パナソニックの「ボディトリマー ER-GK60」が大ヒット、店頭で品切れが続いている。人気の理由はアンダーヘアの処理のしやすさに特化したことだ。前例がない商品だけに社内でも需要が読めず、営業部門の販売予想は芳しくなかった。しかし開発担当者は、アンケートの結果やゲイの人たちの反応から「需要を掘り起こせば売れるはず」と信じ、とがったプロモーションを推し進めたことが、“予想外”のヒットにつながった。

パナソニックが2017年5月1日に発売した「ボディトリマー ER-GK60」が大ヒットしている。男性用のボディシェーバーは1000円台~6000円台程度の商品が多く、実売価格が1万円前後のボディトリマーは高額だが、3カ月で約2万台(販売予想の4倍)を出荷しただけでなく、販売店からさらに約2万台の追加発注があったという。

最大の特徴は、同社初の「アンダーヘア用トリマー」であること。股間周りの「VIOゾーン」(※)を中心に、毛をすべてそることもできるし、指定した長さにカットすることもできる。社内でも需要が読めず、「こんなもの売れるのか?」という声もあったという商品が、なぜ予想外のヒットになっているのか。開発担当者に聞いた。

●「ボディトリマー ER-GK60」の気になるポイント
・全身の体毛を処理できるボディートリマー
・特にアンダーヘアの処理に特化
・つるつるにすることも長さを決めてそることもできる
・水で丸洗いでき、風呂場で使える
・ボディトリマーとしては高価格
・社内の「売れるのか?」の声に反し、予想の8倍の売れ行き

※VIOゾーン……「V」はビキニライン、「I」は股の間のライン、「O」は肛門周りを表す。

当初は欧州向けに企画、2015年発売予定だった

商品開発に携わったビューティ・ヘルスケア商品課の陣内克博主幹は「元々は2015年に発売しようと考えて、2013年頃からずっと情報収集していました」と語る。

「欧州で活躍する有名サッカー選手などが『向こうではみんなつるつるにしているので、自分もそった』などと話すのが日本でもよく知られるようになりましたね。体毛をそるのが当たり前になっていたので、当初は欧州向けに発売しようと考えていました。しかし正直に言うと国内に比べて欧州では営業が弱くて販売数が読めないため、国内でも盛り上げて同時発売したいという思いが生まれました」(陣内氏)

パナソニックでは、シェーバーはもちろんのこと、頭髪用のバリカン、まゆ毛用シェーバー、鼻毛カッター、腕の毛やすね毛などを処理するボディシェーバーなど、多数のメンズグルーミング製品をそろえている。しかしアンダーヘアに特化した製品はなかった。

海外ではカミソリでそったり、ワックスで脱毛したりする人が多い。しかし日本人、特にある程度以上の年齢の男性の場合は、いきなりつるつるにするのは抵抗があるだろう。ボディトリマーを使えば、適度な長さを残して処理することができる。

「バリカン型の商品は出していますが、ボディトリマーのような『I字シェイプ』だとVIOゾーンの処理がしやすいことが分かっていたので、こういう商品を作って進化させていきたいと考えたのです。世代ごとのニーズや、あるいはその人の好みによって、つるつるにしたい人も、カットしたい人もいるでしょう。体毛を“整える”というニーズに応えたい」(陣内氏)

需要が読めず、アンケート調査を実施

需要を調べるため、陣内氏は約8000人を対象にネットでアンケート調査を行った。すると20代までの男性で約35.5%、30代男性で約28.7%、40代男性で約22.2%、50代男性でも約12.7%の人が利用意向を示したという。

「日本の人口にこの調査を当てはめたところ、約873万人の男性の需要があるということが分かったのです。20代までの男性が一番高いが、50代でも意外にあるんだという驚きもありました。ターゲット層は『お金を持っている30代、40代男性』といったものではなく、『先進的な考え方の持ち主』で『どちらかというと毛が濃い人』……といったようにデプス調査をしながら徹底的にとがらせていけば、面白いことになるのではないかと考えました」(陣内氏)

斬新な体験会を多くのメディアが紹介

筆者は2017年4月に開催された体験会に出席したのだが、正直かなり面食らった。失礼ながら、「パナソニックらしからぬ攻めの姿勢」を感じるような体験会だったからだ。たとえば、股間に植毛した下半身だけの白いマネキンと陣内氏が壇上に登場し、皆が見守る中で毛を刈っていくデモンストレーション。参加した記者や編集者たちをガウンに着替えさせ、個別のブースで自分のアンダーヘアやすね毛を実際に処理してみる体験コーナー……といった具合だ。また登壇者の口から「ギャランドゥ」(アンダーヘアとへそ周囲の毛の境目のような部分の俗称)という言葉が出てくるのも驚きだった。普段、趣向を凝らしたさまざまな家電の発表会に出席し慣れている記者たちも驚いたようで、当日や翌日のSNSにはこの発表会の写真や感想が相当数流れていたほどだ。

メディア向けの発表会以外にも、イベント会場や街中にブースを出して体験会を行い、街ゆく人が実際にボディトリマーを試用できる場を設けた。こうした“とがった”体験会などが功を奏し、新聞や雑誌、ウェブサイトなどさまざまな媒体で取り上げられて大きな話題になったというわけだ。

そもそもパナソニックのグルーミング製品の歴史は長い。筆者も子どもの頃兄弟で「ナショナル」ブランドの電動バリカン「スキカルシリーズ」で親に散髪してもらっていたものだが、腕や足用のボディシェーバーも10年以上前から販売しているという。

2013年にはアイドルタレントの亀梨和也さんをCMキャラクターにボディグルーミングを訴求するプロモーションを実施した。「当時は『メンズシェーバー』と、バリカンをボウズ用にした『ボウズカッター』、『ボディシェーバー』、『ヒゲトリマー』の4モデルを合わせて『全身シャワーグルーミング』という売り出し方をしました。それはそれで盛り上がり、特にボウズカッターは売れたのですが、ボディトリマーはあまり売れませんでした。4つに分けたことで、お客さんにとってイメージがぼけたのかなと思います。その経験を踏まえて、今回はかなり訴求をとがらせたのが大きな違いです」(陣内氏)

ペルソナを作り上げ、「男をデザインする道具」と訴求

訴求をとがらせる上で、中心ターゲットとなる「ペルソナ」(マーケティングのイメージを明確にするために年齢や性別だけでなく趣味や嗜好など細かく設定した人物像)も作り上げた。

年齢は27歳で、埼玉県さいたま市在住。赤坂見附付近の企業に勤務し、年収は400万円以下。しかし両親と同居のため、収入のほとんどを自分のために使える。清潔でさわやかなルックスをしており、“一歩抜け出したい意識高い系”の性格。見られる意識が強く、毛深いことがコンプレックス……といった具合だ。

こういったペルソナがパナソニックの理容商品を使って何をするのか。

「『男をデザインする道具』であり、『アンダーヘアもファッションなんですよ』という表現をとがらせました」(陣内氏)

商品ポスターでは“細マッチョ”な男性モデルが上半身裸になっており、その前には整えられたアンダーヘアとおぼしき三角のフォルムが並ぶ。ハート形や稲妻形、ダイヤモンド形など、なかなか刺激的なデザインだ。

「実際には女性用にはこういう形の『テンプレート』(アンダーヘアを整えるためのシート)が売られていたりしますので、何をするものかを伝えるためにあえてとがらせて入れました。あまりふざけた表現になると炎上するので、最初から最後まで真剣に伝えなければと思いながら詰めていきました」(陣内氏)

男性の美意識に訴求する商品ということもあって、2017年5月に開催されたLGBT向けのイベント「東京レインボープライド2017」にも出展した。「ゲイの方々は美意識が高くて体毛(ケア)にも詳しいので、(ウェブサイトなどを見て)『知っていました』と多くの人に来ていただきました」(陣内氏)

陣内氏によると、ゲイの人たちはインフルエンサー(他の消費者に影響を与える人)気質が強い人が多く、さまざまなSNSを使いクローズドなコミュニティー内で濃いコミュニケーションをしているという。「だから東京レインボープライドに出展したときも、多くの人からすでにボディトリマーを『知っている』と言われました」と陣内氏は語る。

「ですから、最初はインフルエンサー気質を持つゲイの方々に広めていただいて、若い人にはストレートに(商品の魅力を)届けるということができないかと考えました」(陣内氏)

流通向けの内覧会で大ヒットの予感

実際に販売を開始してみると、店頭の在庫が切れるほどの人気となった。

「シェーバーを販売する上で男性の美容意識を調査していますが、年々美容に対する意識が上がっていると感じています。体毛を整えることが恥ずかしいことではないと変わってきています。ボディトリマーが売れるかどうかは分かりませんでしたが、力を入れたら面白いことになるなと思いましたし、これをきっかけにメンズグルーミング商品が盛り上がればいいなということで発売しました」(陣内氏)

発表会や体験会での反応が良かったため、多くのメディアに取り上げられたが、営業やバイヤーからの反応は今ひとつだった。

「プロモーションの内容を事前に伝えても、営業はもちろんのこと、営業がバイヤーに伝えてもあまり響きませんでした。家電量販店は郊外型店舗が強く、そうした店舗は客層も高齢者が多いので、『うちの客層では……』という反応なのです。(ポスターと同じ、上半身裸の男性モデルが写っている)立て看板も作りましたが、全然発注がありませんでした。導入していただいた都内の大手家電量販店でも、すぐ撤去されてしまいました」(陣内氏)

しかし陣内氏は、発売前に行った流通向けの内覧会で「売れる」と感じたという。

「販売店の店員に来ていただいたのですが、20代から50代くらいの方まで多くの人が興味を持ってくださり、実際に試していただけました。小売店さんがそれだけ興味を持っていただいたので、これは売れるぞと感じました」

営業部門は3カ月で5000台程度の販売台数見込みだったとのことだが、実際には2万台を出荷し、2万台の追加注文を抱えるほどのヒットになったというのは冒頭に紹介した通りだ。もちろん、物珍しさというのもあったのかもしれない。しかしこれまでのバリカンスタイルではなく、VIOゾーンに特化しつつ体毛全体をケアできる使い勝手の良さに消費者の興味が集まったのも確かだろう。

今後の展開について陣内氏は次のように語る。「ヒゲも合わせて頭から足の先まで、整えていく方向だろうと思っています。世代ごとの好みによってつるつるにする人もいれば整えたい人もいるでしょう。いろいろな器具があるので、それぞれのニーズによって商品を選択してもらえれば。そうした潜在的なニーズを調査しつつ、ラインアップを増やしていきたいと考えています」。

■次のページでは、パナソニック「ボディトリマー ER-GK60」の企画書を掲載します。

パナソニック「ボディトリマー ER-GK60」の企画書

■パナソニック「ボディトリマー ER-GK60」 http://panasonic.jp/mens/body/er-gk60/