経団連など日本の経済界は「原発ゼロは不可能」としている。だが、三菱総研理事長で元東京大学総長の小宮山宏氏は「できるに決まっている」と断言する。小宮山氏は「脱原発は世界の潮流。米国や中国も再生可能エネルギーに舵を切った。このままでは日本は乗り遅れる」と警鐘を鳴らす――。

再生可能エネルギーのコストが原発を逆転

実際のところ、311(東日本大震災)の東京電力福島第一原発事故の後、何年間も、日本は原発ゼロの状態でやってきました。いまさら「やれるか」「やれないか」という議論をするなんてムダ。全く話になりません。

もう少し、前段の流れから説明しましょう。エネルギー源は、石油や石炭などの化石資源から「非炭素資源」に変えていかないと、地球温暖化の問題は解決できません。私は、21世紀中に変えざるをえないと考えています。

では、ここで言う「非炭素資源」とは何か。選択肢は大きく2つ、原子力か、再生可能エネルギーです。ここまでは、議論の余地はありません。

選択には、「どちらが安いか」という、コストを考える必要があります。私は1999年に『地球持続の技術』(岩波書店)という本を出していますが、この本をまとめていた1990年代は、まだ原子力発電による電力コストの方が相当安いとされていました。当時は、ようやく太陽電池が家庭の屋根に載り始めたころで、風力発電の発電規模もかなり小さかった。再生可能エネルギーで、大量のエネルギーをまかなえる状態ではありませんでした。

しかし私は、技術の進歩を考えると、いずれどこかのタイミングで、再生可能エネルギーの供給規模やコストが、原子力と逆転すると考えていました。

実際は、私が当時予測していたよりも圧倒的に速いスピードで逆転しました。再生可能エネルギーのコストが安くなる一方で、原発についてはリスクの大きさがコストに加わるようになった。今や原発を新設するよりも、再生可能エネルギーの発電所を新設する方が安いのです。

実際に、2016年に世界で実行された発電所投資額の70%が、再生可能エネルギーに向けられています。ちなみに投資額の25%が火力発電所で、原発の投資額は5%に過ぎません。

再生可能エネルギーには大きく5種類、水力、風力、太陽光、バイオマス、地熱があります。このうち、その土地で一番安いものを選べばいいのです。日照時間は短くても風が強いというところは風力、水が豊富なところは水力、森林が豊富なところはバイオマス、アイスランドのように火山が多いところは地熱発電を使えばいい。世界では、その国や地域に合った再生可能エネルギーを選択し、どんどん開発を進めています。それがこの、投資額の70%という数字に表れています。

原発を「作ってしまった」日本の難しさ

世界でこうした流れが進んでいる一方で、日本の再生可能エネルギーの取り組みはまだまだです。日本の難しさは、これまですでに30兆円も原発に投資し、設備を作ってしまったことにあります。

原発は、「作るとき」と「使い終わった後」に非常にお金がかかります。でも、使っている間はとてもコストが低い。これだけ原発を作ってしまったわけですから、使い終わった後のことを考えず、使い続けていれば費用は安くすみます。つまり、今の日本は、「使い終わった後をどうするか」という問題を先送りにしているのです。

ただ、日本は東日本大震災で深刻な原発事故を起こしました。世界の国々は、「日本ですら事故を起こしたのだから、うちの国も起こすかもしれない」と、原発の稼働や新設を止めた。欧州では、新設や稼働はもちろん、将来にわたって原発は使わないと決めた国も出てきています。中国やベトナム、トルコなども、新設計画はありますが実際は進めていない。それが世界の潮流になっている。それなのに、事故を起こした当の日本が、なぜまだ原発を推進しようとしているのか。

さらに、政府は「今後もベース電源は原発で」と言っているようですが、今、「ベース電源」という考え方をしている国は、日本くらいじゃないでしょうか。

確かに風力や太陽光は、気候などによって発電量が変わりますが、水力やバイオマス、地熱は安定電源です。さらに、風力や太陽光でも、水力と組み合わせることによって、電源としての不安定さを解消できます。

水力発電では、余剰の電気があるときに、タービンを逆回転して下流の水を上の貯水池に上げておき、必要なときに水を落として発電する「揚水発電」ができます。いわば電気を蓄えておく蓄電池の役割を果たします。これは非常に効率がよくて、「貯めた」電気の85%くらいは後で使うことができます。

揚水発電はもともと、原発の電気が需要の少ない夜に余るため、それを活用するために開発されたものです。でも、太陽光や風力など、供給が不安定な電力の余剰電力を貯めておくのにも使えます。九州電力では今年のゴールデンウィークに、需要の70%以上を太陽光で発電しパンク寸前になりましたが、揚水発電がフル稼働して問題を解決しました。

再生可能エネルギー「後進国」日本

水力発電は、さらに大きな可能性を秘めています。現在主流の、大型のダム開発を伴うような水力発電所は、すでに作れるところには作ってしまっており、新設は難しくなっています。しかし、出力規模1万kW以下の小水力発電のポテンシャルは高く、全国で約1000万kWと試算されていて、原発10基分に相当します。このすべてを開発するのは難しいかもしれませんが、原発3基分くらいなら十分可能です。

こうした小規模の水力発電は、ダムを使いません。水力発電は、要は、上から下に流れる水の力(位置エネルギー)を使えばいいので、ダムが造りにくいようなところであっても、小さなためを作って管路で落とし、下でタービンを回せさえすれば可能です。

例えば、和歌山県の有田川町では、県営ダムの放流水を使った町営二川小水力発電所を運営しています。ダムは通常、下流の生態系を維持するために、常に一定量の放水を行う「維持放流」をしています。この放流水にタービンを入れ、最大200kW、年間120万kWhの電力を作っているのです。日本では、ほとんどのダムで維持放流をしていますから、開発の可能性は非常に大きいといえます。

今後の電力システムは、従来のように大きな発電所で集中的に発電して電気を配る、というやり方ではなくなるでしょう。揚水発電のほか、電気自動車やプラグインハイブリッド車などに搭載された電池も、太陽光や風力発電の余剰を貯める蓄電装置として使えます。こうした多様な蓄電機能と、発電パターンの異なる複数の再生可能エネルギーを組み合わせて、電力を供給する技術が求められます。

残念ながら日本は、こうした再生可能エネルギーの分野では後進国となってしまっています。ドイツでは、電力供給の30%以上が再生可能エネルギー、中国でも昨年は28%に達していますし、アメリカももうすぐ20%になります。日本は2015年現在で、わずか4.7%です。

2050年以降エネルギーコストはゼロにできる

こうした現実を見ると、エネルギー問題について悲観的になるかもしれませんが、その必要はありません。

まずは2050年の日本を描きましょう。人口は今より2割以上減少していますし、技術革新で省エネルギー化も進み、エネルギー消費量は今の半分以下になります。今よりずっと楽になります。それくらいの量は、再生可能エネルギーで十分供給できます。

5つの再生可能エネルギーをどんどん開発する。それがもっとも負担を伴わない方法なのです。次世代に対して、2050年以降はタダになるエネルギーを残すことができます。その上、現在化石資源の輸入に使っている25兆円が、すべて内需に振り向けられるようになります。都市よりも地方に落ちるお金となり、地方再生の中核となるビジネスになりえます。

現在日本では、原発に反対している人の方が多いのに、原発を稼働させ、原発事故が起きたときの避難演習をしたりしている。ほかにも、サイバーテロに襲われたらどうするか、北朝鮮が原発周辺に爆弾を落としたらどうするか、と、リスクや不安要素は本当にたくさんあります。こうした不安を抱えて「イヤな思いを持ち続けるコスト」を、将来も抱え続けるのは本当にいいことなのか。しっかりと考えるべきでしょう。

小宮山 宏
三菱総合研究所理事長。1944年生まれ。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年工学部教授、2000年工学部長などを経て、05年4月第28代総長に就任。09年4月から現職。専門は化学システム工学、CVD反応工学、地球環境工学など。サステナビリティ問題の世界的権威。10年8月にはサステナブルで希望ある未来社会を築くため、「プラチナ構想ネットワーク」を設立し会長に就任。