ノート習慣でなぜ差がつくのか?

高い地位と、それに伴う責任を担うのが大企業の社長や役員、オーナー企業の経営者といった人たちだ。彼らエグゼクティブには、部課長など一般のサラリーマンとは異なる「常識」がある。その常識の差は、ノートの選び方、取り方といったビジネス上の基本的な習慣にも表れているのではないか。

そんな仮定のもと、プレジデント編集部では今回、オーナー企業の経営者や大企業役員らを対象にした「ノート習慣」に関する意識調査を行った。そのうえで、エグゼクティブの行動習慣に詳しい2人の専門家に取材し、エグゼクティブ層(=「役員になる男」)とサラリーマン層(=「課長止まりの男」)との習慣の違いを明らかにすることを試みた。

協力を仰いだ専門家は、腕利きヘッドハンターとして多くのエグゼクティブの転職支援に携わってきた森本千賀子氏と、富裕層マーケティングを専門とする増渕達也氏。意識調査を委託したのは、増渕氏が代表取締役を務めるルート・アンド・パートナーズだ。

まずは結論から見ていこう。図は、意識調査および森本、増渕両氏の知見から、エグゼクティブ層とサラリーマン層の「ノート習慣」の違いを抽出し、簡単なチェックリストにまとめたものだ。

わかりやすく要約すると、エグゼクティブ層は毎日かなりの頻度でメモを取るが、その際は大学ノートなど定型のノートよりも、手近の資料やコピー用紙の余白や裏側などに書きつけることが多い。反対に、サラリーマン層には、自分でメモを取らずに部下任せにするケースが見られるほか、システム手帳や3色ボールペンといったアイテムにはこだわりを持つ傾向がある。

書き方にも差があり、エグゼクティブ層は「聞いたまま」を書くのではなく、要点を抽出または図解化することに長けている。一方、サラリーマン層には、セミナーの内容を逐一記録するなど、情報の収集や整理に労力を傾ける人が少なくない。

また、今回の意識調査によれば、エグゼクティブ層は長期間にわたりノートを保管し、頻繁に見返していることがわかっている。

エグゼクティブは自分でメモを取る

このような差が見られるのはなぜなのか。以下、2人の専門家とともに意識調査の結果を読み解いていこう。

意識調査の対象者は、オーナー企業経営者や大企業役員、医師、弁護士といったエグゼクティブ。21人の回答者の中から16人分をランダム・サンプリングした。いずれも総資産約1億円以上、「年収もおおむね2000万円超」(増渕氏)という人たちだ。

富裕層マーケティングの専門家である増渕氏にとっても、意外に思えることが2点あったという。

「想像以上に『メモ魔』が多いことと、ノートの内容を長く保管する人が多いことです(Q1、Q2)。ほとんどの人が、メモを取ることや保管して見直すことに、明確な価値を見出しています。しかも、資産総額が大きい人ほどノート類を保管する期間が長く、読み返す頻度も高いという傾向が見られます。それはおそらく『メモの内容をフィードバックした結果、新たな発想や次のビジネスにつながった』という成功体験を持っているからだと思います」

そもそもエグゼクティブは自分でノートを取るのだろうか。回答(Q3)では、ほとんどが「自分でノートを取る」と答えている。「よく取るほう」という回答が過半数を占め、「部下など周囲の人に任せる」と答えたのは、1人だけ。

「世間にはいまも『偉い人はメモ取りを部下に任せているのでは』という昭和の価値観が残っているかもしれませんが、実態とは異なります。いま私がお付き合いしているエグゼクティブの方々で、部下を横に置いてメモを取らせる人はあまり見たことがありません」(増渕氏)

意外にも「昭和の価値観」を引きずっている人は、大企業の部課長クラスに見られるという。森本氏が転職支援に関わった部課長のなかには、「メモ一つ取らない方がいらっしゃいます」。

森本氏は転職時の面接対策として「もし面談内容を完璧に記憶しているのだとしても、手元がおろそかでは印象がよくないので、紙にメモするふりくらいはしてください。それも一つの熱意の表現方法です」と指導しているが、実際には完璧に記憶しているのではなく、「部下に記録を任せる習慣が抜けないだけ、という人も少なくありません」。

当然、大事な数字やキーワードを忘れてしまうケースもある。一度聞いた話を次の機会に聞き返すようでは、役員クラスに抜擢されるのは難しそうだ。

「丸写し」が評価されないわけ

どんな内容をノートするのか。この問いには、さまざまな回答が寄せられた。

「エグゼクティブ層の方々はみなさん、人と会って聞き慣れない言葉や心に残ったキーワードが出てきたら、短く書き留めることが習慣になっていると感じます。共通していえるのは、目的意識が強いということです。面談やセミナー参加の時間も極論すればコストなので、それに見合ったリターンを求めるのです。直接ビジネスにつながらなくても、新しい知識を得ることはリターンの一種ですから、私と接していても、知らない情報があると『いま、なんていいました?』と聞き返してメモを取る方が多い」(増渕氏)

メモの中身は、相手から引き出した一次情報だけとは限らない。その先の「行動」につながる一言二言を書き加える人が多いのだ。

意識調査(Q4)の回答では「相手の話を聞いていて、自分が思いついた戦略や次の行動」「持ち帰って調べるべき事項、次回の約束・宿題など」「打ち合わせに伴うTO DOリスト」というあたりが典型的だ。

増渕氏はさらに、「経験上、キーワードの横に人の名前を書く方も多い」と指摘する。「この件については、あとでこの人に聞くこと」というほどの意味だが、アイデアは人と結びつくことで一気に具体化することが珍しくない。これもまた、行動に直結する習慣なのだ。

一方、優秀とされるビジネスパーソンのなかには、発表内容や相手の発言を逐一ノートに書き付ける人も少なくない。ただ、このタイプは「エグゼクティブ層にはほとんどいない」というのが、増渕氏の実感だ。

森本氏も「すべての内容を真面目にノートしている人が抜群のアウトプットを出すとは限りません」と指摘する。

「ノートのまとめ方は、その人の思考回路そのものです。自分なりの論理で要約したり、フレーム化することもなく、『聞いたまま』を雑然と記すだけではビジネススキルを疑われます。見返したときに、短時間で要点を理解できるのだろうかと心配になるくらいです」(森本氏)

今回の特集で取材した上場企業経営者も「黒板を丸写しするタイプは、現在のビジネス環境を生き抜いていけない」と断言する。重要なのはあくまでも、情報を得たうえで「どう行動するか」。行動が求められているのに、一次情報の収集・整理で時間と労力を費やしてしまっては本末転倒だというのである。

同じ理由から、3色ボールペンなどを駆使して、情報の分類に励むのも労力の無駄といえそうだ(Q5)。

「2色や3色のペンを使うと答えた方もいますが、細かく使い分けているわけではないと思います。私自身、エグゼクティブ層でそういう方にお目にかかったことはありません(以下参照)」(増渕氏)

大学ノートよりもノートパッド

実は冒頭に示したチェックリスト「役員になる男の習慣」のなかで、意識調査の結果と矛盾する項目が一点だけあった。項目2の「資料の裏やコピー用紙にメモを取る」である。

(Q6)「ノートやメモを取る際は、何に書き付けますか?」に対しては、「スマートフォンなど電子デバイス」のほか、「こだわって選んだノートやメモ帳」「大学ノートなど市販品」と答えた人が多数を占めた。

しかし、増渕氏の実感では「エグゼクティブ層にはノートやメモ帳にこだわる人はほとんどいない。もしかすると、『よそ行き』の回答をされた方が多いのかなと感じています」。

というのは、次のような経験があるからだ。

「私はA4のコピー用紙を折りたたんで、そこに1週間の予定などを書き込んでいます。胸ポケットに入れておけば頻繁にチェックできますからとても便利です。それを見て、『君もそうやっているのか。実は私もそうだ』、あるいは『人目を気にして一応はダイアリーを使っているが、本当は私も紙1枚で済ませたい』という方が意外に多いのです」(増渕氏)

森本氏の意見も同様だ。

「エグゼクティブ層にはコピー用紙の裏や隅のあたりにメモを取る方が多い。営業系など職種によってはきちんとしたノートを使いますが、一般的には大学ノートなど定型のノートを持ち歩く人はあまりいません。むしろ1枚ずつはがして使えるので、RHODIAブランドなどのノートパッド(レポート用紙)を愛用する人のほうが多いと思います」

前出の上場企業経営者も「大きな声でいうことではないが、コピー用紙や資料の裏にメモをすることが多い」と打ち明けてくれた。

なぜノートではなく、あえて手近な紙を使うのか。

「エグゼクティブ層にはその場のひらめきや自由な発想を重視する人が多いため、定型のノートを取り出すよりも手近の紙を利用する傾向が強いのではないか」というのが、増渕氏の解釈だ。

Q6では、複数回答だが「スマートフォンなど電子デバイス」と答えた人が最多だった。

「思いついたときに書き留めたいので、身近にあるスマホや、ミーティング中に持っていたノートに書くことが多い」という回答が典型的だが、多くの人は紙のノートとスマホ類とを併用している。また「すぐメールで報告可能の為」という回答にあるように、電子メールをメモの手段として活用している人も少なくない。

だが、増渕氏によれば「40代以上に限ると、アイデアやキーワードを書き留めるメモはほとんど手書きです。私たちの世代はまだ、記憶に定着させるという意味では手書きのほうが優れていると信じているからです。スマホ類はあくまでもサブで、最初からスマホやPCに打ち込む人はいないのではないか」。

高価なアイテムにこだわるのは?

見てきたとおり、実質を重視し、ノートやペンにはこだわりを持たないのがエグゼクティブ層だ。その意識を持てるかどうかが、サラリーマン層との差かもしれない。

増渕氏はいう。「サラリーマン時代の私の上司や先輩には高価なシステム手帳を持ち歩く人がいましたが、今回のアンケートの対象になった方々にはシステム手帳を使う人はまずいません」。アイテムにこだわっているうちは、まだまだなのだ。

森本千賀子
リクルートエグゼクティブエージェント・エグゼクティブコンサルタント。1993年以来、2000人以上の転職支援に携わる。2012年、NHK「プロフェッショナル.仕事の流儀.」に出演。『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』など著書も多い。
 
増渕達也
ルート・アンド・パートナーズ代表取締役。東京大学卒業後、電通入社。2006年から現職。「ハイネットワースビジネス診断士」、「ハイネットワース相談士」資格を創設、内外から注目を集めている。