。

「廉価で185センチメートルの大人が3列に7人座れる『世界最小の本格ミニバンをつくる』が開発コンセプトです」(本田技術研究所 クリエイティブ・チーフデザイナーの菅原琢磨氏)

運転席に座ってみると、サイズのわりに広々感がある。

「コンパクトクラスでは初めて、どのドアから入ってもすべての席へ行けるようになりました」(菅原氏)という言葉どおり、1列目と2列目の座席の真ん中にそれぞれウオークスルーできる空間がある。

さて、一般にミニバンの3列目といえばオマケのようなもので、狭く閉ざされたスペースに押しこめられるのが通り相場だが、3列目シートに座ってみると、そうした窮屈さはなかった。まず、前方の視界が広い。そして頭上に余裕があり、シートもしっかりした感覚だ。大人が3人乗るには厳しそうだが、2人なら十分使えると思った。

先代モデルにあたるモビリオと比較すると、全長は14・5センチメートル、全幅は1センチメートルの拡大にすぎない。座面幅は1列目が0.5センチメートルのマイナスだが、3列目が全体でなんと34センチメートルのプラスとなっている。2列目は前モデルがベンチシートのため単純比較はできないが、各席が独立したキャプテンシートのフリードのほうが快適性は高いだろう。

先代モデルと大きくは変わらない外寸のなかでフリードがこうした空間を達成できたのは、低床フラットフロアの実現などに加え、空間を広く感じさせるさまざまな工夫がなされているからだ。たとえば、運転席が広く感じられるのはインパネを2段構成にしたから。3列目の視界のよさは、シートの着座位置を後列へ行くに従い高くしているからである。

フリードは取り回しのよさがあるうえ、エコを重視する世の中の潮流とも合致しており、今の時代に「ちょうどいい車」という印象を受けた。

ストレスをお金で解決できるなら

広めの座席幅が受けているといっても、よく見ていくと単に広さだけが重要ではなく、特に見知らぬ人と接する交通機関や映画館では、他者との接触を回避する工夫が人気につながっているようだ。その理由について立正大学心理学部の齊藤勇教授は、日本人の“他人との接触を嫌う文化”があるのではないかと見る。

「挨拶を見るとラテン系は抱き合い、アメリカ人は握手しますが、日本人はお辞儀だけ。他の民族に比べ日本人は接触を嫌う傾向があるのです。人間関係にも警戒心が強く、相手の気に入らないことを言って嫌われることを避けたがります。つまり、“パーソナルスペース”に入られるのも嫌だけど、文句を言って嫌われるのも嫌。ますます非接触文化が強まるなかで、そのストレスをお金で解決できるなら払う、ということでしょう」

広い座席が人気の背景に、他人との接触の排除があるとすれば少し寂しい。次は快適さを実現しつつ、他人とのコミュニケーションを誘発する座席を誰かつくってくれないだろうか。