夏休みの宿題といえば「自由研究」。テーマがみつからず、市販の「ネタ本」に頼ってしまう親子も多いようだ。しかし塾講師の筆者は「結論ありきの『ネタ本』に頼ると、子どもの学力は伸びない」と注意する。さらに「難関校を目指す『できる子』は、遠くに出かけなくても、近場でテーマをみつけてくる」という。親はどこに子どもを連れ出せばいいのか。2つの具体例を紹介する――。

夏休みの「自由研究」の出来不出来は「家族の偏差値」か

「早く9月になればいいのに……」

わたしの母は夏休みによくこうつぶやいていた。夏休みに暇を持て余してゴロゴロしている子(わたし)を見かねて、1日も早く学校が始まってほしいという皮肉をこめていたのだろう。

一方、「そんなに早く9月が来ては困る! だって、子どもの宿題がなかなか片付かないのだから」と悲鳴を上げたい親もいるのではないか。夏休みに課される宿題の中でも、子どもがもっとも苦しむのは「自由研究」だろう。いつまでたっても手をつけない子どもに親のほうがやきもきしてしまう。

「家計が厳しい」「休暇の予定があわない」……。もろもろの事情で子どもを旅行へ連れていけず、自由研究のネタを提供してやることもできないと焦っているご家庭も多いかもしれない。

自由研究対策の「ネタ本」は懇切丁寧だからダメ

ご安心あれ。

近場に目を向けると自由研究のネタは案外ゴロゴロ転がっているものだ。書店にはこの時期、学校の自由研究対策の「ネタ本」がずらりと平積みされている。それらの多くは子ども向けに懇切丁寧な説明がなされている。非常に便利である。しかし、そうであるがゆえに自由研究の内容を限定してしまうというデメリットがある。「懇切丁寧」がかえってよくないのだ。

そこで2冊の本を紹介したい。自由研究のために執筆された本ではない。自由研究のマニュアルではない。そこがいい。子どもに創意工夫する余地を残している。完成した自由研究の出来不出来はともかく、子どもなりにこの本を参考にすれば、オリジナリティーあふれる内容をリポートできるはずだ。

「鉄腕ダッシュ」流の潮干狩りで東京湾を知る

まずは1冊目。木村尚著『都会の里海 東京湾』(中公新書ラクレ)である。

著者の木村さんは、テレビ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」(日本テレビ系、毎週日曜夜7時)の人気コーナー“DASH海岸”にレギュラー出演している海洋環境の専門家だ。本書は大人向けなので、少し難解な表現もあるが、小学校高学年であればなんとか読めるレベルである。

東京湾に対して、多くの人は「生息する魚介類の数に乏しい、汚染された海」というイメージを抱いているかもしれない。ところが、本書を読むと、東京湾には世界でも稀にみる豊かな生態系があり、魚だけでも約700種類が確認されていることがわかる。

本書では、東京湾の内湾・外湾の双方、そして河口付近に生息する生き物たちを細かに解説している。数多くの食べられる魚介類の写真も掲載されていて、見ていると思わずおなかがすいてしまうほどだ。

自由研究におすすめしたいのは「貝」である

その中で、わたしが夏の自由研究のネタでおすすめしたいのは「貝」である。

たとえば、お台場海浜公園、葛西海浜公園……。葛西海浜公園にまで足をのばせば、干潟で本格的な潮干狩りに興じることができる。

本書に詳解されているが、巣穴にたっぷりの塩をふりかけて、それに驚いてニョキッと出てくるマテガイ採りなどは大人も大興奮まちがいない。実際にわたしも採ったことがあるが、その楽しさに時間を忘れるほどだった。長時間しゃがんだ姿勢はしんどいはずだが、それが気にならない。子どもなら、なおさらだ。

その他、アサリやホンビノスガイ、シオフキ、ハマグリなど、いろいろな貝を干潟で見つけてそれらを自由研究の題材にすることもできる(試しに「マテガイ」でネット検索すれば、その採取の様子を撮った動画がたくさん見つかる)。

春のイメージがある潮干狩りだが、本書に目を通すと夏でも十分楽しむことができることが分かる。酷暑の中、潮干狩りは少々ヘビーに感じるかもしれないが、だからこそ、混雑を避けられ、潮干狩りに専心できる時期ともいえる。もちろん、暑さや日光への対策をお忘れなく。

また、千葉県まで車を走らせれば、盤洲干潟(木更津市)、三番瀬(市川市・船橋市)など規模がさらに大きな干潟で充実した時を過ごせるはずだ。

ちなみに、「しながわ水族館」の1F(海面フロア)に「東京湾の干潟と荒磯」「品川と海」「東京湾に注ぐ川」の特設コーナーがある。潮干狩りの帰り道に立ち寄ってみると、自由研究の内容を一層深めることができる。

親と「古墳に大コーフン!」できる子は伸びる

そして2冊目は、大塚初重監修『東京の古墳を歩く<ヴィジュアル版>』(祥伝社新書)である。

「古墳」というと、近畿地方に集中的に存在しているというイメージを持つ人がいるかもしれない。意外なことに東京にも数多くの古墳があるのだ。歴史好きな子であれば、ぜひ東京の古墳巡りをすすめたい。本書はそのうってつけのガイドブックとなるだろう。

「東京に古墳? どこまで郊外に行けば見られるのだろう?」

そんなことばが聞かれそうだが、都心にも多く存在する。たとえば、東京タワーの近く、増上寺に隣接する芝公園内に「芝丸山古墳」がある(ここは縄文時代の貝塚も見られる)。この古墳は全長125mの大型前方後円墳であり、見ごたえも十分ある。

古墳は都内のあちこちにある。港区や品川区といった都心だけでなく、足立区や葛飾区といった下町、そして、多摩川中流域(日野市・あきる野市・狛江市・調布市など)や多摩川下流域(大田区・世田谷区など)にも分布している。

わたしのおすすめは、田園調布古墳群から野毛古墳群にかけてのルート散策だ。

東急東横線・東急多摩川線「多摩川駅」から歩いてすぐのところに「多摩川台公園」がある。この公園には前方後円墳の亀甲山古墳、宝莱山古墳をはじめ、実に10基もの古墳が存在する。さらに、園内には「多摩川台公園古墳展示室」があり、出土品なども見学できる。

この公園を北に抜け、しばらく散歩をすれば、野毛古墳群に行きつく。玉川野毛町公園内には帆立貝式古墳である野毛大塚古墳があり、墳丘が復元されている。目の前を走っている環状8号線を渡れば、そこは等々力渓谷。ここでは横穴式の石室などを見ることができる。

子どもと散策するにはうってつけだ。

自由研究のレベルは親のレベルを反映する

「東京湾」と「古墳」。いかがだろうか。もちろん、これらはほんの一例である。ほかにも、身近な場所に目を向ければ、自由研究のネタは存外に多くあるはずだ。

さて、本文を締めくくる前に、子どもにとって体験型の自由研究の重要性を改めて説明したい。親が考えなければいけないのは、子が「期限に間に合うよう、自由研究を終わらせる」ことではなく、子が「自由研究を通じて、自らが探求心を醸成していく」ように導くことだ。

そのためには、子が実際に研究対象をじかに見て、じかに触れる「体験型」であったほうがよい。塾講師として長年子どもたちの自由研究のテーマを“リサーチ”しているが、いわゆる「できる子」の自由研究に共通するのは、完成したリポートが「自分のことばでしっかり説明されている」という点である。オリジナリティーと換言してもよい。

これまでに「へえ、面白いなあ」と感心させられたもの。

たとえば、「シャボン玉の膜を長持ちさせるには、どうしたらいいか」を数々の実験を通してリポートする子がいた。あるいは、同じ場所・同じ時間で空に浮かぶ雲を撮影しては、日ごとにその移り変わりを詳細にリポートしている子もいた。

「自由研究を楽しめる子&頭のいい子」の親は優れている

いずれもオリジナリティーあふれる着眼点があり、読み応えも十分だった。自分の興味対象にとことんのめりこんでいるのだろう。まとめ方はやや稚拙でも、とにかく「楽しくてたまらない」様子が手に取るようにわかる。つまり、躍動感のある自由研究になっているのだ。そうなると、大人もつい身を乗り出して読み込んでしまう。彼らの共通点が、学力がかなり高い子だということも理解できるだろう。

少なくとも自由研究のネタ本やネット情報をそのまま「コピペ」したような代物より、ずっと血が通っている。自由研究の教材にはよく考えられたものもある。だが、そうした「自由研究キット」は、結論ありきで作られている場合が多い。その結論に子を誘導するような内容になっている。そうすると、オリジナリティーを感じられない自由研究となってしまうのだ。

あまり大きな声では言えないが、自由研究の出来不出来は、その子どもの親の“レベル”を反映しているかもしれない。「付け焼き刃」で自由研究の教材を買い与えて、適当にやらせてしまうか。もしくは、一緒に潮干狩りや古墳巡りをして、研究のヒントを与えているか。

進学塾に通う子が小学6年生なら中学受験は半年後。その入試結果で笑うことのできる親子はどちらのタイプか。それは言わずもがなである。