感情移入する力を身につけるのは簡単ではないが、この能力を持っていなければ営業担当者として成功することはできないと言っても過言ではない。

感情移入という言葉が頻繁に使われる職業は医師だろう。最近は患者の意思や感情を配慮して治療するインフォームドコンセントが重視されている。しかし、こうした考え方は「相手を理解する」という段階にとどまっている。

ビジネスにおける感情移入とは、単に相手の気持ちを理解するだけでも同情するだけでもない。顧客にイエスと言わせるために一歩踏み込んだアクションが必要なのだ。営業担当者は、相手を理解するだけでなく顧客と同じ視点で「どうすれば一番よい状況になるのか」を考え、実行に移さねばならない。

そこで一見漠然としている「感情移入力」を、ここでは以下の5つに分類して紹介する。

専門知識と「売るための情報」の違いは何か

なぜ、感情移入をするために知識が必要なのか。

その理由は、知識がないと相手を理解することができないからだ。ほとんどの営業担当者は経営者になったことも、購買担当者になったこともない。顧客の業界や業務も経験したことがないケースがほとんどである。

自分が経験したことのない職業や立場の人たちは、日々どのような仕事をしていてどんな優先順位で物事を判断しているのか。そうした基本的な知識を持っていないと、相手の話を理解できない。話を理解できなければ感情移入は不可能である。

もう一つの理由は、何も知らない人とは会話が発展しないからだ。これは顧客の視点で考えてみるとよくわかる。

「知らないので教えてください」

会話の途中でそう言う営業担当者に対して、抱えている問題や悩みを相談したいとは思わないだろう。人は一定の知識がない相手とは話をしたくないものだ。ましてビジネスに関する基礎的な知識がなければ、「語るに足る相手ではない」と判断されても仕方がない。

ただし営業担当者に必要な知識は、技術者に要求されるような専門的な知識ではない。必要なのは、顧客と具体的な話ができるレベルの基礎的な知識だ。

たとえば、あなたが時計を販売しているとする。技術者には壊れた商品を修理できるだけの知識が必要だが、営業担当者にはその時計の使い方や日常のメンテナンス方法など、顧客が使用するための知識が求められる。

同じ業界で働いたことがないとしても、顧客を知り、顧客に関する知識を身につけるためには、3つのポイントがある。

1つ目は「全体像」の把握だ。

社会科のカリスマ塾講師によると、歴史の平均点を一気に引き上げるには、先史時代から現在にいたる年表をつくり、歴史全体における個々の事件や出来事の位置づけを俯瞰しながら教えていくことが有効だそうだ。

この考え方は営業に必要な知識を習得する際にも有効である。

2つ目は「関連性」の把握である。その知識自体は間違いではなくても、ほかの要素との関連性を見てみると間違っていることがよくある。

たとえば親会社主導で経営改革に取り組んでいるという企業では、方針が現場に浸透せず、実際には社員が反発して何も実践されていないことがある。あるいは商談の際に部長と課長が同席していても、実は経営層に対する発言権を課長のほうが持っている、ということがある。

こうした場合、両者の関連性を把握していなければ、地雷を踏んでしまいかねない。関連性がわかっていれば、よりふさわしい提案の切り口を見出すことにもつながる。

3つ目は「相違点」の明確化だ。「顧客がいま使っている商品と自社の商品は何が違うのか」「導入した場合としない場合ではどう違うのか」など相違点を対比させるようにする。対比しながら商品知識を身につけると、各商品の特徴をより明確にとらえられるメリットもある。

顧客は比較によって価値を測る習慣が身についている。個人も法人も、比較検討してから購入を決定する時代、比較の視点を持たないと顧客の気持ちは理解できないのだ。