夫と死別し、自分の人生だけを謳歌する「わがままマダム」。三菱総研の調査によると、そんな70代女性が増えている。彼女たちが「いきがい」と語るのがツアー旅行。その理由は「世間とのつながりのひとつ」だから。そして彼女たちが求めているのは「海外旅行の同伴者」だという――(後編、全2回)。

「わがままマダム」と「自由夫婦」

前回は三菱総合研究所の1万5000人アンケート調査「mifプラチナ」で70代の生活意識と消費動向に迫った。今回はさらにターゲットを絞り込み70代女性の「ペルソナ」を描いてみたい。そこで注目されるセグメントは、自分の人生だけを謳歌する「わがままマダム」、そして夫と別々行動の「自由夫婦」である。

ペルソナとは、生活者の所得、性格、趣味などを、現実の調査情報(MROCの発言録)に基づき、各市場セグメントを代表とする「架空の顧客像」という意味。簡単に言えば、分析者は消費者をいくつかの軸を自分で決めて分類し、対象とする発言者の発言に基づき、代表像を作る。ホンネによって顧客像を作成するので、結果、自社ならではのインサイトを発見し、商品開発やプロモーションにつながる。

今回、分析の対象としたのは三菱総研が運営するMROCで交わされた発言。MROCとは、Marketing Research Online Communitiesの略称であり、ネット上のリサーチ・コミュニティである。三菱総研では、50代~80代のシニア300人を集めたMROCを2012年から運営しており、価値観から消費分野ごとのニーズまで、さまざまなテーマで議論してもらっている。2017年10月までで約73万件のデータが蓄積されている。

生活者の実態を把握するための調査方法には、「定量調査」と「定性調査」の2種類がある。アンケートに代表される定量調査を用いると、最近の生活者のおおまかなトレンドがわかる。一方、MROCを代表とした定性調査を行うと、生活者のホンネを聞け、生活者のリアルな姿と潜在ニーズ(インサイト)に迫ることができる。両者の相乗効果で生活者の実態を立体的に把握することができるわけだ。

「あるあるグランマ」と「のんびりばあば」

ここでは定性データであるMROCの発言データからペルソナを作成し、彼らの消費ポイントを紹介する。70代のシニアでは、女性の方が情報発信力は強く、行動力もあるため、今回は対象を女性に絞った。セグメンテーションの分析軸は、婚姻状況と家族との関係の深さにした。MROCの発言を分析したところ、婚姻状況と家族と関係の深さによって価値観や生活パターン、そして消費ポイントが異なると考えられたからだ。

結果は図の通り、4体のペルソナが浮かび上がってきた。(1)子供や孫のことを生きがいだと思いながら、夫との行動も好きな「あるあるグランマ」、(2)夫と同居しているがほとんど別行動の「自由夫婦」、(3)一人暮らしだが孫のことも気にかける「のんびりばあば」。そして(4)一人暮らしで他の家族と疎遠な関係にあり、自分だけのセカンドライフを謳歌する「わがままマダム」である。

今回は、その中から、独身の主流である「わがままマダム」、そして既婚の主流である「自由夫婦」のペルソナを描いてみよう。

解放され1人暮らしを楽しむわがままマダム

ひとり暮らしの老女のステレオタイプには、孤独、貧乏というイメージがあるかもしれないが、実際はむしろ人生を悟り、寂しいなんて考える暇もない、自分を楽しむ「わがままマダム」もかなり存在することが分かる。

幸子さん(仮名)は今年71歳で滋賀県在住。夫が5年前に亡くなり、他の家族とほぼ付き合いのないひとり暮らしの老女である。幸子さんは専業主婦50年をやってきた。夫が肺がんで5年前亡くなり、当時は喪失感に襲われ、非常に暗鬱な時間を過ごしたが、ある日、みんな死ぬし、明日何が起こるかわからないので、今だけを楽しもうと悟った。今はいろいろなサークルに入り、レクリエーションやおしゃべりを楽しんでいる。

幸子さんは今とても解放された気分で一人暮らしを楽しんでいるが、不安はどうしても消えない。もし急に病気になって、そのまま寝たきりになり、孤独死したらどうしようと、考えるだけで落ち着かない。

幸子さんは旅行が大好きで今は月1回以上出かけている。旅行の決め方について、まず旅行会社から送られてくるツアーパンフレットを見て、行ってみたいところを見つけ、ネットで調べて予約。一緒に旅行に行ける人が少ないので、ほとんど一人で行っている。ツアー旅行がとても便利だ。わがままマダムにとって、旅行は世間とのつながりの一つで、旅行を通して生きがいを感じている。シニアは、旅行そのものではなく、ツアー仲間、現地の人々との楽しい交流に高い価値を見出している。

買い物について、最近ネットで注文するようになった。便利だと言いつつ、本当はモノをみて買い物をしたいようだ。もっと高齢になると、やはり誰かに買い物を手伝ってほしいと思っている。これから車を運転する女性が増えるようだが、やはり体力が落ちていくので、買い物をどうサポートしてもらうかが重要だろう。

食については、ほとんど一人で食べる。量より質にこだわり出した。そして、特に牛乳・ヨーグルトやジュースを選ぶ時、本当に効果かあるかわからないが、栄養を意識したネーミングに惹かれて買う。以前は夫の食を配慮していたが、今は一人なので、夫が好きだった揚げ物もなくなり、一人分の惣菜を買い、レンジでチンする手間のかからない料理が増えた。一人の食生活はどうしても手を抜くし、「中食」も利用しているが、満足できていない。

また、今は年金生活で決して裕福とは言えないが、今まで散々節約してきたので、今はもう無理をしたくないと思っている。

とにかく夫の健康に気を配る自由夫婦

和子(仮名)さんは、東京に住んでいる73歳の女性である。外国人に日本語を30年間教えてきた。音楽・映画、女子会を楽しむことが生きがいである。夫と同居しているが、夫が定年退職した日から不幸が始まった。

長年一人で子育てし暮らしてきたので、急に夫がいつも側にいるようになると、趣味も生活習慣も違い、ストレスを感じるようになった。そこで、割り切ってお互いに好きなようにしようと、自由夫婦になることを決めた。

平日の夕飯は一緒に食べて、まれに一緒に買い物に出かける以外は、ほとんどバラバラだ。とはいえ、夫の介護は自分でやらないといけないので、とにかく夫の健康に気をつけている。

2年前、夫の発病前の兆候に気づき、救急車を呼び早く処置したおかげで、夫は半身不随にならず済んだ。病気に関する知識を得ておいてよかったと思う。自由夫婦は元気なうちは別行動だが、いざというときはお互いに面倒を見る立場なので、健康に人一倍気を使っている。

和子さんは海外旅行だったら今のうちしかないと考えているが、夫と絶対一緒に行かないので、女友達の同伴者を探している。しかし、なかなか同伴者が見つからないので、まだ念願のヨーロッパ旅行ができていない。一緒に旅に出る人を欲しがっている。

和子さんはワインやチーズが大好きで、女友達とおいしい店で満喫するのも趣味の一つ。お店探しは、食べログをフル活用して、綿密な調査を行う。そして、友達との連絡も多いので、寝ても覚めてもスマホをいじっている。まるでいまどきの若者のようだ。

スマホ中毒にワイン好きで、とても若々しい感じがある和子さんだが、本人も、私は若作りをしているし、自信があると言う。なので、社会でもっと年齢差別をなくしてほしいと願う。「年齢制限をなくしてほしい」というのは、とても大きなインサイトだ。シニアには、年齢を配慮したと強調する商品より、彼らをターゲットしたものでもすべての年齢層に受けるというコンセプトを提供したほうがいいかもしれない。

将来への「なんとなく不安」を解消したい

では、このペルソナから何が読み取れるだろうか。

まず言えることは、夫の有無、家族との関係性は70代のシニア女性の生活や生きがいに大きく影響を与えていることである。今を楽しむわがままマダム、そして別行動の自由夫婦、それぞれのインサイトもあれば、共通ニーズも見える。

共通のニーズとしては、健康意識が非常に高いことがわかる。また、今は元気でいいが、将来への「なんとなく不安」を解消したいという気持ちが見て取れる。これに対しては、相談サービス、同じ気持ちを持つ人をつなぐネットワークなどのサービスが考えられる。そして、年齢のことを考え、無理をしたくなくなるため、家事を楽にしたい気持ちも強い。家電、生活用品、家事代行サービスなどにビジネス機会があるだろう。また、旅行に行きたいが、同伴者がいないというのも共通の悩みである。

それぞれのインサイトをみてみよう。わがままマダムは、例えば、手抜きできる健康を配慮した食品が望んでいる。自由夫婦は、とにかく夫と健康を維持したいので、例えば、未病改善サービス、病気兆候の判断と処置セミナーや関連商品などが欲しがっている。健康だからこその自由なので、このようなビジネスは、学歴や健康に関するリテラシーがますます高くなる、今後の70代市場では、将来性があるだろう。

以上の分析のように、単なる70代をひとくくりすることでなく、定量・定性情報に基づき、企業独自の軸でセグメンテーションし、ペルソナを作成し、そして個別に戦略を立てることは、今後シニア市場を開拓する上で大きなカギを握っているといえる。

劉 瀟瀟(りゅう・しょうしょう)
三菱総合研究所 研究員。中国北京市生まれ。外交学院卒。みずほ銀行(中国)に入行し、その後東京大学大学院修士課程修了、三菱総合研究所入社。専門は日中の消費市場動向。中国人の深層意識のきめ細かい理解とともに、日本人の価値観・意識・行動を研究。最近は、インバウンド・越境EC等の中国マーケット動向や、生活者予測システムmifを用いて、日本消費市場を研究。著書に『女性市場攻略法―生活者市場予測が示す広がる消費、縮む消費―』(日本経済新聞出版社)などがある。