トヨタ自動車は2020年に中国で電気自動車(EV)を発売する。トヨタが量産型のEVを投入するのは、中国が世界初となる。トヨタはハイブリッド車を得意としてきたが、世界最大の自動車市場である中国ではEV発売に踏み切る。その背景にあるのは、中国政府の新しい「ポイント制」だ。その中身とは――。

自動車産業政策の柱はEV

中国では電気自動車(EV)のほか、ハイブリッド車や燃料電池車などを「新エネルギー車」と呼んでいる。この領域で中国政府が大々的にサポートしているのがEVだ。

9月9日、中国自動車産業発展国際フォーラムで工業情報化部(日本の省に相当)の辛国斌副部長(副大臣)は、一部の国が従来のエネルギーを使用する自動車の生産や販売の停止に向けたスケジュールを作成したことに対し、「現在工業情報化部でも関連研究を実施し、中国でもスケジュールを作成する」と述べた。このニュースを受けて自動車業界に激震が走った。

ガソリン車・ディーゼル車の「終末」は本当に訪れるのだろうか。米独と比べて中国市場で出遅れた日系自動車は、最近ようやくシェアを高めて、ひと息つけるようになったばかりで、EVについて慎重な態度を取ってきた。だが、ここまで来ると、中国のEV政策に対応せざるを得なくなっている。

多くの国がガソリン車販売禁止を表明

最近、「ガソリン車·ディーゼル車販売停止」を表明する先進国が増えている。2017年7月末時点で、ヨーロッパではすでに8カ国が将来ガソリン車·ディーゼル車の販売を禁止すると示している。その時期はオランダとノルウェーが2025年、ドイツとスイスとベルギーが2030年、イギリスとフランスが2040年、スウェーデンが2050年である。

注目に値するのは、一連の禁止案はイギリス、フランス、ドイツなどの国ではまだ政府の官僚たちの提案段階で議会の議決を経ていない、あるいはまだ法的拘束力のある議案が出ておらず強制力がないという点だ。筆者の知る限りでは、日本政府のEVに対する対応もいまだに明確になっていない。ただ、各国の「販売禁止」計画が本当に予定通りに実施されるか否かにかかわらず、ヨーロッパの「ガソリン車·ディーゼル車排除」の動きはもはや止めることはできないだろう。

ヨーロッパが2020年に採用する最新の自動車排ガス基準によると、現在の多くのハイブリッドカーはその基準に達することが難しく、また燃料電池車はコストが高い。そのため、多くの自動車メーカーはEVに狙いを定めている。中国でもほとんどの地方政府が新エネルギー車振興策を推し進めているが、「エコでクリーンだ」という理由で、どこでもEVが主役である。

中国は電気自動車に多額の補助金

中国の自動車市場は巨大だ。16年の自動車の販売台数は2802万台と、第2位のアメリカ1786万台より1000万台も多い。中国の販売台数のうち新エネルギー車は32万台で、全体の1.14%を占める。ちなみに2016年、EU28カ国の新車販売台数は約1400万台で、そのうちEVの販売台数は10万台にも満たなかった。このように中国の新エネルギー車がここ数年盛り上がっている背景には、手厚い優遇策がある。

例えば、北京などの大都会でガソリン車を購入するには、抽選でナンバープレートを取得しなくてはならず、その倍率は極めて高い。だが、EVの場合は、抽選は不要で、即座にナンバープレートが公布される。加えてEVを購入する場合、その航続距離によっては、政府から2.5万元から5.5万元(40万円~90万円に相当する)の補助金を受けることができる。また駐車場や高速料金も無料という優遇制度もある。

外資の株式保有比率制限を緩和へ

ただ、中国国内の力だけでは、政府のEV促進目標の達成は難しい。そのため中国政府は新エネルギー車の合弁生産に関する外資の株式保有比率制限の緩和を検討している。米国のブルームバーグは9月19日、企業筋から得た情報を引用し、「中国政府は自由貿易試験区において外資が独資企業を設立してEVを生産することを許可する」と伝えた。

商務部の王受文副部長は8月25日、国務院新聞弁公室のブリーフィングで、「新エネルギー車に関し(中国は)外資の株式保有比率が50%を超えないよう求め、専用車(ごみ収集車、消防車などの特殊自動車)も同様であるが、次の段階では参入条件を緩和し、制限も軽くしていく」と述べた。

自動車の合弁生産に関する株式比率は、1994年に策定した「自動車産業政策」で明確に規定されている。この政策は2004年と2009年、2度にわたって修正され、一部については内容が留保された。現状では、完成車の中外合弁生産企業における中国側の株式保有比率について50%を下回らないとし、同時に中国国内で、外資は同機種の合弁生産企業を2社までしか設立できない、と制限している。

外資の自動車メーカーは合弁政策に基づいて生産の現地化を進めるため、必ず中国側の合弁パートナーを必要とする。合弁に際し、株式保有比率と設立可能な合弁企業数を制限するのは、外資の猛攻から中国の自動車産業を保護するためで、同時に「マーケットをもって技術に換える」という目的がある。これは、技術移転に消極的な外国企業に対して、巨大な規模を持つ中国市場を背景に、中国企業に技術を移転する外国企業にだけ設立の許可を与えるという技術移転促進政策を意味している。

しかし新エネルギー車、とくにEV分野では、これらの制限を逐次撤廃していく動きが見られる。国家発展改革委員会と工業情報化部は今年6月に文書を通達し、EV分野における制限を免除し、外資企業1社が中国国内で2社以上の合弁会社を設立することを許可した。

これを受けてフォード・モーターも今年8月、衆泰汽車と株式保有比率50:50でEVの合弁企業を設立することを発表した。新エネルギー車は中国政府が全力で支援する産業分野だ。政府の担当部門の幹部は、「中国のガソリン車分野は競争力に欠けるが、新エネルギー車領域では、カーブを利用して先行者を追い抜く可能性を秘めている」、つまり技術の大転換機を捉えて先頭集団に追いつき追い越すと、期待を込めて語る。

世界の自動車大手が我先にと中国へ

中国政府(工業情報化部)は6月13日に、「乗用車企業燃料消費・新エネルギーポイント管理辧法(草案)」を発表した。この「ポイント管理」とは、乗用車を生産する企業は、一律に一定の比率の新エネルギー車を作らなければならず、新エネルギー車を生産しない場合、他社から枠を購入して比率を達成しなければならないという内容だ。

注目すべき点は、新エネルギー車の占める比率(ポイント比率)が、2018年までに8%、2019年が10%、2020年を12%と設定されていることだ。

新エネルギー車促進政策のもとで、ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンは、2018年にEVの生産量を大幅に増やす準備をしており、その中でも中国の増加幅が最大である。ゼネラルモーターズは中国をEV研究開発の中心とする。フランスと日本のメーカーであるルノー日産とフォード·モーターは、中国でのEVの合弁プロジェクト実施を急いでいる。

世界の自動車メーカーはEVの未来を見通して、その焦点を世界最大の自動車市場である中国に絞っている。中国政府が自動車充電スタンドと研究に巨額の投資を行い、メーカーに電池を動力とする車両の開発を促すにつれ、世界の大手自動車メーカーは次々とその主要な科学研究·設計業務を中国へと移している。

中国も海外の大手メーカーとEVの知識を分かち合うことを希望している。外資系の自動車メーカーは、彼らのEV技術を現地の合弁者に移転することを要求する、中国の新たな法律による“官制”圧力に直面している。中国はさらに公的で厳格な統制を行い、フォルクスワーゲンやゼネラルモーターズなどのメーカーに、「中国で新エネルギー車を販売せよ、さもなければ、旧式のガソリン車の販売は制限される」と迫っている。

トヨタも戦略の見直しを迫られる

トヨタ自動車は、かつてプリウスの組み立て工場を中国で設立し、日本米国などでの成功を目指したが、思うような成果をあげることができず、2015年に中国での生産を中止した。トヨタは電気自動車の生産技術を持っていないわけではなく、ハイブリッド車を今後の新エネルギー車へ移行する中間的な存在にしているため、中国ではトヨタのEVに対する熱意はあまり感じられなかった。

新エネルギー車促進政策のもとで、トヨタは燃料電池車を中国で販売できるが、水素を供給するためのインフラがほんどなく、これでは売れるはずはない。ガソリン車の販売を拡大しようとすれば、それなりに新エネルギー車の販売量も増やさなければならない。フォルクスワーゲンなどのように中国で大々的にEVを生産していくという方針を固めているようには見えないが、いずれはトヨタも中国で電気自動車の生産を開始せざるを得ないだろう。

日系企業もガソリン車時代の出遅れを教訓にして、中国市場に目を向けて動き出している。ホンダ自動車は2018年に中国で新型のEVを製造する計画である。また、トヨタ自動車も中国でプラグイン・ハイブリッド車を製造する計画である。

2016年にトヨタは中国で120万台販売した。新エネルギー車ポイント比率が導入されてから、販売台数が120万台と変わらなければ、18年に9.6万ポイント、19年に12万ポイント、20年に14.4万ポイントをそれぞれ確保しなければならない。中国市場で新エネルギー車を生産販売しない場合、他社からポイントを購入しなければならないこととなる。

米国カリフォルニア州が実施している新エネ・ポイントを例にとってみると、1ポイントは5000米ドルに相当する。中国では1ポイントがいくらになるか不明であるが、もし米国同様で計算すると、18年の9.6万ポイントは、およそ4.8億ドルのコストまたは罰金に相当する。「乗用車企業燃料消費・新エネルギーポイント管理辧法」の影響は大きい。

トヨタ自動車は11月18日、2020年に中国で量産型のEVを発売すると発表した。トヨタが量産型のEVを本格投入するのは、中国市場が世界で初めてである。世界最大の市場を有する中国政府政策が、トヨタに戦略の見直しを迫ったと言える。果たして今回は、欧米企業に追いつけるのだろうか。